H&M 、一夜のショーが1270万ドルの波及効果を生む ファッションショーをコンテンツ資産化する新戦略

記事のポイント H&Mはロンドン・ファッション・ウィークでのショーを「一夜限りのイベント」ではなく、数カ月分のコンテンツ資産として活用し、SNS上での波及効果を最大化した。 巨大スクリーンやマルチアングル撮影、観客参加型演出などを組み込み、TikTokやInstagramでバイラルを狙う構成を設計。 ブランドの「ファッションの民主化」という理念のもと、社員やロイヤリティ会員も招待し、インフルエンサーとの連携によって若年層を巻き込むカルチャーイベントへと拡張した。
9月18日、同社は「スタジオコレクション」のショーをロンドンの「180 The Strand」で開催し、700人のゲストを招いた。会場はランウェイ、コンサート、カルチャーアクティベーションの3要素を組み合わせた空間に変貌した。この夜の目的は単なるショーの開催ではなく、一夜限りのイベントを「ソーシャルコンテンツのエンジン」に変えることにあった。
「我々はファッションをすべての人に解放することを信じている」とH&Mのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、ヨルゲン・アンダーソン氏はGlossyに語った。「人々はひとつのスタイルで生きているわけではない。これはSpotifyと同じだ。日によって聴く音楽が違うように、ファッションも同じ。我々の仕事は、そうしたあらゆる瞬間に存在することだ」。
アンダーソン氏は、このショーを「放送プラットフォーム」と表現する。「以前のショーはPRで拾ってもらうことを期待するものだった」と述べ、ラグジュアリーブランドの従来型ランウェイフォーマットを指摘した。「今日では、異なるメッセージを異なるオーディエンスに同時に届けるステージであり、それらすべてをひとつの瞬間から創造する。これがリターンをより強くする」。
ショーが「ライブメディア」へと進化
H&Mはすでにこのアプローチを試してきた。2024年9月、同ブランドはロンドン・ファッション・ウィークの開幕で、チャーリーXCXのコンサートをロンドン東部にあるCopper Boxアリーナで開催し、秋のコレクションと連動させた。2カ月後の11月20日には、タイムズスクエアをサプライズでジャック。告知はわずか30分前であったが、何千人もの観客を集め、H&Mのビルボードを通じてライブを配信した。
今回のロンドンショーでは、この戦略をさらに発展させ、パフォーマンス性を強化した。モデル70人が3つの「アクト」に分かれ、今後リリースされるスタジオコレクションの各ドロップに対応する演出を行った。参加モデルにはロメオ・ベッカム、パロマ・エルセッサー、アレックス・コンサニ、アイリス・ロウ、ライラ・モスらが名を連ねた。最初のドロップは翌日に販売開始された。
ローラ・ヤングは今回がランウェイデビューで、自身の楽曲「Messy」と「d£aler」を、H&Mの2025年秋コレクションのルックをまとって披露した。
同日昼間、H&Mのショースペースではディスカッションパネルも実施された。企画はパーフェクト・マガジン(Perfect Magazine)の創設者ケイティ・グランド氏が担当し、インフルエンサーのスージー・ラウ、モデルのアメリア・グレイ、デザイナーのデイビッド・カッポ、映像作家のエイダン・ザミリが登壇した。さらに、ノルウェー人フォトグラファーのソルヴェ・スンスボが現代的なイメージメイキングのワークショップを行った。夜はハニー・ディジョン、Pxssy Palace、ミス・ジェイソンらが出演するアフターパーティーで締めくくられた。
ローンチメトリクス(Launchmetrics)によると、H&Mは今回のロンドン・ファッション・ウィークのスケジュールにおいて、バーバリー(Burberry)に次ぎ2番目に高いメディアインパクトバリューを記録した。その総額は1270万ドル(約1億8800万円)に達した。
メディアインパクトの拡張と数値的効果
