<移民がもたらす悪影響ばかりが語られるが、失業率や税収などの経済的なプラス効果が明らかに>

不法移民は原則的に全員刑事訴追――一時は2300人以上の子供たちを親から引き離したドナルド・トランプ米大統領の「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)」政策は、今も激しい議論を呼んでいる。自身の政策を擁護するようにトランプは6月、ヨーロッパで見受けられる「移民の悪影響」論について触れた。

「アメリカは移民キャンプにはならないし、難民保護施設になるつもりもない」と、彼は言った。「ヨーロッパや他の地域で起こっていることを見てみろ。私の政権下のアメリカで、同じことが起こるのは許されない」

だが、ヨーロッパの難民・移民の影響を分析すると、違った側面が見えてくる。彼らは経済のお荷物になるどころか、経済にプラス効果をもたらしていることが明らかになったのだ。

シリアをはじめ中東各国で人道危機が広がり、それに伴い第二次大戦以来で最大規模の難民危機が発生するのを見て、この研究は行われた。15年のEU内での難民申請数は100万人以上。彼らが欧州に与える影響を調べるために、仏国立科学研究センター(CNRS)やクレルモン・オーベルニュ大学などフランスの経済学者らは、OECD(経済協力開発機構)とEU統計局による15カ国、30年分のデータを分析し、サイエンス・アドバンシズ誌に発表した。

これまでの各種研究とは違い、今回の調査では移民による納税額に注目するだけでなく、彼らの及ぼす経済的な相互作用も調査。居住申請の手続き中は申請先の国に住む権利を法的に認められている「難民」と、居住申請を既に取得している「移民」とを区別して調査した。

公共支出の増加分も相殺

1人当たりGDPや失業率、公共財政などの数値を検討した研究チームは、移り住んだ国々に難民が何ら悪影響をもたらしていないと結論付けた。事実、3〜5年たって多数の難民の亡命が認められると、むしろプラス効果が見られるようになった。

[2018.7.17号掲載]

カシュミラ・ガンダー