「話題づくりのための情報発信」を始めたのは2004年のことです。今では、Twitter(現X)のフォロワーさんたちとはとても深い関係性を築けていると自負しています(写真:Taka/PIXTA)

「何時間も考えたのに企画が通らない」「世の中をワッと驚かせるようなアイデアが生まれない」「本当はもっと大きな仕事がしたい」――仕事に打ち込む方なら、必ずこうした壁にぶつかると思います。

今でこそ時々「無双状態だね」と冷やかされる私も、かつては不遇が続き、そこから抜け出すためにいつも悩み、たくさんの汗をかいてきました。だからこそ、うまくいかずに悩んでいるビジネスパーソンの気持ちが痛いほどわかります。

そこで、日々の仕事がうまくいくための仕事の考え方・向き合い方のヒントを、『無双の仕事術』という本に詰め込みました(この記事は本書より一部抜粋、再構成してお届けします)。

企業と人が気軽につながれる時代

私自身もこれまでの会社員人生の中で、さまざまな話題作りにチャレンジしてきました。ごく小さな規模のものから大掛かりな企画まで、数多くトライしています。

私はエステーの宣伝の責任者を長年やってきました。「話題づくりのための情報発信」を始めたのは2004年のことです。当時は「ブログ」全盛期で、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramはまだ存在しませんでした。

当時はまだ、企業と個人が気軽につながれる時代ではありませんでした。自分が制作を手掛けたCMについて、感想を書いてくださっているブログを見つけたとしても、コミュニケーションをとるのは難しいものでした。

いざ勇気を出して、自分がCMの制作者であると名乗ってコメントをしてみたこともありましたが、怪しまれてしまったのか一切の反応はなく、なんとも寂しい思いをしたこともあります。

それから5年ほど経ち、時代は大きく変わります。企業の人間でありながらも個人として情報を発信することが許された私は、2009年12月にTwitter(現X)アカウントを開設しました。

これは企業アカウントでも、エステー社員としてのアカウントでもなく、鹿毛康司個人のアカウントでした。

2024年7月時点のフォロワー数は1万6000人とそれほど多くはありませんが、フォロワーさんたちとはとても深い関係性を築けていると自負しています。このアカウントを通じて、たくさんの人と出会いました。

西川貴教と出会うきっかけ

消臭力のCMでおなじみとなった西川貴教さんと出会ったのも、Twitter(現X)がきっかけでした。

ポルトガル出身のミゲル少年が、ポルトガルの街並みを背景にアカペラで歌う消臭力のテレビCMが放送されたのは、2011年4月のことです。私は視聴者の反応が気になり、ずっとTwitter(現X)のタイムラインを眺めていました。

通常、企業の商品CMについてつぶやかれるのは、1日数十件程度。ところが、このときは1日に数千件ものつぶやきがタイムラインにあふれていました。そんななか、西川貴教さんが消臭力CMについてツイートしてくれたことを知りました。複数の西川さんファンがリツイートし、教えてくれたのです。

後日、西川さんのコンサートに足を運び、楽屋でご挨拶させていただきました。テレビCMの話は一切せず、これまでのコンサートの話など世間話をする中で、驚くべきことを知ります。

西川さんは震災直後からアーティスト仲間と共に、自ら進んで復興支援活動に勤しまれていました。混乱した状況下でファンと仲間を気遣い、大量の情報をさばき、前向きなアクションをとり続けるのは容易なことではありません。

そんな方にテレビCMに出ていただけたら、なんて素敵なことだろうか。

西川さんとなら、広告主と出演者という関係ではなく、人間同士として一緒に何かを創り、新しいものを生み出していけるに違いないと確信にも似た思いで胸が熱くなりました。

その後、西川さんにテレビCM出演を快諾いただき、現在に至ります。

2004年にエステーのCM作りに携わるようになって以来、2011年まで有名人の方に出演していただくことはほぼありませんでした。人気を借りて、商品やサービスに魅力があるようには見せたくなかったからです。

事情を知らない方が見れば、「エステーも有名人の力を借りているじゃないか」と映るかもしれません。

でも、西川さんとの関係は「広告会社からリストアップされた有名人にオファーし、契約金を払って出演してもらう」という一般的な出演交渉とはまったく異なる、“ご縁”によるものでした。

元モーニング娘。の高橋愛さんや田中れいなさんともそれぞれ、別のご縁があって出演いただいています。

共通するのは、有名人と制作スタッフという関係性ではなく、いつも一緒に、お互いがスタッフの一員としてものづくりをしているという点でした。

その後、私たちの宣伝活動に共感・共鳴してくれる仲間たちと強い絆で結ばれていきます。SNSでやり取りしたり、リアルなオフ会で集まったりもしています。会費無料の「エステー特命宣伝部」に入会いただいた方は、コアなメンバーとして一緒にムーブメントを作ってくれます。

こういった仲間のおかげで年に数回、百万単位のインプレッションが普通に起きている状況が続いています。

水道水の上から水を流すのではなく、横から仲間として参加する。簡単なようでつい忘れがちになります。

話題づくりは、絆づくり

エステー時代の部下である女性の方は、熱烈な西川貴教さんのファンでした。あるとき、その彼女が私をファンクラブイベントに誘ってくれました。もちろん一般のファンとして、自腹を切り、関係者ではなく、参加者の1人として、みんなと団体行動しようという提案です。


私のような昭和のおじさんが、ファンの皆さんとなじめるのか不安もありましたが、勇気を振り絞って沖縄で行われた西川貴教ファンクラブイベントに3泊4日で参加しました。

西川貴教さんと一緒に写真を撮ったり、ライブに出かけたり、ハイタッチしたり、さまざまな貴重な経験をさせていただきました。

仕事のときは写真なんて絶対に撮らないし、握手もしません。打ち合わせでよく話をさせてもらっているけれど、それとはまったく違う、ファンとアーティストの関係性での時間を過ごさせてもらいました。

特命宣伝部の皆さんと同じ気持ち、同じ視点で活動することで、何かが生まれるんですよね。そこにはなんの企みもありません。

本気の西川貴教ファンに囲まれて緊張したけど、逆にみんなが、おせっかいを焼いてくれて、朝食を一緒に食べてくれたり、話しかけてくれたり。ありがたい人たちです。

また、新たな絆をつむいでいただきました。

(鹿毛 康司 : 株式会社かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター)