経済団体の存在意義はあるのか?

写真拡大

 安倍政権の支持率が低下するのと軌を一にして、経済界からアベノミクスへの批判が相次ぐようになった。だが、経営コンサルタント・大前研一氏の見方は厳しい。新刊『武器としての経済学』でもアベノミクスの行方について解説している大前氏は「経団連は論外、経済同友会も“学芸会レベル”だ」と喝破する。

 * * *
 処暑を過ぎて、社会人は休暇でリフレッシュし、気合を入れ直して勉強に励んでいることだろう。

 財界も、夏は毎年恒例のセミナーや勉強会を開催している。経団連(榊原定征会長)は軽井沢で夏季フォーラムを開き、来賓の麻生太郎副総理・財務相が講演し、デフレ脱却と経済再生に向けて経団連にさらなる協力を求めたという。同フォーラムは榊原会長就任後4回目となるが、これまでに来賓として講演したのは2014年が安倍晋三首相と甘利明経済再生担当相(以下、いずれも当時)、2015年が石破茂地方創生担当相、2016年が稲田朋美自民党政調会長という顔ぶれだ。まさに政権べったりで、経済団体としての存在意義はゼロである。論評する価値もない。

 一方、同じく軽井沢で開かれた経済同友会(小林喜光代表幹事)の夏季セミナーでは、安倍政権の「骨太の方針2017」に対する批判が相次いだと報じられた。

 朝日新聞(7月14日付)によれば、GDP(国内総生産)に対する債務残高の比率を安定的に下げることを政権が財政目標に加えたことについて、商船三井の武藤光一会長は「GDPが増やせれば借金を増やしてもよい、という極めて姑息な一時しのぎの指標」と指摘し、社会保障費が財政を圧迫している現状には、日産自動車の志賀俊之取締役が「研究や教育など将来への投資が抑えられ、バランスを欠いている」と苦言を呈した。

 また、「骨太の方針2017」に消費増税が明記されなかったため、東京海上ホールディングスの隅修三会長は「(消費税率は)10%以上を言わないといけないが、言えていない。政治がシルバー(高齢者)デモクラシーから脱却できていない」と批判したという。経済同友会は、経営者が個人の資格で参加する分、経団連よりも自由にものが言えるようだ。

 しかし、安倍首相の経済政策「アベノミクス」は誤った経済理論に基づく的外れなものだと2012年末のスタート当初から現在まで、いわば“最長不倒”で批判し続けている私に言わせれば、「そういう批判は軽井沢の夏季セミナーでやるのではなく、大手町でやれ」「首相官邸の会議で面と向かってやれ」と言いたい。しかも、夏季セミナーを開いたのは東京都議選で自民党が惨敗した後であり、“安倍一強”に陰りが見えた時期に、俄かに批判するのは「犬の遠吠え」でしかないと思う。

 私は経済同友会の小林代表幹事と面識があり、非常にクレバーで勉強熱心な経営者だと知っている。しかし、今ごろになって安倍政権にワイワイガヤガヤと文句を言っているようではダメだ。急成長を続けるアメリカのICTトップ5社やアリババ、テンセント、深センのICTベンチャー企業群などを見て、もっと日本企業と日本経済の現状に危機感を持たねばならない。

 前述したように、アベノミクスはセオリーそのものが間違っているお粗末な経済政策であることはスタートした時からわかっていたわけだが、経済同友会は政権におもねり、批判の矛先も鈍かった。

 しかし、世界的なスコープで今の日本が置かれているポジションを見れば、企業も地域も復活・反転している例はほとんどない。中央集権が強すぎて、花咲く場所がないのである。アベノミクスはその権化なのだから、経済同友会はもっと早くその間違いを指摘して財界としての正論を提言すべきだった。

 パナソニック創業者の松下幸之助さんやソニー創業者の盛田昭夫さんら、かつての財界リーダーたちは、時の政権に厳しい提言を正面切って突き付けていた。それに比べたら、今の経団連は論外であり、経済同友会も“学芸会レベル”だ。

 財界は政府に対し、さっさと中央集権から道州制による真の地方自治に移行しろとか、東京や大阪などで世界に冠たる街づくりをしろとか、世界競争に晒された業界では国内しか見ない独占禁止法を廃止しろとか、もっと21世紀の日本の大きな問題についてストレートに提言すべきである。そうしなければ、日本企業は熾烈な国際競争の中で枕を並べて討ち死に、ということになりかねない。

※週刊ポスト2017年9月8日号