猪瀬直樹氏に直撃インタビュー「今の自分が5年前より若くなった」理由


東京都がマドリード、イスタンブールと熾烈な競争を繰り広げている「2020年夏季オリンピック」招致レース。開催地の最終決定は2013年9月だが、選考の大きな判断材料となるIOCの支持率調査が年明けにも実施されるのではないかとも言われており、長きにわたる招致レースもいよいよ最終局面へと差し掛かっている。







今回は前東京都副知事で作家である猪瀬直樹氏にお会いし、オリンピックに関してだけでなく、65歳にして東京マラソンを完走した猪瀬氏自身とスポーツ、さらにはスポーツとマネジメントの関係についてもお話していただいた。猪瀬氏のマネジメントについての考えは新著『解決する力』(PHPビジネス新書)に詳しい。



――2020年のオリンピック開催を目指している東京都ですが、1964年に続く二度目の5輪の意義についてどのようにお考えですか?



前回の東京オリンピックの当時、日本は新興国でしたからね。一般にオリンピックは新興国のためのイベントと考えられがちだけど、2020年は成熟した先進国としてのオリンピックとして意義があると思いますね。2012年のロンドンも成熟した都市ならではのコンパクトな大会を成功させました。



――1964年に開催された東京オリンピックの思い出を聞かせてください。



当時、家電メーカーが「東京オリンピックをカラーテレビで見よう」と宣伝していてね、僕はカラーテレビが買えなくてモノクロでしか見れなかったんだけど、翌年、市川崑監督の記録映画『東京オリンピック』を見たんですよ。



市川崑独特の映像で切り口が面白かった。あれを見てオリンピックってすごいなと思ったね。選手だと、マラソンで金メダルをとったエチオピアのアベベ。彼はね、1960年のローマ5輪に続いて東京で二連覇したんですよ。僕はアベベにあこがれて、中学校でマラソン走ったんだよな。



――猪瀬さんがアベベにあこがれておられたとは初めて伺いました。学生時代から走るのは得意だったんですか?



もともと、短距離は得意だったんだけどね、中学の時に運動会の種目にマラソンができたんだ。有志で生徒120人ぐらいが走ったのかな。アベベが好きだったから自分も参加した。観客がいるなかグラウンドをぐるっと一周して出て行って、カッコいいんだよね。



でも、学校を出るといきなり上り坂なんだよ。山の方に2キロ登って、2キロ下ってくるの。グラウンドから出たらすぐに息がゼーゼーなっちゃってさ。で、やっとゴールしたら92番だったんだよね。最初の何十人かは、帰りもグラウンドを回ってゴールして拍手で迎えられるんだけど、次の競技が始まってるから遅い人は校門がゴールなんだよ(笑)。二度とマラソンなんかやるかと思ったね。



――東京マラソンを完走された猪瀬さんに、そんなマラソンに関する過去があったとは!



走り方をロクに知らなかったんだよ。ひざを上げると短距離の筋肉を使うから酸素が余計に必要なのね。でもひざを上げずに走ると長距離の筋肉しか使わないから非常に楽なの。そういえば、あの時はひざを上げてたんだよな。



アベベ選手はひざを上げてなかったかもしれないけど、そのたった一つの理屈を中学の僕は知らなかった。スポーツってやっぱり方法論だから、ちゃんとしたトレーニングさえすればできるんだ。それを知って僕は65歳で東京マラソンに挑戦したんだよ。中学生以来の(笑)。スポーツに大切なのは、トレーニングと目標を設定する事なんだよね。



――東京マラソンにチャレンジされる際はトレーニングのほか、どんな準備をされたんですか?



まず僕は5キロを40分で走る事ができると思っていたんだけど、そこで考えたんだよ。フルマラソンの距離は5キロの9倍強で、40分の9倍は360分だから6時間強だと。



計算してみて、これなら制限時間の7時間に間に合うじゃんかと思った。実際に走る時も、5キロ走るごとにある関門をきっちりクリアしていくって事を心がけたんだよね。これは目標管理、つまりマネジメントの問題なんだ。



――マネジメントについて詳しくお聞かせください。



マネジメントって、基本的にはゴールのイメージとリスク管理だね。僕は『ミカドの肖像』が初めての長期連載だったんだけど、どうやってペース配分するかって時にもやっぱり先が見えてないわけですよ。でもゴールのイメージさえあればなんとかなるだろうと思った。



作家にとっての連載もリスクで、どこかでリスクを徹底管理する必要がある。なかには連載の途中で書けなくなる人もいますからね。もっともリスクはリスクだから失敗もあるという事が重要なんだね。そもそも全部予定調和で出来上がっていたらチャレンジじゃないよね。



それはスポーツでも作家の連載でも同じ。だからスポーツから学ぶ事はたくさんあるんですよ。スポーツにはゴールがあり、勝つか負けるかというのがあるから。人間は常に新しい形で物事を更新できるって事もね。



――いま猪瀬さんはどんなペースでスポーツをされているんですか?



前からテニスは週一でやっていたけど、いまは月間80キロ走るようにしています。走った場所の地図と走った距離は全部iPhone5のアプリにデータで記録されるようにしてある。この二年ぐらいマラソンをやってたらね、テニスのフォアの音が全然違ってきたの。うまいやつって打つ音が違うでしょ。僕もいい音が出るようになった。足に筋肉がついてくると自然に踏み込みが良くなるんだよなあ。



――大変、ぶしつけなお願いなんですが……。猪瀬さん、ふくらはぎを触らせていただいていいでしょうか?



ああ、いいよ。



――(右足ふくらはぎを触らせていただき)猪瀬さんのふくらはぎ、本当にカチカチですね!!



鍛えてるでしょ。そういえば僕この前、運転免許証を更新したんですよ。そうしたらさ、5年前の写真と比べて5年後の現在のほうが若いのね。



やっぱりスポーツの素晴らしい所ってね、いま生きていろんな空や風景や星とかいろんな物を見たり、味わう時間を長くできる事だよね。それがスポーツによって実現されるわけですから。

(このインタビューは2012年11月26日に行いました)

(インタビュー・文/本折浩之)