かつてのライトウェイトスポーツカーメーカーというイメージではもはやない

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LOTUS東京 原宿ショールームでダン・バルマーCEOにインタビューを行った(写真:エルシーアイ株式会社)

ロータスと聞いて心がざわざわする人は、筋金入りの自動車ファンだろう。

1960年代から1980年代にかけてのF1グランプリでの華々しい活躍と、量産スポーツカー(中にはボンドカーも)の数々で名声を確立したのが、英国のロータスである。そんなロータスがいま、大きく変わりつつある。


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「“ロータスといえばスポーツカー”とする日本市場はむしろ例外的」と、驚きの内容を語るのは、ロータス・テクノロジー・イノベーティブ・リミテッドのダン・バルマー氏だ。

日本を含めたアジア太平洋・中東・アフリカのプレジデントおよびCEOである英国人のバルマー氏は、2024年7月末に来日。ロータスのいまと少し先の未来、そして日本市場での戦略を語った。意外な内容が多いインタビューである。

ロールス・ロイス、アストンマーティンを経て

―いままでの経歴を教えてください。

本格的なキャリアのスタートは、2000年代初頭のロールス・ロイスです。BMW傘下で新たなスタートを切ったロールス・ロイスで、ブランド新生プランのプロジェクトチームに加入しました。

12年間、ロールス・ロイスに籍を置いたあと、アストンマーティン・ラゴンダのグローバルマーケティングのディレクターとして2014年から2021年まで務めたあと、同年8月にロータス・テクノロジーへと転職しました。


バルマー氏の背後にあるのは後述するエメヤとエレトレ(写真:エルシーアイ株式会社)

―ロータスは当時、いまひとつ“パッとしない印象”がありました。大胆な転身ですね。

アストンマーティンでの役割とは、まったくちがうチャレンジをしたかったのです。ロータスはブランド認知度が低く、グローバルブランドというには、投資もリソースも、そしていくつかの分野での重要なノウハウも欠けていました。私は、ロータスに入社して「グローバルブランドに育てたい」という意欲をもって、転職を決意しました。

【写真】エミーラ、エヴァイヤ、エレトレ…ロータスの最新ラインナップを見る(37枚)

―2000年代のロータスといえば、「エリーゼ(英国風の発音はエリス)」と「エキシージ」それに「エヴォーラ」と、ラインナップは限定的でした。

おかげで、といいますか、創設者コリン・チャプマン(1928年−1982年)の時代から、ロータスのライトウェイトスポーツカーを大きく評価してくれていたのは日本です。


日本でのロータスを決定づけたライトウェイトスポーツのエリーゼ(写真:Lotus Cars)

日本では「ロータスといえばスポーツカー」「スポーツカーといえばロータス」というイメージを持たれており、ロータスにとって大変重要な市場でした。

ロータスが新しいスポーツカーを発表するたび、日本の方々は評価してくれましたし、2016年や2017年を例にとっても、ロータスの販売のうち25%は日本市場です。

波乱万丈な“チャプマン以後”のロータス

近年のロータス(乗用車部門のロータス・カーズ)の歴史について、簡単に触れておこう。1946年創業のロータスは、いくつかの自動車ブランドと同様、いまにいたるまで、会社としては苦難のある道を歩んできた。

昔の日本車に詳しい人なら、トヨタ自動車が1981年に2代目セリカXX(ダブルエックス)を発表した際、コリン・チャプマンを広告に起用して話題になったことを知っているだろう。

実際、チャプマン率いるロータスは、セリカXXの足まわりのチューニングを手がけていたという。しかし、翌1982年にチャプマンは心臓発作で急逝。


チャプマンと1976年から2000年代まで長きにわたり製造されたエスプリ(写真:Lotus Cars)

ここから、ロータスの乗用車部門のオーナーシップは転々とする。1986年にはゼネラルモーターズに買収され、数々のGMグループ車のチューニングを担当。中には、いすゞ自動車が当時、手がけていた「ピアッツァ」や「ジェミニ」などにも「ハンドリング・バイ・ロータス」なる仕様が設定された。

