1977年のニューヨーク大停電の原因は、ボタンの押し間違え。「自分のせい」だと思い込んでいた意外な人物とは
思い込みや確認不足などによって起こる「凡ミス」。誰にでも起こり得る可能性があるものですが、歴史を辿ってみると、たった一つの小さな「凡ミス」で世界を大きく変えてしまった人たちがいます。そこで今回は、クイズ作家・近藤仁美さんの著書『世界を変えた「凡ミス」図鑑:昔の人たち、やらかしすぎ!』から一部を抜粋し、笑えないけど笑ってしまう、歴史的「凡ミス」をご紹介します。
【書影】笑えないけど……笑っちゃう!! 読めば元気になれる、新しい「人生の授業」近藤仁美『世界を変えた「凡ミス」図鑑:昔の人たち、やらかしすぎ!』
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ボタンを押し間違えてニューヨーク大停電
コンソリデーテッド・エジソン社
文明社会で暮らす人間は、日々色々なボタンを押し間違える。エレベーターに乗りたそうな人が来たので「開」を押したつもりが「閉」でトドメを刺したり、自動販売機のホットコーヒーであったまるつもりが真冬にアイスコーヒーを飲むことになったり。
――次、止まります。
バスの降車ボタンを押して「これで安心」と身支度を始めたら、「僕が押す♪」とスタンバっていたらしいお子さんが泣きそうになっていた。……いや、ごめんて。合っているのに、最高に間違ったボタンを押してしまった。
このように日常用のボタンなら、押し間違えても、ちょっと不自由だったりそこそこ肩身が狭かったりで済むのだが、非常用のボタンを誤ると、かなりの惨事になる。
そんな出来事が、1977年7月13日、アメリカのニューヨークで起きた。
経験豊かだからこそ
この日、ニューヨーク州は雷が激しかった。
20時37分以降、変電所や送電線施設に複数回の落雷があり、ニューヨーク市内に向かう送電線5本のうち、3本がダメになってしまった。残りの機能に負荷がかかりすぎると、送電システムが停止しかねない。
そこで、電力会社の統括団体の人から、大手電力会社コンソリデーテッド・エジソン社の社員に、システムの負荷を軽くする処理が要請された。
電話を受けたのは、ベテランの社員だった。「それなら安心だ」と言いたいところだが、経験豊かだからこそ、かえって慢心があった。
統括団体から要請された処理は、電気の供給側にとっては、できれば避けたいものだった。というのも、一部の地域をあえて停電させてシステムを守るという方法なので、あとで苦情や責任問題に発展しかねない。
(なんで俺が当直の日に……)
余計なことをして怒られるのは、まっぴらだった。そこで、統括団体の人には「やります」と言いながら、実のところのらくらかわしていた。
しばらくして、また電話がかかってきた。
再度処理を急かされたが、ここでもまたしらを切った。もっといえば、計画的に停電を起こそうにも、そのための人員がいなかったのだ。原因は、勝手な自己判断。このベテラン社員は、緊急要員として控えているはずのスタッフを、家に帰してしまっていた。
さて、天気は荒れ続けるが、必要な処理はいっこうに行なわれない。
わかんないけど、たぶんこう!
統括団体の人は、もはやキレていた。のらくら社員を「こいつはダメだ」と諦め、彼の部下にあたる若者に連絡した。
「かくかくしかじかで、さっさとやってください!!」
電話口の剣幕に、真面目な若者は焦ってしまった。
とにかく処理しようと操作パネルの前に行ってみたが、緊急時の対応なんてまだ習っていない。
そもそも、どのボタンをどの順番で押すんだろう。
うーん。うーん……。
そうこうしているうちに、電話の向こうの声はさらにヒートアップした。
ものすごく急かされ、慌てた若者は、
(わかんないけど、たぶんこう!)
と間違ったボタンを押してしまった。
かくして、
ニューヨークは暗闇に包まれた。
ニューヨーク民、たちまち暴徒化する
時刻は21時過ぎ。まだ人が活動している時間で、季節は真夏。冷房が止まり、暑さに耐えかねた人々は街に出て、思いおもいに過ごした。
地下鉄から避難したり。

(写真提供:Photo AC)
仲間と歌を歌ったり。
盗みに入ったり(!)。
停電していたのは、地域によって5時間から10時間なのだが、その間に1616もの店が襲撃され、3776人の逮捕者が出た。
被害総額は、約3億ドル(330億円)にものぼるといわれる。のらくら責任回避のつもりが、とんでもない事態に陥ってしまった。
市内では映画撮影中
なお、停電が起こったとき、ニューヨーク市内では翌年公開の映画『スーパーマン』第1作の撮影が行なわれていた。スタッフの一人は、撮影用に街灯からこっそり電気を失敬しようとした。その矢先に、大停電。
――え、もしかしてオレのせい? 原因がわかるまでの数か月間、彼は自分が惨事を引き起こしたと思い込んでいた。
ちなみにこの人は、ジェフリー・アンスワースという。『2001年宇宙の旅』や『キャバレー』などの映画で知られ、アカデミー撮影賞を二度受賞した、腕利きの撮影監督だ。
映画といえば、かの有名な『メン・イン・ブラック』でも、この停電への言及がなされている。それによると、原因は「エイリアンのいたずら」。真夏の暗闇は、SFに取り入れられるほどニューヨーカーの心に強く印象づけられたようだ。
ところで、大停電を引き起こしたコンソリデーテッド・エジソン社は、現在も営業を続けている。当時と変わらずニューヨークに電気を届け、ガスや蒸気の事業も行なっている。
ただし、例の停電のあとには、複数の対策を講じた。少し例を挙げると、緊急時の詳細手順の決定、雷雨に耐えやすいシステム、スタッフの増強など。
その中にしれっと紛れ込んでいるのが、運用者の適性に関する試験だ。
あのベテラン社員の行動は、やっぱりダメだったらしい。
※本稿は、『世界を変えた「凡ミス」図鑑:昔の人たち、やらかしすぎ!』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
