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強い、強すぎる、3団体統一!

圧巻、圧勝、圧倒的でした。7日に行なわれたWBA・IBF・WBCバンタム級王座統一戦。日本の井上尚弥さんとノニト・ドネアとの試合は、日本ボクシング史上初の主要3団体統一という次元に留まらず、PFP(パウンド・フォー・パウンド)ランキングで井上さんをいよいよ1位に押し上げるのではないかと思えるほどの「強すぎる」一戦でした。



ボクシングには「強くない相手」とのタイトルマッチが行なわれるケースもよくあります。探しに探し、選びに選んだ「弱い相手」とビジネス的な興行を繰り返す王者もいるものです。しかし、井上さんはそうではありません。「弱い相手とは戦わない」という自らの意志そのままに、強い相手を踏み台にして世界の真の頂点へと迫ってきました。

真の頂点に迫るためには、実際に「強い」ということはもちろん、「強そう」であることが何よりも重要です。この男こそが一番強いのではないか、そう信じる者が増えて、別の男を信じる者たちとぶつかり合って、互いの王者をぶつけ合って形成していく「格」というものが真の王者を作り上げます。単にベルトを目指すのではなく、真の王者を目指すのなら弱い相手と戦うのは無意味であり、無駄な時間です。

そういう過程のなかで出会ったノニト・ドネアは、まさしく「強い相手」であり、実際にこれまでの戦いのなかでもっとも井上さんを苦しめた相手でもありました。前回2019年の対戦では、最終的に判定勝利こそおさめたものの、ドネアの鋭いパンチで目の上をカットし、痛打を喰らって何度もたたらを踏みました。さすがフィリピンの閃光、さすが5階級制覇の偉大な王者、アジア初の主要4団体制覇の達成者、ノニト・ドネアは強かった。

その苦戦のなかでわずかに失った「格」を、

ドネアを圧倒することで倍にして取り返す。

これは主要4団体統一という道への3冠目であると同時に、井上さんのキャリアにわずかに残る曇った部分を払拭する試合でした。「ドネアと同じくらいなのではないか?」というガラスの天井を打ち破り、どれほど強いか想像もつかないモンスターへと立ち戻る、そんな一戦でした。ドネアが望んで作った状況ではありますが、井上さんにとってもこの試合は4団体統一のさらに先にある、ボクシング界のスーパースターへと至るために、避けては通れない一戦でした。因縁、宿命、すべてがここにある。

↓両者素晴らしい仕上がり!井上さんはリミットぴったりで計量をパス!


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地上波ではなくアマゾン・プライムビデオでの独占中継となった一戦。この試合が500円で見られて、しかも映画などが1ヶ月間見放題だと思うと、タダ同然という気持ちになります。この日に合わせて改めてアマプラに再加入をした僕は(※前回は村田諒太さんの試合に合わせて加入)、アマゾンライフを満喫しながらこの試合を迎えました。

前座の試合を見守りつつ、試合開始時刻の21時を迎えると、前回の対戦では入場BGMとして流れたキル・ビルのテーマを布袋寅泰さんがギター生演奏で披露して井上さんを出迎えてくれます。それが極上のエンタメであるか否かを区分けする「布袋」というライン。五輪のようなド級の舞台にのみ現れる「布袋」というぶっといライン。この試合にふさわしい出囃子です。

↓布袋をバックに井上が登場!布袋も認めるビッグマッチだ!


対するドネアは「次は倒せる」という言葉とともに堂々たる佇まいで現れます。掲げたWBCのベルトはそれが欲しくて獲ったというよりも、もう一度イノウエと戦うための切符として手にしただけのこと。守るためではなく、賭けるためのベルトです。偉大な王者がこの試合にすべてを懸けて戻ってきた。勝って誇りを示すのか。あるいは敗れて花道を歩くことになるのか。ドネアのキャリアにとっても節目となる、いや、「節目となるにふさわしい」一戦でしょう。よくぞ戦うことを決めた、よくぞ再び向き合った。素晴らしい顔合わせ。なんじゃーかんじゃーと理由をつけて逃げ回るカシメロに、ふたりの爪の垢をダイレクトで飲ませてやりたいような気持ちでいっぱいです。

そして始まった試合。第1ラウンド、ドネアの動きは軽快です。この階級にしてはパワーがあり、カウンター一発で決めるようなボクシングをすることが多いドネアですが、それでは井上さんのスピードに対抗できないと考えたでしょうか。計量後に極端に体重を戻してはいないという情報もあり、スピード重視ドネアといった様相。実際にその戦略は功を奏し、ドネアは先手を取ります。

