米商務省が28日発表した第1四半期(1−3月)の実質GDP(国内総生産)伸び率(速報値)は、季節調整済み前期比で+3.1%(年率換算)となり、2003年第1四半期の1.9%成長以来、実に2年ぶりの低い伸びとなった。個人消費と企業在庫投資、民間企業の設備投資は、引き続き、GDP上昇に寄与したが、原油高の影響を受けて、それらの伸びがいずれも前期(2004年10−12月)に比べ、大幅に鈍化したのに加え、やはり、原油高と中国からの繊維・衣料品の輸入急増で貿易赤字が拡大し、純輸出の対GDP寄与率が2年ぶりの大幅マイナスとなったためだ。市場の事前予想平均値の+3.6%も大幅に下回った。

  GDP伸び率鈍化に寄与した原油高だが、どれだけ影響したかとといえば、一部のエコノミストの試算によると、GDPを1%ポイント引き下げたと見られている。また、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の米国標準油種であるWTI(ウエスト・テキサス・インターメディエート)価格は、4月初めに1バレル=57.27ドルまで上昇したが、ドライビング・シーズンの夏までは、原油価格は高止まりするとの見方から、第2四半期(4−6月)と第3四半期(7−9月)のGDP伸び率は一段と低下する可能性も指摘されている。

スタグフレーションの兆候か

  今回のGDPの最大の特徴は、スタグフレーション(景気沈滞下のインフレ)の兆候が伺える点だ。昨年春に見られたソフトパッチ(一時的な景気沈滞現象)の再現ともいえるのだが、一つ違う点は、これまで見られなかった原油価格の上昇を受けて、製造業者による製品価格への転嫁が見られ始め、インフレ率の上昇が加速していることだ。第1四半期GDPのインフレ動向を示すコアPCE(個人消費支出)価格指数、これはアラン・グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長が、金融政策の物差しとして重視している統計指標だが、それが前期の+1.7%(年率換算)から実に7年ぶりの高水準である+2.2%に拡大、年間比較でも+1.6%となり、FRBが容認できる+1.75%〜+2.0%のレンジの上限をやや上回る勢いとなった。この背景には原油高騰によるガソリン価格の上昇と連邦政府の公務員給与の引き上げがある。

  ところで、GDP成長率の鈍化となった個人消費については、サービス支出は伸びたものの、自動車が低調となって耐久財消費支出が横ばいとなった結果、前期比年率+3.5%となり、前期の同+4.2%増から伸びが鈍化した。個人消費支出はGDPの3分の2を占めるだけに鈍化の影響はわずかでも大きいのだ。さらに、GDPのもう一つの柱である民間設備投資も、機器類やソフトウエアに対する投資額が前期の+18.4%から+6.9%へと2年ぶりの低い伸び率にまで鈍化したことから、PCなど情報機器投資は堅調だったものの、全体では同+4.7%となり、前期の+14.5%からは大幅な減速を示したことが大きい。

  この設備投資が鈍化したのも、在庫が急増したためだ。在庫投資の増加額は、前期(昨年10−12月)は402億ドルだったのが、1−3月期は802億ドルと2倍になった。基本的に、在庫投資はGDPの押し上げ要因のため、今回の場合、在庫投資のGDP寄与率はプラス1.2%ポイントと3年ぶりの大幅なGDPの押し上げと要因なっている。しかし、在庫が増えるのは、年末のクリスマス商戦などに備えて、製品在庫を増やす場合を除けば良いことではない。今回も売り上げ不振で自動車の在庫や小売りの商品の在庫が積み上がったもので、実際、GDPから在庫投資を除いた実質最終売上高で見ると一目瞭然で、10−12月期の前期比年率換算+3.4%から+1.9%と2002年第4半期以来、9四半期ぶりの低い伸びとなっている。

  この在庫増加は、次の第2四半期(4−6月)に影響してくる。企業は当面、在庫調整に専念せざるを得なくなり、その結果、生産活動を抑え、設備投資も抑制するようになる。FRBによる利上げ継続も予想されるので、個人消費や住宅投資に影響が及ぶ可能性があるからだ。すでに米国の主な経済調査機関では、今年のGDP成長率を下方修正する動きが出始めている。ドレスナー・クラインオート・ワーッサースタイン証券は20日付けの顧客向けレポートの中で、第2四半期の実質GDP成長率は3%を下回るとし、2005年は3.5%と予想。また、米メリルリンチ証券は当初の3.7%から3.5%に、2006年も3.3%から3.2%に引き下げている。