1990年には、オーナーシップがブガッティ社に移った。このとき発売されたのがエリーゼだ。同社肝煎りのエンジニアリング技術により、押出成型のアルミニウム材をエポキシ系接着剤でつないだ、超軽量シャシーが話題になった。

1996年に、マレーシアのプロトンが負債とともにロータスを引き受け、2010年にはロータスF1チームも傘下に入れた。2017年に浙江吉利控股集団(ジーリー)がプロトンの株式を買収するとともに、ロータスもジーリーに組み入れられ、現在に至る。

組織運営を「英国発」からグローバルに

―いま、ロータスは変わりつつあるのですね。

われわれが重要だと考えているのは、英国生まれであること、そしてグローバルで成長していくブランドになることの2つ。伝統は重要です。同時に、グローバルなテイストを反映することも、また重要なのです。

これまで、英国にしかオペレーションがなかったので、英国独特のテイストがプロダクトに反映されていました。それが悪いとは思っていませんが、拡販していくには、個々の市場と向き合っていく必要があります。


現在でも3ペダルのマニュアルトランスミッション車をラインナップする(写真:Lotus Cars)

日本人が好むテイストや日本市場のニーズは、英国とも違うし、ほかの市場とも異なっています。中東でもオーストラリアでもアメリカも、それぞれ違います。

それぞれの地域の異なるニーズやテイストをしっかりと反映することが、ロータスの生き残りに重要だと考えています。

―バルマーさんがロータスに入ったとき、変革は始まっていたのでしょうか。

“これから”という段階でした。そこで、まずはチーム作りから始めました。私が入社するまで、“アジア太平洋のチーム”というものは存在していなかったのです。基本的に、英国から各マーケットの運営をしていました。

たとえば、アジア太平洋地域が重要なマーケットだと認識していても、駐在してダイレクトな情報収集や組織運営をしていなかったのです。


スポーツカーラインナップの中核を担うエミーラ(写真:Lotus Cars)

現在では、アジア、中東、アフリカ、オーストラリアなど、現地にオフィスを構えるようにしました。アジア太平洋地域にいるメンバーは、31名。国籍はさまざまで、12カ国ものメンバーで構成されています。

私は地域ごとに直接、CEOである上海のミスター・フン(馮縕峰:Feng Qingfen)にリポートをあげています。担当する市場にも、よりダイレクトな責任を持つようになっています。

―いま成功するためには、地域ごとに市場の特性を重視することが肝要だと、多くの自動車メーカーは話していますね。

はい。私は「One size fits allでやってはいけない」とか「単一スペックですべての市場がカバーできる時代ではない」と、スタッフに話しています。日本についても同様です。リージョナルチームをつくって、日本と台湾を専門に目配りさせています。

特に日本は例外的な市場です。私たちは現在、2019年の「エヴァイヤ」、2022年の「エレトレ(2つめのレは小さく発音)」、2023年の「エメヤ」、そして2024年の「エミーラ」と、電動車やSUVなどで市場を拡大していこうと考えています。


エヴァイヤは2000馬力に達するハイパーEV(写真:Lotus Cars)

しかし、日本の市場は、今のところスポーツカーが中心です。電動化は進むにしても、中国や韓国と同じスピードではいかないだろうと見ています。日本市場については、独自の戦略が必要です。

アイルトン・セナや中嶋悟への想い強い日本

-先の発言にあったように、日本市場でのロータス観は「ピュアなスポーツカーメーカー」で、意識を変えるのに時間をかけていくということですね。

韓国、香港、シンガポールといったアジアの市場で、ロータスは力をつけてきています。日本のような歴史がないため、ゼロ・スタートであり、電動化も速いスピードで展開していくだろうと考えています。

コリン・チャプマンをはじめ、ジム・クラークやアイルトン・セナ、中嶋悟らをドライバーとして擁していたチーム・ロータス(F1)を含めて、私たちの歴史に知悉(ちしつ)してくれている日本では逆に、アジア諸国と同じような販売戦略をとっても、成功は難しいのではないでしょうか。

