<プーチンも真っ青>「技術的にはサハリンも攻撃できる」ウクライナ当局者が明かした“ドローン戦争”の現実…戦争の影響はついに日本にも【2026 集英社オンライン上半期 国際情勢 5位】
2026年度に反響の大きかった国際情勢記事ベスト5をお届けする。第5位は、ウクライナ当局者が明かした“ドローン戦争”の現実に迫る記事だった(初公開日:2026年7月10日)。
【画像】「昼間に開けた場所へ出るのは自殺行為」ロシア・ウクライナ戦争で最も多用されているFPVドローン
「前線から数千キロ離れていても、安全とは言えない」。ウクライナ当局者は取材に対し、「技術的にはサハリンも攻撃できる。やっていないだけだ」と明かした。ドローンは戦車だけでなく、航空基地や製油所、エネルギーインフラまで攻撃対象に変え、戦争の常識を塗り替えた。その変化は、日本が依存するサハリンの天然ガス事業も決して例外ではない。ロシア、ウクライナ双方の当局者への取材から、「ドローン戦争」が突き付ける日本への新たなリスクを検証する。
「昼間に開けた場所へ出るのは自殺行為」
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は戦争の姿を大きく変えた。開戦当初、戦場の主役は戦車やロケット砲、軍用機だった。しかし今、戦況を左右するのは無人機(ドローン)だ。
数百ドルから数千ドルで製造できる小型機が数百万ドルの戦車を壊し補給路を寸断する。さらに数千キロ離れた航空基地や製油所まで攻撃対象となり、「前線」と「後方」を分けてきた従来の戦争観は揺らぐ。
ウクライナ軍の内部推計では、2024年のロシア兵への攻撃の69%、車両・装備への攻撃の75%をドローンが占め、砲撃を大きく上回った。機体のカメラ映像をゴーグルなどで見ながら、目標へ突入させる一人称視点(FPV、First Person View)ドローンが支配する前線では「昼間に開けた場所へ出るのは自殺行為」との声も聞かれる。
戦争の長期化とともにドローンは「目」から「武器」へ
戦争の姿を変える一つの転機となったのが、2025年6月の「クモの巣作戦」だった。ロシア国内に秘密裏に持ち込まれた小型ドローンが戦略爆撃機を破壊し、ウクライナから遠く離れた深部は安全、との神話を覆した。
ウクライナはなぜ軍事大国ロシアを相手に、ここまでドローンを使いこなせるようになったのか。戦場では何が起きているのか。そして、この戦争は日本の安全保障に何を問いかけているのか。ロシア、ウクライナ双方の当局者への取材を基に「ドローン戦争」の実像を読み解く。
侵攻が始まった2022年2月、ドローンは敵情を探る偵察手段だった。砲兵の着弾を観測し、映像を基に砲撃を修正する空飛ぶ双眼鏡のような存在だった。
しかし、戦争の長期化とともにドローンは「目」から「武器」へと変貌する。ロシアは2022年秋、イラン製の自爆型無人機「シャヘド」を本格投入してキーウなどウクライナ各地への攻撃を強化。
ウクライナ軍とロシア軍がにらみ合うウクライナ東部の前線では、電波妨害を受けにくい有線型のFPVドローンが戦場を支配するようになった。
前線では双方が1日に数千機規模のドローンを飛ばし
現在の前線では、双方が1日に数千機規模のドローンを飛ばしている。上空には偵察用や攻撃用のドローンが絶えず飛び交い、兵士が姿を見せればすぐに位置を特定される。
特に危険な前線付近の20~40キロのエリアは「キルゾーン」と呼ばれ、戦車や歩兵による突破は極めて難しくなった。道路には対ドローン用の防護網が張られ、車両の残骸が散乱する。負傷兵の後送や弾薬輸送まで、あらゆる行動が空から監視され、また攻撃され得る。
ウクライナはスタートアップや民間企業を巻き込み、人工知能(AI)による目標認識や電子戦対策の開発を急速に進めた。
政府系防衛テック組織「Brave1」を中心に、前線で得られた教訓を短期間で改良し、量産へ結び付ける仕組みを築き上げた。前線と開発現場が直結する戦場のイノベーションが、軍事大国ロシアと渡り合う原動力になっている。
2025年6月1日の「クモの巣作戦」が覆したのは、「長距離攻撃能力は航続距離で決まる」という従来の常識だった。
ウクライナ保安局(SBU)は約1年半をかけ、爆薬を搭載した小型FPVドローンをロシア国内へ秘密裏に運び込んだ。トラックを航空基地の10キロ圏内まで移動させ、荷台に載せた小屋の屋根を遠隔操作で開き、ドローンを発進させた。
距離がもたらす安全を崩した転換点
ゼレンスキー大統領によると、投入されたドローンは117機。北極圏から東シベリアにかけて複数の航空基地がほぼ同時に攻撃され、ウクライナへの長距離攻撃に使われてきたTu-95戦略爆撃機やTu-22M3超音速爆撃機などが被害を受けた。
比較的航続距離の短い小型ドローンでも、目標近くまで運び込めば、遠く離れた戦略拠点を攻撃できることを実証した。SBUはロシアの電波環境やGPSの妨害状況も事前に分析。奇襲を受けたロシア側は即応できず、防空態勢を整えることができなかった。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、この作戦を非対称戦の新たな到達点と評価した。数百ドルのドローンが数千万~数億ドルの航空機を無力化しただけではない。「どこまで飛ばすか」ではなく、「どこから飛ばすか」という発想によって、距離がもたらす安全を崩した転換点となった。