開幕初弾の左フックで井上さんの顔面をかすめると、その後も機敏な動きで攻撃の機会をうかがい、井上さんのパンチをバックステップで軽快にかわします。そして、ここぞという場面での強烈なカウンター。幾多の相手をリングに沈めてきた左フックを井上さんのパンチに合わせてきます。「ドネアは出来がいい」それは間違いなかったと思います。この試合を見た誰もがそう思ったはずです。

しかし、出来云々は関係なかった。

第1ラウンド、時計の表示が消えた残り3秒ほどのタイミングで、それは起きます。じょじょに前への圧力を掛け始めた井上さんが、左の連発でドネアの意識をわずかに左へと揺らした直後、井上さんが小さく左のフェイントを入れると「イノウエの左に対してカウンターを狙った」ドネアの左拳がわずかに下がりました。すると、狙って作ったその「隙」へ、コマ送りでもスキップしてしまうような高速の右ストレートが突き刺さります。

テンプルを直撃し、脳まで揺らすようなクロスカウンター。偶発的なものではなく、カウンターを誘って、それに合わせた神技でした。そのわずか一発で先ほどまで元気いっぱいだったドネアはリングに尻もちをつきました。ここは残り時間少なくドネアはゴングに救われますが、この試合のための積み重ねも、この試合のための対策も、よく仕上がった出来も元気も、ノニト・ドネアというボクサーのスタイルも、一発ですべて消し飛びました。

第2ラウンド、仕留めには行かないようにとあえて自重していたという井上さんですが、一発で尻もちをつくほど脳を揺らされた側が、そうそうすぐに立て直せるものではありません。井上さんは冷静に丹念にパンチを重ねていくだけで、すべてが仕留めるための攻撃になってしまいます。ドネアも懸命の反撃でペースを取り戻そうとはしますが、井上さんの連打に身体がついていかず、いいのをもらうとすぐに足がグラッときます。これは厳しい。

残り1分52秒、井上さんがガードの隙間から小さく鋭い左を通すと、ドネアは操り人形のようにフラフラと一歩、二歩、三歩、リングをさまよいます。詰め寄る井上さんと、懸命に守るドネア。しかし、もはやドネアは井上さんのジャブのスピードに反応できず、ジャブだけでグラッとくるような状態。最後はワン・ツーでドネアをコーナーに押し付け、その跳ね返りに左フックを合わせる強烈なコンビネーション。小さく速くドネアの頭部が揺れると、そのままドネアは大の字になって倒れました。

↓強い、強すぎる、井上尚弥!39歳とは言え、相手はノニト・ドネアだぞ!

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あまりにキレイに倒されたことで、ドネアの回復も早く、そして爽やかです。コーナーにやってきた井上さんをハグすると「アリガトウ、コングラッチュレーション」と日本語で語り掛けました。そして、諸手を挙げて、自分の戦いと井上さんの勝利を讃えているようでした。あるいは大きな決断をしたのかな、なんてことも思います。強さにおいてはすでに井上さんが上だったとは思いますが(※一度勝っているわけだし)、ドネアが築き上げてきた「格」のさらに上に、井上さんが昇っていった…そんな世代の継承をも感じるような光景でした。

ドネアという選手は本当に強い選手でした。

みんなに愛された辰吉丈一郎さんがいて、それを完膚なきまでに叩きのめしたウィラポン・ナコンルアンプロモーションがいて、そのウィラポンと4度激闘を重ねた西岡利晃さんがいて、その西岡さんをまったく何もできないほどに圧倒したのがノニト・ドネアの鮮烈な記憶です。自分たちが「強い」と思っていた男たちの遥か上にいる存在でした。正直なところ、前回の対戦でドネアが井上さんを苦しめたときには「ドネアが健在である」ことが嬉しくさえありました。あの時代が今も輝いているような気持ちになりました。

39歳という年齢は、ボクサーとしては当然下り坂であり、最盛期ほどの強さはないとわかってはいても「ドネアはドネア」です。強くて偉大な王者です。「あのドネア」をわずか2ラウンドで、まったく何もさせずに、美しいボクシングでリングに沈めたこの衝撃。「4団体統一」という当面の目標はもちろんとして、むしろここからどんな大きな夢が見られるのか、想像だにしなかった世界への扉が開いたような気持ちです。

例えて言うならマニー・パッキャオのような存在となって、世界がイノウエに魅了される。そんな世界もあるのかもしれないな、そう思います。パッキャオが6階級制覇を達成したのは、間もなく32歳になるという頃。井上さんはまだ29歳になったばかり、あと何年も「全盛期」はつづきます。どこまで大きな夢が見られるか。どこまでの格にのぼりつめられるのか。楽しみはまだつづきます。天井を設けず、どこどこまでも期待して見守っていきたいものです。もちろん、夢を見るならアマゾン・プライムビデオで。

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