スポニチ

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 日本ハム・栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO=63)が、史上初の50―50を達成したドジャース・大谷に称賛の言葉と「栗山流」のエールを送った。日本ハムの監督時代に二刀流として育て上げ、昨年のWBCでも侍ジャパンの監督として大谷を二刀流でフル回転させて世界一を奪回。愛弟子の偉業についての一問一答は次の通り。

 ――ついに50―50を達成した。

 「個人的には肘の状態の心配はありましたけど、もっと打つかなと。凄い数字なんだけど、何度も言っている通り僕が見ている天井はもっと高い。体の状態が良ければ、もっとというはあるけど、まさか盗塁にあれだけ興味を持ってあそこまで進むというのは、良かったな、凄いなと思ってます」

 ――盗塁についてどう見ている?

 「一番ストップをかけたのは彼なので。ファイターズ時代から止めて、止めて。行きたがるから。WBCの時も止めた。WBCで5年ぶりに(一緒に)やった時“体は大丈夫だな”というのが一番の印象だった。打撃とか投球とかは成長の幅はあるけど、体の状態がある程度は無理しても大丈夫な感じに見えたのが一番の印象。そういう意味で一番凄いのは、あの状態で走りながら1年間ケガしないでプレーを続けられている。それが大谷翔平の凄さの一番突出しているところだと思う」

 ――走ることがクローズアップされた。

 「僕は米国に行ってから“三刀流”と言ってきた。守る可能性が出てくるんじゃないかと。そこに(盗塁を加えた)四刀流を持ち込んだ。先にそっち(走ること)を持ち込んだかという感じ。二刀流をやるには効率がもの凄く重要。生活そのもの、トレーニング一つ一つを両方ともにプラスにして絶対に邪魔させない。一人だけ48時間の時間があるわけではないので、どう効率化するか。ダッシュとかランニング量をどう取り入れるかというところで、盗塁はたぶん自分のトレーニングに落とし込めている。だからモチベーション下がらないし、状態が上がっていく。そこができるのは大谷翔平の一番の凄さ。盗塁数もそうなんだけど、それが彼にとって体を前に進める一つの方法にもなっているはず。本人は絶対に言わないと思うけど、それができたからあそこまでいく。翔平らしいなと思って見てます。それもやみくもに走って盗塁数だけを増やしているわけじゃない。チームが勝つために走っている」

 ――成長のために盗塁している。

 「あそこでダッシュしておけば練習する必要がない。その時間を違うことに使える。走ることで、普通は疲れるから止めさせる、ケガするから止めさせる、いろんな発想がある。そこの発想が人と全然違う。やっぱ“すげーな”というのはそこの部分。出ている結果は凄いけど、安心してほしくない(笑)。お前、80本ぐらい打つだろって」

 ――盗塁の成功率の高さは?

 「相当、研究しているんじゃない?時間もあるだろうから、投手のクセとか動きでこっちに体重が少し乗ったらホームに投げるとか。それは自分が体の動きを一番研究しているから、そういうのは相当、見ていると思う。それが楽しいし、投げられない状況の中で集中力につながる。盗塁するために見ているんだけど、先、先を見ているから、もっと幅が広がっている。もしかしたら、そうやって見ているから、この投手はこういう変化球を投げるんだなと思って狙い球も打席で違ってくる。一つやることが二つ三つとつながる。二刀流ってそういうこと。そういう意味で翔平らしいなと」

 ――8月に会ったときに話して変わったと感じたことは?

 「それはあんまりないかな。元気そうだったですね。うれしいのは、ドジャースだったりヤンキース、アストロズとか。勝とうと思ってお金かけて選手を集めているチームにいて“俺のチームだ”と思ってやってくれているのは、とてもうれしいな。“俺がこのチームを勝たせるんだ”ぐらいに。なかなかそうならないのが野球。でも、それをけん引してる感じっていうのは凄くよかった」

 ――打撃面に関しての変化は?

