中国・珠海にある水族館「長隆海洋王国」で行われているシロイルカのショー(2014年4月29日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】ロシア極東の港に停泊するさびたロシア船の甲板にウインチで運ばれる若いシロイルカ──すでに積まれたシロイルカ3頭と鰭脚(ききゃく)類などの海洋哺乳類の横へと移動させる作業が進む中、船員の一人が「俺たちのことを忘れるな、クソ野郎」と叫んだ。

 これは、最近製作されたロシアのドキュメンタリー映画『ボーン・トゥ・ビー・フリー(Born to be Free)』のワンシーンだ。一部の海洋哺乳類については世界の水族館に最も大量に供給しているロシアだが、この残忍な映像は取引規制のあいまいさ、不十分さに光を当てるものとなっている。

 このような海洋哺乳類の取り扱いを問題視し、映画を撮影した活動家らは、取引業者が法の抜け穴を利用して荒稼ぎしている現状とその背景にある悲惨な状況、シロイルカの死骸が慌てて埋められる様子などを記録した。

 今年公開されたこの映画を監督したガヤネー・ペトロシアン(Gayane Petrosyan)氏は「私たちは水族館に関する映画をつくりはじめたが、その背後にこんなにも巨大なビジネス、巨大で腐敗したシステムが存在するなんて思いも寄らなかった」と話す。

 世界の多くの国では娯楽目的でのイルカの使用を徐々に廃止しているが、中国ではエンターテインメント業界が拡大を続けるなか、ロシアから運ばれてくるこれらの動物たちがその中心に置かれ、ショーのスターを務めている。

 ペトロシアン監督は「動物たちは(単なる)商品として扱われている」と語る。

 入手可能な税関の統計によると、公式にはロシアが2016年初め以降に輸出した鰭脚類、クジラ、イルカを含む生きた海洋哺乳類は91頭で、そのうち84頭が中国向けだ。

■「教育目的」と称して捕獲

 ロシアの海洋哺乳類審議会(Marine Mammal Council)のドミトリー・グラゾフ(Dmitry Glazov)副議長によると、ロシア政府は動物園・水族館用として業者らに年間でシャチ10頭、シロイルカ150頭ほどの捕獲を許可している。

 とりわけ、1頭あたり100万ドル(約1億1000万円)以上の価値があるシャチをめぐっては、その捕獲許可取得への需要が高い。

 これらの数字は、そう大きなものではないように思えるかもしれないが、活動家らは実際の数字がもっと大きいと考えている。教育・研究目的として捕獲された個体が商用目的で輸出されているためだ。

 シャチもシロイルカも世界的には絶滅危惧種とはみなされていない。しかし、ロシアの研究者らは取引の監視と最新の研究が不十分なことから、領海内にどれだけの個多数が残っているのかは見当もつかないと言う。

 グラゾフ氏は「海洋哺乳類の多くの種はその生息数さえ明らかになっていない。旧ソ連時代から研究が行われてこなかった」と指摘する。

 同氏によると、2010年に行われたおおまかな個体数調査によって、ロシア極東のシロイルカは2つの群れに分かれており、それぞれの群れから年に15頭以上捕獲すると群れを維持できなくなると推測されている。

 しかし現状では、捕獲業者らはオホーツク海(Sea of Okhotsk)に生息する片方の群ればかりを狙い、若い雌を中心に1シーズン中80頭ほどを捕獲している。若い雌は、群れの個体数維持に最も重要な存在だ。

 さらに、表向きは「商業目的」ではなく「教育目的」で捕獲されていたことから、政府はシロイルカの販売から税金を一切徴収できていないことも指摘された。グラゾフ氏によると、こうした問題が表面化したことから、非公式ではあるが生体捕獲は2016年に中止された。しかし、今年に入ってからは、政府は生体捕獲を再び許しているという。

■中国で高まる人気

 シャチやシロイルカなどのクジラ目の動物は他の動物と違い、飼育下では寿命が短くなると考えられている。

 動物の飼育環境やシャチによる調教師殺害などをめぐり、国際的な議論が活発化するなか、動物園・水族館に対する世論の圧力は強まっている。事実、米海洋テーマパーク「シーワールド(SeaWorld)」は昨年、シャチの繁殖および飼育の中止を発表した。

 しかし中国では新しい動物園・水族館が続々オープンしている。「長隆海洋王国(Chimelong Ocean Kingdom)」は今年、ロシアのシャチ9頭を公開した。さらに今後数年以内には、シャチのショーを目玉にした娯楽施設が国内に少なくとも2か所開業する予定となっている。

 世界クジラ・イルカ保護協会(WDC)の研究フェローで、極東ロシア・オルカプロジェクト(FEROP)の共同ディレクターでもあるエリック・ホイト(Erich Hoyt)氏によると、ここで捕獲されたすべてのシャチは魚食性ではなく、より数の少ない肉食性の種類に属するという。

 ホイト氏は、ロシア極東に生息する哺乳類を食べる種類のシャチの数は「おそらく200〜300頭」と推定している。
【翻訳編集】AFPBB News