食楽web

●この連載は、独断と偏見で「遠くないうちに絶滅してしまうかもしれない」昭和の素晴らしい文化を守るお店を巡り、その魅力を記録するグルメ探検記です。

 昭和という時代に根付いた店々は、時の流れに逆らいながら、今なお変わらぬ情景や味わいを大切に守り続けています。そんなお店たちを訪ね、時代を越えて受け継がれているものを書き留めていきます。2025年、昭和100年を迎えます。

大口のタイムカプセル、町中華

時が止まったかのような佇まい

 最初に足を運んだのは、私の住む街、神奈川県・大口。大口は、ディープな魅力が詰まった場所で、通りにはどこか懐かしい昭和の香りが漂っています。

 いつも気になっていた一軒のお店。まだ一度もドアを開けたことがないけれど、その佇まいからは、時が止まったかのような雰囲気を感じます。ドアを横に引くと、目の前に広がったのはまさに子供の頃に見慣れた風景、昭和そのものです。畳の上に丸いテーブル、黄色いメニュー、色味のコントラストが完璧です。

なぜか懐かしい気持ちになります

 昭和43年創業のお店は店内に足を踏み入れると、まるでタイムリープ。空気が一気に昭和に戻ったかのように感じます。

メニューは80歳のおばあちゃんが作る絶品餃子のみ

おばあちゃんは現在80歳

 カウンターの奥の厨房から、おばあちゃんが笑顔で迎えてくれます。おばあちゃんは現在80歳。体力的にきつくなったこともあり、今ではメニューは餃子1点のみです。それでも毎日店を開け続ける理由は、「何もしないとボケちゃうからね」と、昭和感たっぷりのジョークが焼けた餃子によく合います。

限られた時間が愛おしい

「お昼時にやって混むとしんどいから」と話すおばあちゃん。営業時間はわずか13:30から18:00まで。この限られた時間にだけ味わえる昭和の風情、特別感が堪りません。

 餃子は、なんと30年以上値上げしていない驚きのジャンボサイズ。「ギョーザ定食」は、さらに驚きの価格。餃子にご飯にお味噌汁にお新香、そして焼きたての目玉焼きまでついて500円という信じられない価格です。皮から手作りされる餃子は、外はパリッと香ばしく、中にはニラ、キャベツ、ニンニクがぎっしり詰まっています。一口頬張ると、香ばしい香りとともに、じゅわっと広がる肉汁。まさに、昭和の味そのものです。

時代を越えた人情と変わらぬ日常

インバウンドを意識したと思われる英語メニューも

 おばあちゃんに「食べログで5をつけている人が多いですね」と伝えると、「なんだかわからないけどありがたいねぇ」と控えめに微笑みます。その姿に、時代を越えて受け継がれてきた人情が垣間見えます。

 日常の何気ない一瞬に、昭和の情景が広がります。この町中華は、ただの料理店ではなく、人々の思い出とともに続いてきた時代の象徴でもあるのです。

「値上げしてもいいから、ずっと続けてほしい」。そんな気持ちで、おばあちゃんの作った餃子を頬張ります。

「うーん、これは瓶ビールが必要だ」

 このお店が昭和から令和に至るまで、時代を越えて続いてきたことに感謝しながら。

 次回もまた、昭和の文化を感じさせる一軒を訪ね、時代の宝物を探しに出かけます。どうかお楽しみに。

●SHOP INFO
萬新楼

住:神奈川県横浜市神奈川区神之木町14-6
tel:045-431-8625
営:13:30~18:00
休:金

●著者プロフィール
鈴木英司

某IT企業役員 
1977年横浜生まれ。
普段はデジタルを追い、土日は未だドアを開けたことのないお店を訪れ昭和へのタイムリープの扉を探す。好きな場所は路地裏。

(編集◎ヨネダ商店)