崩落し、骨組みのみになったイオンモールの2階部分

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 熊本を襲った最大震度7の大地震。家屋の倒壊や高速道路の崩壊、工場の煙突崩落など、甚大な被害をもたらしているが、とくに衝撃的だったのが、「イオンモール熊本」でのガス爆発事故だった。「防災拠点」でもあった大型ショッピングモールでなぜこのような悲惨な事故が起きたのか。取材を進めると、地震に対して大きなリスクを抱える施設の特性が浮かび上がってきた。

【写真】大きく白い煙が立ち上る イオンモール熊本が爆発した瞬間

「ガスの臭いで慌てて逃げた」

「イオンモール熊本」の向かいにある洋菓子店店員は爆発の瞬間をこう振り返る。

「大きな揺れでうちの店もぐちゃぐちゃになりましたが、1時間ほどして落ち着いた頃に、いきなり『ドコーン!』という耳の鼓膜が破れるかと思うくらいの地響きが起きました。"また地震か?"と思って向かい側のイオンモールを見たら白い入道雲のような煙が出ていた。この世の光景とは思えませんでした」

 巨大地震がまたも火の国を襲ったのは7月28日午後4時27分ごろのことだった。熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生。最大震度7の地震によって高速道路の隆起や工場の煙突の崩落、家屋の倒壊などが相次ぎ、大規模な停電が生じて9000人以上の住民が避難した。

 200人を超える死者を記録した2016年4月の熊本地震以来の大きな揺れは地域に衝撃を与えたが、本当の恐怖が到来したのは地震発生からおよそ80分後だった。同県嘉島町の大型商業施設・イオンモール熊本で突如として大爆発が起こって建物が陥落し、従業員ら20〜30人が安否不明となった。

 モールの近くで車を停めていた男性はこう証言する。

「ドラム缶の空気が膨張して爆発したような轟音がとどろいて、開けていた車の窓から一瞬で灰がバーッと入ってきました。すぐに視界が真っ白になってガスの臭いがしたので慌てて裏道に逃げて難を逃れたけど、あのまま灰を吸い込んでいたら命が危なかったかもしれません」

 イオンモール熊本は東京ドームが5個ほど入る広大な敷地内に保育所やペットショップなどを含む約160の店舗が出店する。夏休みということもあり、地震発生時には多くの家族連れの姿がみられたが、地震後、店内に流れたアナウンスを受けて来店客は建物外へ次々と避難した。

 現場の状況について、地震発生時にモール内の映画館にいた20代女性がこう語る。

「地震が起きたのは人気キャラクター『ちいかわ』の映画の上映開始直前で、平日昼間なので観客は10人程度でした。揺れた後に館内が急に明るくなって天井から細かい破片がバラバラ落ちてくるのがわかり、スタッフに案内されて非常階段から建物外の駐車場に避難しました。イオンモールは3階建てで横に長い構造だから建物の外に出やすく、従業員の避難指示も迅速でスムーズに避難できました」

 駐車場が大渋滞だったので車内でしばらく待機していると、大きな爆発音がしてあっという間に煙が一面に広がった。

「それまで暑くて車に乗らず建物の陰で待機していた人たちが爆発音で一斉に逃げ始めました。私の車の近くに小学生くらいの子供と母親がいたので急いでドアを開けて『乗って下さい』と車内に避難させました。爆発の前に"もう買い物できるのかな"と思ったのか、駐車場からモールに戻った人も結構いたようなので巻き込まれなかったか心配です……」(同前)

車の窓ガラスが割れて天井がボコボコに

 爆発でモールの屋根は吹き飛んだ。2階部分が崩落して外壁が剥がれ落ち、鉄骨がむき出しになって床一面に資材が散乱した。人々は逃げ惑い、周辺は救急車やパトカーのサイレンが鳴り響いて騒然とした。

 衝撃のすさまじさを物語る光景を証言したのは、モールの駐車場で爆発に巻き込まれた60代男性である。

 この男性は地震後、モールの近くで働く妻を迎えるため、爆発が起きた南側中央付近に近い6番駐車場に停車した。車内で地震のニュースをスマホで見ていると、突然の轟音とともに目の前が白煙で包まれたという。

「壁材や瓦礫が飛んできて窓ガラスが割れて、車の天井がボコボコになりました。まさに爆撃を受けた感じで車内にはコンクリートやガラスの破片が散らばって手足に切り傷を負い、ここで死ぬんじゃないかと思いました」(60代男性)

 爆風が収まってから車の外に出ると、戦場のような景色が広がっていた。

「モールは外壁が全部吹き飛んで骨組みや鉄筋がむき出しになっていて、状況を理解しようとしても頭が追いつきませんでした。周囲のあちこちに大きな瓦礫が散乱し、国道に目をやると瓦礫が直撃したトラックが立ち往生していた。本当に大きな爆弾を落とされたかのようで、救急車が何台も来て負傷者を運び出していました」(同前)

 当時、モールの目と鼻の先の道路を走行していた福山通運の運転手も爆発の衝撃で負傷した。福山通運熊本支店長が語る。

「爆発時は窓を閉めていたのに右側の窓ガラスが割れて、白煙とセメントが流れ込むように入ってきました。当時の記憶はあまりないようで、頭部を出血し、さらに強い揺れで頭を強打していたようです。すぐに救急要請しましたが救急車が対応できる状況ではなく、現場にいた方が病院へ連れて行ってくれたようです」

