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腰痛や猫背、尿漏れなど、年齢とともに気になる不調の背景には、体幹を支えるインナーマッスルの衰えがあるといわれています。「着物離れや生活様式の変化によって、インナーマッスルを使う機会が確実に減っている」と語るのは、山陰地方で呉服店「和想館」を営む和と着物の専門家・池田訓之さんです。かつての暮らしでは、日常動作そのものが「自然なトレーニング」として働いていたといいます。池田さんに、和装生活が身体にもたらす影響や、着物とインナーマッスルの関係について解説いただきました。*医療情報監修:大野原良昌さん(医学博士、母と子の長田産科婦人科クリニック・副院長)

なぜ多くの人が「着物は苦しい」と思い込んでいるのか?その背景に根深い「着付け問題」が…

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洋服は「固定」、着物は「包む」

足腰の痛み、猫背、尿漏れなどの悩みをネット検索すると、共通して「インナーマッスル」なる言葉に行きつくと思います。

2010年代から体幹のインナーマッスルトレーニングに注目が集まり、スポーツ選手以外の一般の方もスポーツジムに通うようになりました。ですが、わざわざトレーニングの時間をとらなくても、実は着物を着ているだけで身体は変わるのです。

洋服と着物とでは身体との関係性が根本的に異なります。洋服は曲線裁ちで身体の形に沿わせて仕立て、身体の動きをある程度「固定」してくれますが、着物は直線裁ちで身体を単に「包む」だけです。

この違いが身体の使い方に大きな影響を与えるのです。

体幹を安定させる4つのインナーマッスルとは

インナーマッスルとは、身体の表面ではなく、骨や関節の近くにある「深い位置の筋肉」(深層筋)のことをいいます。

力こぶをつくる上腕二頭筋や太ももの大腿四頭筋など身体の表面にある筋肉は、アウターマッスル(表層筋)と呼ばれていて、重いものをもつ、早く走るなど、動くための筋肉。

一方でインナーマッスルは関節を安定させたり、姿勢を保ったり、身体のバランスを整えたり身体の土台を作る筋肉なのです。

代表的なインナーマッスルとしては、次の4つが挙げられます。

1)お腹をコルセットのように巻く「腹横筋」

2)背骨を支える細かな筋肉である「多裂筋」

3)呼吸に関わる「横隔膜」

4)内臓を下から支える「骨盤底筋群」

この4種類の深層筋は、コア(体幹の安定装置)と呼ばれています。

それぞれが連動して空気の入ったタイヤや風船のように、腹部で圧力(腹圧)を作り、お腹の内側から膨らみ、背骨を点ではなく面で支えるのです。

これらのインナーマッスルがしっかりしていると、微細な揺れを吸収し、重力に対しても潰れなくなり、身体も安定します。

また、力が体中をロスなく伝わるので、動作の効率性が上がるでしょう。

さらに、身体を細い腰椎だけで支えるのではなく、太い筒状態で支えるので、腰への負担も軽くなります。

現代生活で減る筋肉の出番

コアなる4つのインナーマッスルは、次のような動作をするときに主に使われます。

・お腹のコルセットの役割を果たす「腹横筋」は、お腹を軽く締めたり、丹田に力を込めたりするとき。

・背骨を一つ一つ支える「多裂筋」は、ゆっくりとした動きやぶれない動きをするとき。

・呼吸の要である「横隔膜」は、深い呼吸をするとき。

・内臓を支える「骨盤底筋群」は、姿勢を正して立つ動作のとき。

ところが、私たちの日常には無意識のうちに身体を支える仕組みで溢れています。


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たとえば椅子やソファは、筋力を使わなくても身体の形を支え、安定させてくれるでしょう。洋服もまた、身体が一定の姿勢を保ちやすいよう立体的に仕立てられています。

さらに、洗濯や掃除はボタン一つで済むことが多く、お腹にぐっと力を入れて踏ん張るような動作も減りました。加えて、洋服は動きやすく、自然と歩幅が大きくなり、せかせかと動く場面も多くなっています。

まさに現代の洋服を着た日常生活ではインナーマッスルを働かせる場面がどんどん減っているのです。

無意識にコアを鍛える着物生活

それが、着物生活になると身体の使い方にも特徴をもたらします。

(1)腰ひもを腰回りで締め、さらに幅のある帯をお腹に巻くことで、お腹が軽く締められ丹田に力が入るので、腹横筋が使われやすくなります。

(2)着物は直線裁ちの衣で、身体の曲線に沿っていないので、身体の動きが制限されます。一気には動きづらいし、腰を意識的に伸ばしていないと猫背になり着崩れが起こるため、多裂筋が使われやすくなります。

(3)着物は胸元が開きやすく、胸で呼吸をすると帯が上下して着崩れるので、自然に呼吸がゆっくりと深い腹式呼吸になり、横隔膜も働きやすくなります。

(4)着物は小股で歩かないとすぐに着崩れするので、自然に骨盤底筋群が働きやすくなります。


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このように、着物生活は自然にコアな4つのインナーマッスルが働きやすくなるのです。

骨盤底筋の働きを促してくれる

骨盤底筋は、骨盤の底にあるハンモック状の筋肉です。

それは前述にように内臓(膀胱、子宮、直腸)を下から支える働き以外に、排尿や出産など下腹部の働きをコントロールしています。

現代社会では歩く・しゃがむ・立つといった、生活上の基本運動をすることが減りました。さらに洋服生活では、ガードルやベルト、その他締め付けの強い衣が骨盤を支えてくれます。

結果として骨盤底筋を働かすことが少なくなり、それが、尿漏れ、子宮脱、内臓下垂、ポッコリお腹を招いている一因だとも考えられています。

着物は、生地を重ねて、身体を包むように着付けをするので、歩いたり座ったりするときに、ズボンやスカートのように脚を大きく広げることができません。

自然に小股になるし、脚の内側に力を入れて、いつも足を閉じている感覚になります。

また、手足や頭の位置が大きく動くと着崩れるので、上下動は少なく、ゆっくりと進むようになります。この動きはインナーマッスル、特に骨盤底筋の働きを促してくれるのです。

日常生活そのものがトレーニングに

もともとインナーマッスルは、日常の生活の中で自然に刺激され維持される筋肉でした。

それが産業革命後、労働はデスクワーク中心になり、日常生活も便利になり、運動量がどんどん減りました。

また洋服生活は合理化されて、より着るだけで、体型の維持が容易になりました。

結果として日常生活のなかでインナーマッスルを刺激することが減ってしまったのです。

そのため20世紀半ばから、ピラティスなど、インナーマッスルを鍛える運動が欧米で注目され始め、日本もそれにならっているのが現状です。

一方で着物生活は、日常の中で無理なく身体を整えていく方法です。

しかもそれは「頑張る」必要のない、無意識のトレーニングといえます。


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「着物を着ると疲れる」との声を聞くことがありますが、それはインナーマッスルが刺激されている証拠。

私は毎日着物を着ていますが、たまにスーツを着た時の方が疲れを感じます。弊社ではスタッフは毎日着物を着ていますが、新人が二週間もたつと、着物生活の方が楽だと言い出すように。

さらに、着物を着ていると、周りの目が羨望に変わるのです。お客様と着物を着てよく食事や観劇に出かけますが、その折周りから「素敵ですね!」と声をかけられます。

子育てなど家族のために尽くしてきた人生の年輪が、着物を着ると、「老い」ではなく「美しさ」に変わるのです。

着るだけで健康的な若々しさと美しさを引き出してくれる魔法の衣、それが着物なのです!

まずは一日だけでも、着物生活を始めてみませんか?