タイの女優アパスラ・(ヨーコ)・レートプラセートがショー到着時に投稿したInstagramの写真は、36万の「いいね」と60万9000ドル(約9000万円)のメディアインパクトバリュー(MIV)を生み出した。彼女のInstagramフォロワー数は140万人である。一方、モデルのハリマ・アデンがTikTok(フォロワー数30万2100人)に投稿したコンテンツも21万1000ドル(約3100万円)のMIVを生んだ。
H&MのInstagramでは12本の動画が合計約2450万回再生された。TikTokでは18本の投稿が合計4500万回以上再生され、そのうち複数の動画が300万回を超え、1本は1100万回再生された。また、YouTubeにアップされたイベント全編映像は5400回再生され、ゲーマーのマーロン・ルンドグレン・ガルシアによるTwitch配信は47万人以上に視聴された。
「コンテンツとして設計された」ファッションショー
このプロダクションは、最初からコンテンツ化を目的に設計されていた。巨大なスクリーン、複数のカメラアングル、演劇的なステージングによって、オンラインプラットフォーム上でもリアル会場と同じ迫力を発揮できるよう構成されていた。「それはすべてを一度に体現していた。ショーであり、コンサートであり、クラブナイトでもあった」とアンダーソン氏は述べた。「それが我々なのだ」。
キャスティングと観客の構成も、H&Mのブランドポジショニングを補強していた。「ローラ・ヤングは今のロンドンそのものだ」とアンダーソン氏は語る。「彼女は単なるセレブリティではなくアーティストであり、その自信が彼女を起用する理由となった」。ショー中盤に観客がランウェイに上がるという仕掛けはTikTok上でバイラル化し、イベントの寿命を会場の外へと大きく延ばした。この観客には、H&Mアトリエのウールコートとピンストライプのブレザーを着用したマーロン・ルンドグレン・ガルシア氏も含まれていた。
また、ショーにはH&Mの社員とロイヤリティメンバーも参加し、編集者やスタイリストと並んで座席を共有した。多くの参加者がリアルタイムでショーを撮影していた。「インサイダーだけの観客で、ファッションの解放を語ることはできない」とアンダーソン氏は述べた。「一人の若者でも何かを始めようとインスパイアされたなら、それが成功だ」。
ファッションショーは「コンテンツスタジオ」へ
ジェナ・バーネット氏(The Sunshine Company CEO)は、「現代のショーはコンテンツスタジオとして機能するよう設計されている」と指摘する。
「投資額は非常に大きい。だからこそブランドは、数週間にわたってソーシャルチャンネルを満たすために、複数のシーンやモーメントを作り出す」と述べる。「多くの場合、ショーとキャンペーンの予算がひとつのカルチャー投資として統合される」。
さらに同氏はこう続けた。「たとえ規模が小さいブランドでも、単なるランウェイではなく、コンテンツの機会としてショーをより戦略的に活用している。もはや服を見せるだけではなく、長く生き続ける『素材』を構築することが目的なのだ」。
クリエイティブ価値の民主化と「予測不能性」
H&Mは、大規模ステージにおけるマルチファセットなイベントコンテンツ戦略の好例といえる。アンダーソン氏によると、そのゴールは「ラグジュアリーのようにインスピレーションを感じさせながら、アクセス可能であること」だという。
「ラグジュアリーは世界の1%のためのものだ」と同氏は語る。「我々は残りの99%のために存在している。100万ドル(約1480万円)分のインスピレーションを50ドル(約7400円)で得たように感じられるべきなのだ」。
また、H&Mにとっての課題は「予測不能であり続けること」だとアンダーソン氏は強調する。「次に何をするかを人々に読まれた瞬間、退屈になる」と述べ、次回ショーの詳細はまだ非公開であると付け加えた。「我々は、シャワーのなかで石鹸を追いかけるような存在でありたい。捕まえたと思った瞬間に、別の方向へすべり抜けるのだ」。
[原文:How H&M used a fashion week event to power a 360-degree content strategy]
Zofia Zwieglinska(翻訳・編集:島田涼平)
