日本の会員数を大きく伸ばしているネットフリックス。写真は2019年10月に秋葉原で開催されたイベント「Netflixアニメラインナップ発表会2019ー2020」(撮影:今祥雄)

「私たちはここ日本に約300万人の会員がいます、そしてそれは増え続けています」

Netflix(ネットフリックス)の日本法人代表も務めていたグレッグ・ピーターズCPO(プロダクト最高責任者)は9月6日に開いた記者説明会で、日本におけるネットフリックスの会員数を初めて公開した(2019年8月時点)。しかし、ピーターズ氏にとって300万人という数字は、あくまで通過点にすぎなかったようだ。

1年間で会員数を130万人増やす

この300万人という数字は極めて大きい。日本テレビの子会社Huluの会員数は202万人(2019年3月時点)。会員数286万人(同10月時点)を誇る衛星放送WOWOWをも上回っている。


しかし、それ以上に驚くべきは前年度比77%増という伸び率の高さだ。Huluの日本における2018年度の伸び率が11%増だったことからも、1年間で会員数を約130万人増やしたネットフリックスの急成長ぶりが見てとれる。

会員数増の要因の1つはコンテンツだ。今でこそ、山田孝之主演の「全裸監督」に代表されるような日本発のコンテンツも多く存在しているが、2015年のサービス開始当初はそうではなかった。当初アメリカのオリジナルコンテンツは充実していたが、日本オリジナルのコンテンツは少なかった。

しかし、今ではドラマやアニメなど、テレビ局顔負けの日本オリジナル作品を提供している。Amazon Primeビデオの松本人志を起用した「ドキュメンタル」や、Huluの地上波人気ドラマ「あなたの番です」の番外編などと対等に戦えるようになってきている。

ネットフリックスは日本において、今年9月から1年間で16ものオリジナル作品を公開すると発表している。日本の一流クリエイターを集め、コンテンツ強化を図っている。


「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」などを手がけた櫻井大樹氏(撮影:今祥雄)

ネットフリックスでアニメ作品を統括するチーフプロデューサーの櫻井大樹氏はその1人。制作会社プロダクション・アイジーで「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」や「精霊の守り人」などの脚本を手がけた実績を持つ。

櫻井氏は「漫然と加入するのではなく、観たい作品があって加入する人が増えている。そのいくつかはアニメ作品だ」と、アニメの会員数増に大きく貢献したと説明する。

そして今、このネットフリックスのアニメ作品がさらなる進化を遂げようとしている。今までは「ネットフリックスだけで見られるといっても配信権を独占しているだけで、制作しているわけではなかった」(櫻井氏)が、今後はネットフリックス自身が制作費を負担し、制作に直接関わった作品が登場してくるという。

忖度せずに、クリエーティブファースト

2020年公開予定の「エデン」はネットフリックス制作の国内アニメ第1弾だ。櫻井氏自身が脚本から監督の選定、作画の手法まで決定に携わった。制作会社に丸投げするのではなく、ネットフリックスも一緒になって制作する。

複数社が制作費を負担し合う製作委員会方式ではなく、ネットフリックスが制作費を直接出すことによって、「忖度をしなくていい。クリエーティブファーストで、(さまざまな表現に)踏み込むことができる」(櫻井氏)という。

さらに、テレビとは違って放送時間が決まっていないため、作品の話数や時間なども自由に決めることができる。これはクリエーターにとって魅力的で、コンテンツ強化に不可欠な人材獲得にも好循環を与えているようだ。

KDDIや家電メーカーなどとの提携も300万人突破に大きく貢献している。


ネットフリックスの山本リチャード氏は、KDDIとの提携が会員数の増加に貢献したという(撮影:尾形文繁)

ネットフリックスは2018年8月からKDDIと提携し、携帯料金にネットフリックスのサービス料を組み入れたセットプランを発表した。ネットフリックス日本法人で携帯キャリアなどとの交渉を担当する山本リチャード氏も、KDDIとの提携が会員数の増加に貢献したことを認める。

アメリカではネットフリックスに6000万世帯以上が加入しているが、日本ではまだまだ普及段階。KDDIと組むことで「お客様が信頼しているブランドを通してネットフリックスを知ってもらうことが非常に効果的だった」(山本氏)という。

J:COMとの提携で営業を強化

さらに、ネットフリックスは2019年9月、ケーブルテレビ最大手のジュピターテレコムとの提携を発表した。ネットフリックスは今まで、顧客に対してサービス説明などを直接行うことができていなかった。顧客と接触する営業は、店頭販売で提携しているソフトバンクやKDDIの力を借りていた。

今後はジュピターテレコムとの提携により、携帯キャリアのユーザーとは異なる層への営業を代行してもらうことが可能となる。

ただ、アップルやディズニーが動画配信に参入し、競争環境は厳しくなっている。11月1日に日本でサービスを開始した「Apple TV+」はネットフリックスよりも安い月額600円でスタートする。まだ詳細は発表されていないが、「Diseny+」も同程度になると考えられ、価格競争は激しさを増している。

さらに、日本では「Amazon Primeビデオ」が大きな存在感を誇っている。詳細は不明だが、会員数はネットフリックスを大きく上回るとみられ、動画だけではなく、音楽聞き放題やアマゾンでの買い物時に配送料が無料になるなど、多角的なサービスを提供している。

映像だけで勝負するネットフリックスにはない強みを持っており、ネットフリックスの真価が問われるのはこれからだ。