 「この投手はさすがに難しいなっていう時の引き出しが、もの凄く幅が広がってる感じには見える。当然、自分は投手やってるからわかってると思うんだよね。自分のタイミングで打っていい投手と、ある程度方向性を決めるか球種を絞るか。単純にボール球を振らない確率が上がれば、全て上がるのは本人も分かっている。その辺りが1番大きい」

 ――途中まで3冠王も見えていた。

 「みんなが褒めるから、3冠(の数字)は落ちている。“なんで3冠王を獲んねーんだよ!”ってみんなが言ってたら3冠王を獲ってるかもしれない。当然そういうもので左右される選手じゃないけど。でも、“みんなダメだと思ってんだ、このやろう”と思うかもしんないし、そういうのって凄く重要。彼は人が想像しないことをするので」

 ――日本ハム時代に盗塁のサインを出したことは?

 「最初の頃はあったと思うよ。出さなくても行けるときはいこうとするから。基本的には普通のシーズンで盗塁のサインっていうのは、出すこともあるけど、止めることの方が多い。行っていいよって皆に言っているわけだから。最初の頃は走らせるのに(サインを)出した記憶もあるけど。で、“ここはやめといてね”と。止めることの方がほとんどだったかな」

 ――当時は足の速さ含めて盗塁、走塁の技術やセンスは?

 「状況判断が抜群の選手なんで。盗塁できるスピードはもちろんあるんだけど、ケガさせないっていうのが1番。そのリスクの方ばっかり考えていた。もちろん、スピードは全然行ける。だから1年目のキャンプでショートもやらせた。凄いのは(死球を)当てられて大きな話題になったこと。要するに死球を当てられない空気感をつくれる。メジャー全体で“この選手に当てちゃいけない空気”ができた。プレースタイルや必死さ、彼の人柄だったり。その全てをみんなが認めないとそうはならない。そういうものが50―50の数字にも今年つながっている。それから盗塁できること。盗塁は相当コンディショニングが整わないと“行こう”と思わない。そのコンディショニングを常に保てていることが実は凄い。“体が疲れてる、ちょっとアウトになりそう、行けないな”みたいな。そうならないコンディションが整っている(状態で)1年間来たのが凄い」

 ――想像しないようなことをやってくれる選手。今年50―50といは全く想像していなかった?

 「そっち(盗塁)に興味持ったかと。興味というか、そっちいくのかっていうのは想像はしてなかった。あそこまでこだわってというのは、やっぱり翔平らしいなと思った。なんかドキドキするじゃない。盗塁って。ドキドキしたいのは、僕もわかる。盗塁ってそういうものでもあると思うんで。行く時にアウトになったら迷惑かかる、チームに。そういうのは、あればあるほど彼が生きる。でも、最初から(走ることへ行くのを)想像していたら“今年60―60はやりますよ”とか言ってるんだけど。できそうじゃない?60盗塁くらい。60本も打ちそうだよね。もっと最初からそう思ってたら」

 ――50―50でも前人未到。

 「誰もやったことがないことをやるのはうれしい。ただ“でも翔平、それでよかったと思わないでよ”みたいな感じ。あなた、もっと凄いでしょって。(50―50でよかったという)みんなが悪いのかな?それを目標にしちゃうとそこに行かないんだよね。もっと上を見てたらスーッと行くんだけど。その限界をつくりたくない、我々は」

 ――いろんなことを可能にする体の強さが年々できてきてる?

 「相当だと思うよ、あの研究は。野球のために食べてるものと、食べたいから食べてるもの。相当分かってると思う。専門家よりも勉強している可能性もあるし、そこまで考えられてるからいろんなことが起こっている。そこは表に出てこないけど、いずれ次の世代への知識として出てくるだろうし、彼にしか分からないところはある。二刀流やりながらのトレーニングの種類だったり、強度だったり、そういうことを含めて、もっともっと幅があるんだろうなっていうのは思う。研究をさらに、体の動きの中で彼は追い求めていくわけなんで、この盗塁数が増えたということは、彼の野球脳、彼の野球論をさらに広げた可能性は高い。これは全てに生きると思う。逆に言うと、来年以降どういう風に打つのが、どういう風に投げるのか、すごく楽しみだなっていうのはある」

 ――ローンデポパークで達成。

 「なんか神様に引きずられてるね。だから(野球の神様から)遣わされたっていう言葉をよく使った。どこで達成しても物語が生まれる。物語はすごく重要だから。本当によかった」