もっとも、こうした大胆な特殊作戦は容易に再現できない。一度警戒されれば、同じ手法を繰り返すことは難しいからだ。
西シベリアの「安全圏」にも戦争が及んだ
ウクライナはその後、長距離ドローンの航続距離を延ばし、ロシア深部への攻撃を続けた。狙いは燃料や弾薬、航空戦力を支える後方拠点をたたき、戦争を継続する能力そのものをそぐことだ。
航続距離約2000キロ超の「リューティ」や、量産型長距離ドローン「FP-1」などを投入し、攻撃範囲を東に広げた。
象徴的だったのが、2026年7月のオムスク製油所への攻撃だ。西シベリア・オムスク州にある同製油所は、ウクライナ側支配地域から約2700キロ離れ、年間約2200万トンを処理するロシア最大級の施設。
航空燃料やディーゼル燃料を生産し、ロシア軍の兵たんを支える重要インフラでもある。交流サイトには黒煙を上げる製油所の映像が相次ぎ、「安全圏」と考えられていた西シベリアにも戦争が及んだことを印象付けた。
ロシア後方への攻撃は、この1年で急増している。ウクライナによるロシアの製油所への攻撃は2026年に入り少なくとも194件に上り、前年同期の約11倍となった。5月には攻撃成功数が月間16件と過去最多を記録。ロシアでは燃料不足が深刻化した。
標的は製油所だけではない。航空基地や弾薬庫、防衛産業施設、石油積み出し港へと広がり、戦いの重心は前線での領土争いから、ロシアの兵たん・エネルギー基盤を揺さぶる後方攻撃にも移りつつある。
「技術的にはサハリンも攻撃できる。やっていないだけだ」
オムスク攻撃と同じ日には、さらに東のノボシビルスク州で初めて無人機飛来警報が発令された。実際の攻撃は確認されなかったものの、「シベリアは安全」という認識は崩れ始めた。
攻撃そのものだけでなく、防空部隊を広大な国土へ分散させることも、ウクライナ側の狙いとみられている。
オムスク攻撃の翌日、ウクライナ治安当局者に「攻撃範囲をどこまで広げるのか」と尋ねた。
「技術的にはサハリンも攻撃できる。やっていないだけだ」
6000キロ以上離れたサハリンをどう攻撃するというのか。さらに「サハリン2は『安全』なのか」と聞くと、当局者は「重要なのは、どこまで飛ぶかではない。どこから飛ばすかだ」と答えた。
サハリンには、日本の三菱商事と三井物産が参画する液化天然ガス(LNG)事業「サハリン2」がある。日本の主要なLNG調達先の一つだ。
ロシア政府関係者は「日本との重要プロジェクトであるサハリン2を、ウクライナが攻撃することは考えられない」と一笑に付した。
ロシアドローンを操縦する北朝鮮兵
一方、ウクライナ側の発言は、地理的な距離だけを理由にサハリンを「聖域」とみなすことはできないとの認識を示している。
もちろん、現在のドローンがウクライナからサハリンまで直接飛行できるわけではない。しかし、クモの巣作戦が示したのは、「遠いから安全」という考え方そのものが通用しなくなったという現実だ。
機体を目標近くまで運び、現地協力者や遠隔通信網を組み合わせれば、後方深くの基地や重要インフラも攻撃対象になり得る。仮にサハリンのLNG拠点が攻撃されれば、ホルムズ海峡で混迷を極める日本のエネルギー事情が、更に混乱する可能性が高い。
日本との関係では、もう一つ見逃せない動きがある。ロシアと北朝鮮の軍事協力だ。
ウクライナ軍の内部文書は、北朝鮮の技術者がロシア中部タタールスタン共和国エラブガの無人機工場で、イラン製無人機「シャヘド」を原型とする攻撃型ドローンの生産に関わっていると分析している。
機体の組み立てだけでなく、生産管理や運用技術も習得し、量産のノウハウを北朝鮮へ持ち帰ろうとしているという。
実戦経験も蓄積されつつある。北朝鮮兵約1万人は表向きにはロシア西部クルスク州で国境警備に当たっているとされる。しかし、ウクライナ当局によると、一部はクルスク州からウクライナ北東部スムイ州に向けて無人機を運用し、ウクライナ軍陣地の偵察や攻撃の照準支援に加わっている。
ウクライナ側が入手したFPVドローンの映像データを解析したところ、操縦に関与したとみられる北朝鮮人オペレーターの姿が記録されていたという。
もし北朝鮮兵が技術を自国に持ち帰ったら…
さらに、ウクライナ情報機関が傍受した通信アプリ「テレグラム」のやりとりでは、ロシア軍将校と北朝鮮兵がロシア語とハングルを自動翻訳しながら、作戦上の指示や報告を交わしていたことも確認された。前線では、ハングルで記されたロシア兵器の使用マニュアルも見つかっている。
北朝鮮兵は歩兵として戦うだけではなく、ロシア軍の無人機運用に組み込まれ、現代戦の実戦経験を積み始めている。
こうした経験が朝鮮半島へ持ち帰られれば、日本も無関係ではない。ロシア政府関係者は「北朝鮮が400~500機規模の無人機を日本へ同時に飛ばした場合、全てを迎撃することは極めて難しい」との見方を示した。
日本は弾道ミサイルや巡航ミサイルへの防衛体制を強化してきたが、小型無人機による大規模な飽和攻撃は十分に想定されていないとみている。
ウクライナで現在進行する「ドローン戦争」が示したのは、新たな兵器の登場だけではない。前線から数千キロ離れた航空基地や製油所、発電所も、目標近くから無人機を発進させれば攻撃対象になり得るという現実だ。そして、その変化は日本の安全保障にも新たな課題を突き付けている。
文/東銀座コンフィデンシャル 写真/shutterstock

