『ピンクとグレー』で柳楽優弥に演出中の行定監督
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 新作映画の準備の合間をぬって故郷・熊本の被災地に何度も足を運び、震災が起こる以前の熊本で撮った中編『うつくしいひと』のチャリティー上映を全国140か所以上で行っている行定勲監督が、4月中旬に起きた震災後の熊本の現状と、今の思いを熱く語った。

 熊本地震のときは本震時に現地入りし、その後、被害が大きかった益城町や南阿蘇村の阿蘇大橋が崩落した現場にも足を運んだ行定監督だが、「ボランティアの人たちと違って、僕の場合は現状を知りたくて回っているだけ」と振り返り、「チャリティー上映で全国を回ると、その土地の新聞社の方から取材を受けるんですけど、そのときに熊本の人たちが今どんな思いでいるのか、現状を知らないと答えられないですから」と強調する。

 それは熊本たちの人たちを完全な形で救済しようとしない国や、被災地の現状を報道しないマスコミに対する怒りの反動でもある。「早急に熊本に対して7,300億円の国家予算がつけられたけれど、完全復興するためには4兆円が必要で、全然足りないと聞かされた。テレビをつけても今や熊本の地震関連の報道はほとんどなく、芸能人が炊き出しに行ったニュースがたまに流れても、芸能人の方にばかりスポットを当てて熊本の生の声はほとんど伝えない。マスコミの姿勢もねじれていますよ」。

 だからこそ「僕は、自分が熊本県のために作った映画で、あの震災を払拭させないようにしたかったし、義援金を少しでも集めようと思った。個人でできることはそれぐらいしかないですからね」と行定監督は語り、その一方で、マスコミがあまり伝えない熊本の人たちの苦しみを訴える。「東日本大震災よりも死者は少ない。それは幸いなことではあるけれど、家を失っても生きていかなければいけない人たちがたくさんいるということ。要はそこにお金がかかるってことだけど、政府はそこを実感していないし、報道もされ難い。でも、被災が酷い地域の人たちは生活も仕事もままならないから、生活を諦める人だっているかもしれない。そんな犠牲者を出さないためにも、助け合いが必要なんです」

 この悲劇を忘れないために、熊本地震を劇映画で伝える構想もあるというが、行定監督は「ドキュメンタリーは振り返るだけで、印象に残らない。それに対して、劇映画の力を今回の『うつくしいひと』で思い知った。虚構の物語が借景している熊本が今はもう存在しないと思った瞬間、映画が急に現実味を帯びて、観た人を違う地平へと連れていくんですよね」と力説する。「いずれにしろ、熊本のことはこれからも継続して伝えていきます。人は忘れていくものだから、いつまでも僕はしつこくやっていきますよ」

 7月8日にブルーレイとDVDがリリースされる『ピンクとグレー』では大胆な仕掛けを用意し、観る者を驚愕させた行定勲監督。その熱い思いが多くの人の心を動かし続けている。(取材・文:イソガイマサト)

「ピンクとグレー Blu-rayスペシャル・エディション」(価格:6,700円+税)は7月8日、株式会社KADOKAWAより発売