ランドクルーザー、アルファードなど毎年5000台以上が被害に 住宅街で狙う窃盗団の「最新機器」

写真拡大 (全6枚)

「朝起きて車がなかった時はパニックでした。窃盗犯が憎くて仕方ない。でも2週間以上経っても捜査は進展がない。もう諦(あきら)めるしかないと思っています」

こう語るのは、愛車のランドクルーザーを盗まれた東京都在住の50代男性のAさんだ。

警察庁の発表によると、20年にわたり減少傾向だった国内の自動車窃盗件数が、コロナ禍の’21年を境に増加傾向に転じた。毎年5000台以上が被害に遭(あ)っており、なかでもアルファード盗難件数が’22年の330台から’23年には700台に倍増するなど、高級車を狙った犯罪は後を断たない。

Aさんが被害に遭ったのは2月中旬の深夜2時頃。防犯カメラには、その犯行手口の一部始終が映されていた――。

深夜1時過ぎ、Aさんの自宅前を1台の白いクラウンが通り過ぎた。1分後に再び現れると、車から3人組が降り、Aさん宅のガレージに侵入。運転席側の窓越しに車内を念入りに覗(のぞ)いている。そのあと一人を残してクラウンはAさん宅から立ち去ったが、1時45分頃、三度(みたび)現れると犯行に及んだ。

一人は見張りに立ち、ほかの二人はガレージに消える。すると、わずか数分でランクルのエンジンが始動。そのまま犯人が運転して走り去った。捜査関係者が解説する。

「この窃盗団は道具を取りに行くためか、現場を何往復もするなど無駄も多く、経験は浅いと考えられます。しかし、恐ろしいのはそんな初心者窃盗団にもかかわらず、作業を始めてからの犯行時間はたった5分足らずだったことです。さらに、AさんはWi-Fiでネットに接続するタイプの防犯カメラも設置していましたが、肝心の窃盗時の記録だけがなかった。妨害電波を発する機器を使ったのだと思います」

Aさんは「当日は風も強く、物音には一切気づかなかった。ランクルが好きで、自分でも手を加えて愛用し続けてきただけにショックは大きい」と嘆く。

このように犯行に使われる器具は進化を続けている。その最先端が『ゲームボーイ』と呼ばれる電子機器だ。

「このデバイスは車から発せられる電波を特定し、模倣した電波を発することで、開錠からエンジン始動までを可能にする最新の犯罪ツールです。一般には『キーエミュレーター』と言いますが、十字キーやボタンなどのデザインや大きさが似ていることから『ゲームボーイ』の通称で呼ばれています。海外では’21年末頃から逮捕事例が報告されていますが、ついに日本車にも対応したモデルが出てきたのでしょう」(前出・捜査関係者)

際立つ「対策の難しさ」

『ゲームボーイ』はもともと、緊急時の開錠を行う道具として、業者向けに販売されていた。海外の販売サイトにも、「違法行為に使用することは禁止されています」と注意書きがある。しかし、実際は犯罪に悪用されているのが実情だ。サイトを確認すると、『TOYOTA』と書かれた『ゲームボーイ』を発見した。対応車種の欄にはレクサスやランクル、アルファードなど高級車が並ぶ。さらに公開されていた指南用の動画を見ると、『ゲームボーイ』をドアにかざすだけで開錠からエンジン始動まで行っている。時間はわずか1〜2分程度。価格は約2万ユーロ(約320万円)とかなり高額だが、恐るべき性能である。

窃盗犯の魔の手から愛車を守るためにはどうすればよいのか。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏が語る。

「なかなか有効な対策はないのが現状です。ありきたりですが一番有効性が高いのは国産のセキュリティ用品を、実績ある正規のショップで付けてもらうこと。ハンドルロックは切断されやすいため、より強固で切断には専用工具が必要な高級タイヤロックのほうが効果的でしょう。
市販のGPSやエアタグを購入し、仕込むことも有効です。追跡できれば、取り戻せる可能性が格段に上がりますから。メーカーの純正セキュリティだけで安心してはいけません。設置位置が完璧に解析されているため、壊しにくい場所でも真っ先に破壊されるからです」

また加藤氏は、「自動車の窃盗はたとえ数十億円超えの被害額でも、実刑が5〜6年程度の場合もあるなど比較的刑が軽い」と厳罰化の重要性も訴えた。

悪質化が進む高級車窃盗。このまま犯罪者だけが高笑いをすることだけは、許されてはならない。

『FRIDAY』2024年3月22日号より