「申し訳ないのですが…」年金12.5万円の80代母を老人ホームに預けた55歳長女。〈終身契約〉なのに入居6ヵ月で母が追い出されたワケ…施設職員が言いにくそうに告げたひと言【社労士FPが解説】
近年多様化が進む「老人ホーム」のなかには、看取りまで対応できる「終身契約」を選べる施設も存在します。しかし、終身契約だからといって「100%安心」とは言い切れません。予想外の理由から、退去を求められるケースもあるようです……。本記事では、55歳Aさんの事例から、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が、老人ホーム選びにおける注意点について解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
両親の介護をきっかけに夫とすれ違い…数年前から生活が激変したAさん
55歳のAさんは、2人姉妹の長女です。大学を卒業後実家を出て、大手企業に就職。30代前半で結婚し、子どもにも恵まれ、幸せに暮らしていました。
しかし数年前から、その暮らしに大きな変化が。高齢の両親に、介護が必要になったのです。
両親は、Aさんの自宅から車で5分ほど離れた戸建てに暮らしていました。もともとは脳梗塞で倒れた父を母が介護していたのですが、ある日そんな母が家のなかで転倒し圧迫骨折したと連絡が入りました。妹は海外で暮らしていることから、両親の世話は必然的にAさんが担うことに。「とりあえず母のケガが治るまで」と、介護制度や有給休暇を使いながら奮闘していました。
とはいえ、Aさん一人が2人分の介護をこなすのは容易ではありません。夫に「手伝ってほしい」と助けを求めましたが、夫は「仕事が忙しい」と取り合ってくれません。親の介護をきっかけにすれ違いが多くなり、1年後に離婚してしまいます。
そんな折、父が他界。Aさんの子どもはすでに独立し家を出ていることから、Aさんは実家に戻り、母と2人の生活になりました。
母の「ボヤ騒ぎ」で決意した「老人ホーム」への入居
骨折から2年が経つころには、母は日常生活の多くを自分でこなせるようになっていました。
母自身は、体の痛みが残って思うように動けない自分への歯がゆさと、父を失った喪失感から弱気になっていましたが、介護と離婚が重なり経済的にも厳しい状況だったことから、Aさんは正社員に戻ることに。もともと大手企業の総合職で働いていたため、即戦力として復帰が叶いました。
そんな矢先、思わぬ事件が起こりました。Aさんが仕事で家を空けていたある日、母が自宅でボヤ騒ぎを起こしたのです。今回は大事には至りませんでしたが、「母を一人にしてはおけない。かといって、仕事を辞めるわけにもいかない」と、Aさんは母のために老人ホームを探すことにしました。
55歳になったAさんの月収は40万円、母の収入は老齢年金と父の遺族年金と合わせて150万円(月額12.5万円)です。入居が長期化すると家計への負担が大きくなることを予想し、できるだけ限られた予算のなかで母が安心して過ごせる施設を探しましたが、条件に合うところがなかなか見つかりません。
結局、Aさんの給与から10万円ほど持ち出すことで、自立型の有料老人ホームへの入居を決めます。なお、老人ホームに入居するにあたり、母は「要支援1」の認定を受けました。老人ホーム探しの大変さを痛感したAさん。母にも何度も環境を変えさせることは酷だと、終身契約の老人ホームを選びました。
「申し訳ないのですが」…施設職員の“ひと言”に途方に暮れるAさん
入居手続きを済ませ、Aさんはひと安心。それからはときどき母の様子を見に行きながら仕事に集中する日々を送っていましたが、老人ホームに入居してから6ヵ月ほど経過したある日。Aさんは施設職員から呼び出されました。
「お母様のご様子について、至急ご相談したいことがあるのですが……」
聞けば、母は認知症を発症しているといいます。Aさんが認識していたのは物忘れ程度で、てっきり加齢によるものかと思っていましたが、認知症の症状だったようです。施設に入居後症状が悪化し、ほかにも口調がキツくなる、徘徊するなどの行動がみられることから、施設職員は言いにくそうに、Aさんへこう報告しました。
「申し訳ないのですが、お母様には医療的なケアが必要で、当施設での対応は難しい状況です」
「そんな……。ここは、終身契約のはずでは?」とAさんは食い下がりましたが、医療ケアが必要な状態になるとこの施設では対応できないという契約だったと告げられ、母は入居からわずか半年で退去することに。再度介護認定を受けると「要介護1」となり、ケアマネジャーからは認知症対応型のグループホームに移るよう提案を受けましたが、Aさんの母は「グループホームは絶対に嫌」となかなか聞き入れてもらえません。
お互いが楽になるために「終身契約」を選んだはずが、持ち出した費用の負担は大きく、今後の生活設計の見通しも立たず、Aさんは途方に暮れています。
確約されているわけではない…「終身契約」の“落とし穴”
本事例においてケアマネジャーが提案した「認知症グループホーム」は、「認知症対応型共同生活介護」として、少人数(5人〜9人程度)の利用者がサポートを受けながら共同生活を送る形態のことをいいます。
食事の支度や掃除、洗濯などの日常生活行為を利用者やスタッフが共同で行うことにより、認知症状が穏やかになり安定した生活を実現することができます。入居にあたっては、医師による認知症の診断、要介護1以上(または要支援2)、そして施設と同じ市区町村に住民票があることなどが主な条件です。
終身利用の老人ホームを選んだAさんですが、決して確約されているものではなく、病状の悪化や医療行為の依存度によって住み替え等が必要になり、想定より早く退去することもあります。
いまは元気でも、入居後になにが起こるかわかりません。住み替えの可能性や費用負担の変化について、入居前にあらかじめシミュレーションを行うことが大切です。
〈参考〉
・厚生労働省「有料⽼⼈ホームの現状と課題について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001592455.pdf
三藤 桂子
合同会社ミコサポに
代表

