横浜地方裁判所/筆者撮影

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 児童から告白の手紙をもらったことで、本気にしてしまった元校長。今年2月下旬から5月27日にかけて、強制わいせつ罪に問われた神奈川県内公立小の元校長の裁判が横浜地裁(倉知泰久裁判官)で開かれていた。
 被告人は男性で、名前は裁判所から秘匿決定がされており、開廷表の名前を記載する部分は空白という徹底ぶりだったという。この裁判では、傍聴席が常に満席状態。後日、背景には”市教委の傍聴人の閉め出し作戦”が隠されていたことが発覚した。

 実は、法廷前の異様な様子にいち早く気づいていた傍聴人がいたのだ。本記事では、この傍聴人などへの取材を基に裁判の経過を振り返っていく。

◆「お互い見つめ合ってキスを…」と供述

 被告人は、神奈川県内の公立小学校の元校長A。Aは、2021年9月〜10月頃に校長室で複数回にわたり、女子児童(当時9歳)にキスをしたり着衣に手を入れるなどして強制的にわいせつな行為したとして、「強制わいせつ罪」で起訴されていた。

 この事件は判決までに4回の公判が開かれ、初公判は今年2月下旬、起訴状の読み上げや検察側の冒頭陳述などが行われた。検察側はAの調書を読み上げ、「被害者へキスしたり抱きついたのが6・7回くらいあった。お互い見つめ合ってキスをした」などと供述していたことを明かした。

◆妻との会話を涙ながらに語るA

 第2回公判は、初公判から1か月後の3月下旬に開かれ、被告人質問が行われた。弁護人や検察官からの踏み込んだ質問に、Aの回答は生々しいものばかりだったという。

 まず、弁護人から単刀直入に犯行の動機について問われ、Aは次のように答えた。

「被害者がよく遊びに来てくれて、とてもいじらしくて可愛らしくて、恋愛感情を抱いてしまいました。被害者からも『校長先生大好きです。今度デートしませんか?』という手紙をもらったので、被害者も同じような気持ちを持っていると認識していました」(Aの被告人質問から)

 被害児童にとって、Aは「頼れる優しい大人」だったかもしれない。そんなちょっとした、たわいもない気持ちで渡したであろう手紙を、大人であるべきAは真に受けてしまったというのだ。

 他方で、誰しも小学生の頃に「校長先生は怖い人」と思ったことがあるだろう。被害児童が恋愛感情を持てるほどに、Aはより一層児童へ親しかったともいえる。

 このことについて、弁護人から「児童との関わりで意識していたことは?」と尋ねられ、Aは「距離を置かない関係で、開かれた校長室を目指していました」と語っていたという。

「子供想い」の行動が悪の方向へ進んでしまったようで、Aは「とんでもない事をしてしまって、申し訳ないと思っています。決して、してはならない事をしてしまいました」と謝意を述べ、謝罪文を書いたことや示談を求めたことも明かした。

 また犯行時に妻と同居していたAに、弁護人は「今回の件について妻はどう言っていた?」という質問をしたところ、涙ながらに「妻からは同居は拒否されていません」と述べ、今後教職への復帰の意向はないと胸の内を語ったという。

◆他の児童へ好意を抱いたことはあったのか

 次に検察側からも質問が行われた。検察側から「犯行をしないようにするには、どうすれば良かった?」という質問に、「他の子供と同じように外で遊んだりすれば良かったと思っています。自分の気持ちが高まって、このようになってしまいました」と後悔の念を述べたとのこと。もっとも、長い教職生活の中で他にも児童へ好意を抱いたことはあるかという問いには、Aは「今回が初めてです」と終始否定したという。

 そして4月下旬の第3回公判で、検察側は懲役2年を求刑。5月24日の判決公判では、懲役1年6ヶ月執行猶予3年が言い渡された。