倉知裁判官は、「被害児童の今後の心身の発育に影響を与えることも強く懸念される」と指摘し刑事責任は重大としつつも、反省の態度を示していることや、すでに懲戒免職処分を受けていることなどを考慮して執行猶予付きの判決とした。

◆「傍聴席問題」について

 この裁判では、第1回公判から判決まで、約50席の中規模の法廷が使用されていたが、それでも常に満席状態。もっとも、「性犯罪」の裁判で開廷前から傍聴希望者が殺到して、傍聴席が満席となってしまうことは珍しくない。

 筆者が通う東京地裁でも、性犯罪裁判は開廷前から傍聴希望者で列を作っていることが当たり前なのだ。著名人の裁判や有名事件では抽選式の「傍聴券」が交付されるが、今回のような一般事件のほとんどは「先着順」となり、傍聴希望者は法廷前で開廷まで並んでなければいけない。

 だが、今回の裁判の法廷前は、裁判所に足しげく通う傍聴人でも感じる「異様さ」があったとのこと。裁判記事を執筆しているフリーライターB氏は、偶然にもこの法廷前を通り過ぎてある確信を持ったという。当時の様子について、筆者の取材に対してこう語った。

「2月下旬の第1回公判では、1時間以上前から法廷前に列ができていました。開廷50分前には定員超過となってしまい、傍聴席に座れないのを分かっていながら誰一人として列から離れようとしませんでした。また、全員がスーツ姿で、一言も会話せず、関係者同士で挨拶する光景もありませんでした」

 その異様な「スーツ集団」こそ、そのほとんどが横浜市教育委員会の関係者だったのだ。

 第1回公判の約3か月後の5月21日、市教委は一般人を傍聴させまいと職員総出で「傍聴妨害」をしていたことを明かし、「一般の方の傍聴の機会が損なわれたことについて、大変申し訳なく思っています」と謝罪した。

◆“傍聴人の閉め出し作戦”のきっかけとなった文書

 市教委は会見で、2019・23・24年度に行われた4件の公判の計11回で、1回当たり最大50人を要請・動員したことを認めた。なかには、出張手当を支給したものもあり、要は公金を使って「裁判公開原則」を無視した傍聴人の閉め出しをしていたというのだ。

 筆者は、“傍聴人の閉め出し作戦”のきっかけとなった文書と、本件で職員に出張を命じる文書の2枚を入手。文書には、作戦の目的として「被害児童保護の観点から、部外者による児童の特定を避ける必要があります」と記載されていた。

 また、NPO法人が市教委へ傍聴妨害を要請した文書には「関係者が集団で傍聴に来たとわからないようにした方がいい」、「互いに声をかたりせず、知らないふりをする」などと作戦がバレないように注意事項が書かれていた。

 B氏は市教委関係者よりも早く並び、第2回公判と判決公判を傍聴したという。ただ、傍聴人界隈ではこの報道に驚きの声は少ない。筆者も一報を聞いて「横浜が露骨だっただけ」と感じてしまったほど。教職員の性犯罪裁判は基本的にスーツ姿の関係者ばかり。それだけではなく、有名事件では多数の警察職員が抽選式の傍聴券を入手しようと並び、結局当選したら数名だけ傍聴する。落選した人もいるなか、傍聴席に空席が目立つことさえあるのだ。

裁判公開の軽視は許されないこと

 近年は、裁判所も問題視されるほどに「秘匿化」が進んでいる。実際に今回の裁判でも、被害児童が特定されないようにと、当事者名など秘匿決定がなされている。裁判公開を軽視した行政の出しゃばりは、断じて許されないこと。

「開かれた校長室」どころか、「開かれた裁判」すらなかったようだ。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。