 幸いにして、この運転手は軽傷で済んだという。

ガス漏れを防ぐタンクの遮断弁は作動したか

 イオンモール熊本は災害時に駐車場を避難場所にしたり、物資を供給したりする「防災拠点」となる協定を嘉島町と結んでいた。

 災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏はイオンの取り組みについてこう語る。

「10年前の熊本地震の際に格安の10円おにぎりを被災者に販売するなど、イオンモールは日本各地の防災拠点として役立ってきました。

 今回の爆発で来店客の被害を防げたのも、日頃から避難訓練を繰り返していた従業員が避難マニュアルに沿った適切な避難誘導をしたからと言えます」

 地震発生時、館内にいた約3000人の来店客は社内のマニュアルに沿った誘導で屋外に避難した。亡くなったのはその後の爆発時に館内にとどまっていた専門店の従業員だった。

 なぜ従業員は館内に戻ったのか――7月29日の会見でこの点を問われたイオンの吉田昭夫・社長は館内にいた理由は不明とし、「いったん避難した者は館内に入らないのがマニュアルのルールだった」と述べるにとどめた。

 イオンモール熊本は今年6月13日にリニューアルオープンしたばかりだった。

 なぜ最新の施設で凄惨な爆発事故が起きたのだろうか。識者が口を揃えて指摘するのは「LPガス(液化石油ガス)」が爆発した可能性だ。

 LPガスは石油ガスを液化したもので、空気よりも重く、漏れ出すと下に溜まる性質がある。このガスが地震の衝撃で漏れ出し、何らかの火種から引火して爆発した可能性が高いという。

 会見で吉田社長は、2005年のオープン当時からイオンモール熊本では、飲食店の調理や空調設備にLPガスを使用していることを明らかにした。ガスの供給タンクは最大9367キログラムのLPガスを収容できるもので、敷地外の道路沿いに備えられているという。

 吉田社長は会見でガス爆発が発生した可能性を認めつつ、「正確な情報は出ていないので推測では言えない」と語った。

 また供給タンクにはガス漏れを防ぐ遮断弁がついていることも明かしたが、元東京消防庁麻布署長の坂口隆夫氏は「今回の地震で遮断弁は作動しなかったのではないか」と指摘する。

「緊急遮断弁が稼働していればガスが止まって爆発を防げたはずです。ただしLPガスの遮断弁は震度5弱以上で作動するので、イオンモールの揺れが震度5弱未満だった可能性があります。もしくは遮断弁が故障していたのかもしれません」

 一方で、遮断弁の作動が間に合わなかった可能性を指摘するのは、関西大学社会安全学部特別任命教授の河田恵昭氏だ。

「通常、LPガスはタンクと配管を繋ぐ箇所に緊急遮断弁をつけるだけで、パイプの途中で止まる仕組みはかえって危険なので導入しません。しかも巨大なイオンモールはガスを供給するパイプラインも長くなり、地震発生後に遮断弁が作動しても長いパイプにはすでにガスが充満しており、揺れによって配管や接合部分が損傷して内部のガスが漏れた可能性があります。イオンモールがパイプ類をどのように配置していたのか、今後の検証が必要でしょう」

すぐに作動する予備電源に潜む"落とし穴"

 漏れ出したガスが爆発するには一定の濃度が必要となる。LPガス安全委員会のHPによると、プロパンガス(LPガス)が空気と混ざり、空気中の濃度が2.1〜9.5%になるとガスは燃焼・爆発するため、同HPは、「LPガスが漏れた場合、少量でも爆発の危険性があります」と警鐘を鳴らしている。

 わずかな量でも爆発に至るため、人間の嗅覚で気づくことができないこともある。

 今回の爆発の大きな特徴は地震直後に起きたのではなく、約1時間20分後に生じたことだ。それは、地震発生からガス漏れ、ガスの滞留、引火という一連のプロセスを経るなかでタイムラグが生じたからと考えられる。

 そして、爆発に至る最後の一押しの「引火」はわずかなきっかけで生じる。

「コンロの火などわかりやすい発火物に限らず、食材を温かくするヒーターのような器具から熱が伝わって引火するケースもあります」(河田氏)

 今回の爆発事故の引火のきっかけは判明していないが、地震でダメージを受けた電気系統の火花など様々な可能性が考えられるわけだ。

「漏れて滞留したガスは何らかの電気器具を通じて引火するケースがよくみられます。大規模な施設では停電するとすぐに予備の電源が作動して便利ですが、その裏には落とし穴があるわけです。本当はガス漏れの可能性が生じたら停電する仕組みのほうがいいとも考えられる」(河田氏)

 今回の事故を通じて、地震に際して爆発のリスクが生じる施設の特性も浮かび上がってくる。

 河田氏はこう指摘する。

「大型商業施設のように長いパイプを使う場合、緊急遮断弁が正常に作動してもパイプからガス漏れが生じるリスクがあります。また、ガスの配管が建物内部を通る部分が多く、建物内に中庭をつくるなど換気機能をよくしてガスを外に逃せるオープンな構造の商業施設でない場合は、リスクは増すと考えられるでしょう。

 大型ショッピングモールの建物の構造はかなり似通っています。今回の事故は全国どこのショッピングモールでも起こり得ると想定する必要がある。徹底的な原因究明とともにパイプからのガス漏れがあった場合にそれをすぐに検知し、対応できるようなシステムの構築など、早急な対策が欠かせません」

 個人の側の目線に立って考えれば、大規模な商業施設の持つ脆弱性を理解したうえで、そこで地震に遭遇した場合は迅速に避難するとともに、揺れが収まったからといって安易に施設に戻らないといった認識を徹底させる必要があるだろう。

 全国津々浦々でショッピングモールの恩恵を受けられる時代に起きた衝撃的な爆発事故。そこから私たちは、日常に潜む重大なリスクを認識すべきなのだろう。

※週刊ポスト2026年8月14・21日号