のちにユニークフェイスの当事者活動をしていた時、親や医師に言われるがまま手術を受けた同世代の男性が石井氏に会いに来たが、その顔はやはり左右対称ではなく、顔半分が傷だらけだった。血管種がなくなったあとが傷になっていた。

 その男性は「なぜ石井氏は治さなかったのか」と聞いてきたが、石井氏がワケを話すと「親と医師の説明を聞いて完全に治ると信じていた」とショックを受けたという。

「車の営業をしていた人でしたが、傷だらけで、まるでオカルト映画に出てくるような顔でした。恋人もいないし結婚もしていませんでした」

◆アザは完全に治るという誤解

 石井氏は情報を集め、20代で顔の形成手術はしないと、自分の人生を決めた。「自分の顔をどうするかは自分で決めたほうがよい」と語る。

「今はレーザーなどでゆっくりだけど、治る人は増えています。だけど、それはアザの面積が狭く、浅い場合です。全員が完治するわけではない。私は医学論文も読んでいます。『完治するんじゃないか』という人がいますが、皮膚には個性があります。治療後の皮膚に個人差があることを一般の人は知りません」

 石井氏は1999年3月に『顔面漂流記: アザをもつジャーナリスト』(かもがわ出版)を出版する。

「外見の問題からくる差別や心の傷は日本では放ったらかしでした。本を書こうと思ったのは誰もアザについて書いている人がいなかったからです。本には葉書がついていました。担当編集者に『1通きたら100人の人が読んでいると思いなさい。初版3000部だから30通きたら大成功』と言われました。しかし、私の自宅には、手紙が何百通も届き、編集者は驚いていました」

 その内容は、外見の問題で自殺した人の遺族やひどいやけどを負った人、生まれつき髪の毛がないなど、深刻なものが多かった。「一緒にお茶飲みくらいではすまねえな」と思った石井氏は、任意団体ユニークフェイスを立ち上げる。

◆アザがあっても女性と交際していた

 顔の問題は「モテ」にも直結する部分があるが、恋人などはできたのか。

「こういう顔をしていると女のフィルターをかけやすいです。嫌悪感を持つ人は寄ってきませんから」

 そんな石井氏は後に離婚するものの結婚もし、子どもが2人いる。結婚前には、2桁の女性と付き合ったという。

「2年で一人つきあって別れる。20年経って40歳をすぎれば2桁はいくでしょう。子どもに遺伝するのではと、子どもを作ることを怖がる人がいますが、心配いりません」

 単純性血管腫の当事者の話も聞き、論文も読んだが、遺伝は確率的にほぼゼロだと断言する。「ほかの先天性の疾患になる可能性まで考えたら、気にする必要はないです」。

◆若い当事者たちに伝えたいこと

 現在はピアサポートや当事者会を開催する石井氏。顔のアザで差別を受け、精神疾患になっている人もおり、深刻な内容が多かったという。

「18歳を過ぎて社会に出てからは周囲も大人ですから、礼儀作法を身につけている。トラブルらしいトラブルはなかったです。私は普通に生きていますが、若い世代の当事者は、1人ぼっちで考えている。だけど、できる範囲でいいから、顔と名前を出して、この問題を発信していって欲しい」

 そんな石井氏は人生を旅だという。

人生、1回きりだと思っているし、志半ばで死ぬ人もいます。60歳までに『顔面バカ一代』の続編にあたる単行本を出版したいのと、死ぬまでに100人の当事者の人生インタビューと寄稿文でまとめた『ユニークフェイス生活史』という書籍を出したいです」と非常に前向きだった。

<取材・文/田口ゆう>

【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1