ブラックとホワイトの2色が用意されているZV-E10 II(直販価格15万2900円、レンズは別売り)。ボディの上についている「もふもふ」したものが風を防ぐウインドスクリーン(筆者撮影)

VLOGに特化したカメラがいま注目されている。そのジャンルにいち早く着手していたのがソニーだ。すでにコンパクトデジカメ「サイバーショット」やデジタル一眼「α」、ビデオカメラ「ハンディカム」と、静止画も動画も撮れるカメラを持っているソニーがなぜ新たな「VLOGCAM」というブランドを作ったのか。

「VLOGCAM」が登場したのは2020年

ソニーがはじめて「VLOGCAM」という新しいカテゴリーのカメラを投入したのが2020年の6月。初代はコンパクトデジカメをベースとした「ZV-1」だった。


VLOGCAMの現行モデル。ZV-1 IIとZV-1Fがコンパクトカメラ。ZV-E10とE10 IIがAPS-Cサイズのミラーレス一眼。ZV-E1がフルサイズのミラーレス一眼(画像:オンライン発表会より)

その後、デジタル一眼のαシリーズをベースにしたZV-E10を投入。

同じ型番のシリーズにコンパクトデジカメとデジタル一眼が混在するのは極めて珍しいことだ。カメラ業界ではレンズ固定式(コンパクトデジカメ)とレンズ交換式(デジタル一眼)は明確に分けるのが一般的。そうしないとユーザーが混乱しかねない。

でもソニーはカメラの構造ではなく、利用シーンやそのターゲットを中心においたブランドにしたのである。それが単なる「動画を撮れるカメラ」ではなく「VLOG」というキーワードで今までカメラに手を出さなかった層へのアピールを狙ったのだ。

【写真】動物にも対応する被写体検出AF、シューティンググリップを使って動画を撮影しているところ、操作ボタン、自撮り、画像や映像をクラウドに自動的にアップロード、ワイドなシネマティックモードなど


正面に3つのカプセルマイクが搭載されており、音声を確実に収録してくれる(画像:オンライン発表会より)

発表会でカメラ開発担当者と立ち話をした際「我々の世代では写真と動画は別のものですが、スマートフォンが当たり前の世代は写真と動画の区別がないのです。その場その場で当たり前のように切り換えて撮ってますから(そういう層をターゲットにした)」と聞いた。

そのVLOGCAMはたまたまコロナ禍で外出が控えられ、室内から気軽に配信できるVLOGの人気と認知向上にともなって知名度もあがったのだろう。


ZV-E10 IIにもふもふを装着したところ(筆者撮影)

特にヒットしたのがVLOGCAMの第2弾として登場したZV-E10。新しく発売されるZV-E10 IIの旧モデルだ。

2021年発売ながら、2024年上半期で6カ月連続で実売1位を記録(ミラーレス一眼ジャンルにおいて。BCNランキング調べ)。売れ続けているのである。

日常的な出来事を動画で発信する

そもそもVLOGとは何か。

「VLOGCAM」のVLOGはVideo Blogの略。

テキスト+写真で日常の記録や考えを公開する「BLOG」に対して、それを動画で行うものを指す。つまるところ日常的な出来事を気軽に動画で発信するコンテンツと思えばいい。YouTube、TikTok、インスタグラムでもよく見られる。

そのルーツがどこにあるのかは定義によるが、VLOGという言葉が最初に使われたのは2002年だとされている。意外に古い。

ただそれが一般的になり、日本でも知られるようになってきたのは、2018〜2019年頃かと思う。2019年6月の時点でVLOGの認知率が30%を超えており、若年層ほど認知度が高いという調査結果(ジャストシステムによる)もある。

その段階でソニーが「VLOGCAM」を開発していたというのは先見の明といっていい。

2020年にコンパクト型のZV-1、2021年にレンズ交換式(ミラーレス一眼)のZV-E10と立て続けに発売したタイミングが、コロナ禍で外出が控えられ、室内から気軽に映像を配信できるVLOGが人気を博する時期と重なったのも認知度を互いに高め合ったといえよう。

日常の出来事やペットや料理、趣味などを気軽に配信できるVLOGははじめるためのハードルが低く、カメラや映像の用語やノウハウがなくても使えるVLOGCAMがそのニーズにマッチしたのだ。

新製品「ZV-E10 II」の特徴は?

そして7月11日、ZV-E10の後継機、ZV-E10 IIが発表されたのである。

実売価格はズームレンズキットで16万3900円(税込、ソニーストア)。円安などの影響で前モデルよりは価格が上がってしまったが、比較的抑えられている。

このカメラには初代から続くVLOGCAMならではの特徴が受け継がれており、なおかつ時代のトレンドに合わせた新機能も搭載されている。

一番の特徴はカメラの知識がなくても使えることだ。


シューティンググリップ(オプション)を使って動画を撮影中。画面左右にはアイコンがありこれをタップするだけで操作できる(筆者撮影)

たとえば撮影モードダイヤルがない。あるのは動画・S&Q(スロー&クイック。スローモーションなどを撮りたいときに使う)・静止画の3段切換スイッチのみである。これはわかりやすい。撮影モードを自分で変更したい人はメニューから行うのだ。

商品レビュー用設定はVLOGCAMならではのもの。


中央にあるのがマイクで「もふもふ」は左にあるアクセサリシューを使って固定する。操作はシンプルで撮影モードダイヤルはズームレバー(電動ズームレンズに対応)、背景ボケボタンなどがある(筆者撮影)

最近のカメラは標準設定で人物の瞳にフォーカスを合わせにいく。でも手に持った商品をカメラの前に突きだして説明するときは、顔ではなく商品にピントが合ってくれないと困る。そのための設定だ。

2番目の特徴としてあげたいのがマイクだ。

VLOGでは自分自身が出演してカメラに向かって屋外でも歩きながらしゃべることが多い。従来のデジタルカメラやスマホで音声をきっちり拾うには別途専用のマイクが欠かせなかった。

VLOGCAMはそこに注目。カプセルマイクを3つ装備して、自分の声をメインに録ったり、逆に前方の声をメインに拾ったりできる。秀逸なのはウインドスクリーンを標準装備したこと。


ディスプレーを手前に向ければ自撮りの写真や動画も簡単に撮影できる(筆者撮影)

これを付けることで屋外での風の音をかなり軽減でき、声をきちんと拾ってくれる。「もふもふ」と通称で呼ばれるこのウインドスクリーンの効果は絶大で、ひと目でわかる特徴にもなっている。

3番目の特徴は自撮り対応。

どのモデルもモニタが可動式で自撮りに対応しているほか、新しいモデルはタッチ操作用のアイコンを装備、スマホ感覚で操作できる。

静止画撮影時の手ブレ補正はレンズ側で行う設計だ。


撮影した画像や映像をクラウドに自動的にアップロードすることができる(筆者撮影)

撮った映像や写真は専用のアプリ「Creators' App」を介し、Wi-Fiでも有線(USB Type-Cケーブルで接続)でもスマホに転送して処理できるほか、スマートフォンやPCを介さず、カメラから直接クラウドにアップロードすることができる。

また、リアルタイム配信(YouTubeやFacebook Liveなど)にも対応しており、スマホを経由した動画配信もできる。


縦位置動画にも対応。画面上のアイコンもちゃんと縦位置仕様に切り替わる(筆者撮影)

動画時の手ブレ補正も搭載

新製品は、カメラとしても進化している。

カメラの心臓部であるAPS-Cサイズのイメージセンサーは約2600万画素の新型。画像処理エンジンも最新のものになり、読み出し速度もAFも連写も高速になった。特に特定の被写体にフォーカスを合わせ続けてくれる「リアルタイムトラッキングAF」は優秀だ。


被写体検出AFは動物にも対応。犬の瞳にピントがあった瞬間(筆者撮影)

動画時のアクティブ手ブレ補正も搭載され、手に持って歩きながら撮ってもブレを抑えてくれる。

もうひとつソニーがウリにしたいのは「クリエイティブルック」。撮影する写真や動画のルック(元は映像業界の用語で、映像の色や階調といったテイストをあらわすもの)が豊富に用意されており、明るくて爽やかな感じや色鮮やかでくっきりした感じの画像を撮れる。

VLOGCAMを追うようにVLOG撮影用途を標榜するカメラは各社から発売されたが、どれも従来のラインナップにVLOG向きの機能を加えただけに見える。


S-CinetoneモードにするとよりワイドなシネマティックVLOGを撮影できる(筆者撮影)

2010年代、スマホに押されて市場が大幅に縮小したデジタルカメラは、いつしか確実に需要を見込める高価格の高性能機に注力するようになった。それにより1台あたりの利益は上がったが、新規カメラユーザーにとってのハードルも上がってしまった。若いユーザーが増えないと、カメラ市場はじり貧だ。

その点、若い人に馴染みの少ないファインダーをなくすなど、機能を絞って価格を抑え、コンセプトを明確にしたVLOGCAMは新しいカメラユーザーの獲得に成功したといっていいだろう。

(荻窪 圭 : IT&カメラ系ライター)