時間をかけて“いいバランス”、つまりICE(エンジン車)とBEVの理想的なミックスが生まれるようにしていきたいと考えています。短兵急にことを進めるのではなく、日本市場とは、じっくりと着実に取り組んでいくことが求められています。


EVの4ドアGT(グランツーリスモ)、エメヤ(写真:Lotus Cars)

-いまのロータスの組織構成を教えてください

グループ・ロータスという会社があります。そこが、私が所属するロータス・テクノロジーの持株会社です。役員も同じです。ロータス・テクノロジーの下には、多くの異なった会社があります。多すぎてここではすべて言えないぐらいです。

コマーシャルの責任はロータス・テクノロジーにありますし、すべての製品の販売の責任を持っています。EVのためのエンジニアリングやマニュファクチャリングのファンクションを持っています。

自動運転を担当するロータス・ロボティクスもあります。この部門は今後、テクノロジーを外部に販売していくことを狙っています。ライフスタイルとデザイン、それに設計といった部門もロータス・テクノロジーの下に置いています。


EVのSUV、エレトレの登場はわれわれを驚かせてくれた(写真:Lotus Cars)

グループ・ロータスとロータス・テクノロジーとの大きな違いは、前者は株式非公開で、後者は2024年2月23日にアメリカのナスダックに上場していることです。この2つの会社の関係をたとえるなら、兄姉みたいなものですね。

テスラ、ルシード、リビアン…新興勢力との戦い

-BEVの新興メーカーも増えていますが、ロータスに勝機はありますか。

たとえばエレトレは、写真で見ただけではフルサイズのSUVです。それを私たちが作ったことで、多くの人たちに衝撃を与えたことは理解しています。

しかし、エレトレを運転してもらえば、スポーツカーメーカーが作ったSUVだと理解していただけるでしょう。デザインの意味や、テクノロジーの真価を感じていただけるはずです。


SUVであっても英国なスポーティさを持つエレトレのインテリア(写真:Lotus Cars)

自動車市場では、中国の新興メーカーもありますし、アメリカにはテスラ、ルシード・モータース、リビアンがあります。そして、どのメーカーも、非常に優れた技術を持っています。

ただ、新興メーカーには「物語が欠けている」と、私たちは考えています。スポーツカーづくりの伝統も足りないし、極端なことをあえて言えば、プロダクトにソウル(魂)がないし、哲学もない。ロータスは伝統があり、ソウルがあるメーカーです。

過去のモデルが実証している、“すぐれたクルマづくり”という歴史があります。同時に画期的な技術も導入することで、すぐれた存在だとご理解いただけるでしょう。

-最後に日本市場での“これから”について聞かせてください。

異なったさまざまなプランをあたためています。そのために日本のためのチームを持ち、市場の研究を怠っていません。

ディーラーネットワークも、ドラマチックとは言えないまでも変わっていくでしょう。過去20年間、日本のディーラーはライトウェイトスポーツカーの販売にフォーカスしてきました。ニッチな顧客相手に、ですね。


自身がクルマ好きであることがインタビューからもよくわかった(写真:エルシーアイ株式会社)

そこにあって、たとえばエミーラは、日常的に使える実用性、コネクティビティ、広い室内空間をそなえていますし、より広い顧客を相手にできるモデルです。EVでもスポーツカースタイルでドライブできる。それは絶対に楽しい体験になります。私たちにはそれが実現できる技術がありますから。

コリン・チャプマンの時代からいまにいたるまで、ロータスの技術は連綿と続いていることがわかってもらえるはずです。

ロータスの“ソウル”に期待を持って

冒頭で、私は「ロータスと聞いて心がざわざわする人は、筋金入りの自動車ファンだろう」と書いたが、これからのロータスは、もっと多くの人の心をざわつかせる存在になるのかもしれない。

ニッチな英国のスポーツカーメーカーとして培ってきた伝統と哲学、それと彼らがいうソウルを大切にしつつ、新興BEVメーカーとも戦っていく。たしかに、エレトレの登場には驚かされたが、それが“ロータスのいま”なのだ。

【写真】いまラインナップされるロータスの先鋭的なデザイン(37枚)

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)