(写真:Michael Steinebach/アフロ)

私は世界中をパソコンを抱え、旅しながら生活するいわゆるノマド、FIRE生活を送っています。

よく海外から見た日本社会のここが変、あるいはその逆のここが素晴らしい、といったことが話題になります。こういう記事で気になるのは、「だから日本は素晴らしい」「だから日本はダメだ」という結論ありきで、なんで日本はそうなのか、という考察が足りないことです。

生まれつき有能な民族も無能な民族も存在せず、社会の仕組みや感覚の差があり、その集合体の日本という国や、別の国の個性があるわけです。

ただ、日本が他人のマナーに厳しかったり、とにかく騒がれるのが苦手な民族であることは、疑いがないようです。でも、なぜなんでしょうか。記憶に新しい渋谷のハロウィン中止騒動を見ていて、「ああ、これはいかにも日本の現象だな」と思いました。

カラオケを生み出した日本人は騒ぎたい人種

まず、大前提としてどの国民であろうとも、一部の若者(若者じゃない人も)は街に繰り出して騒ぎたいのです。これは日本人であろうがどこの国であろうが大差はありません。いや、日本人はそんなに騒ぐ民族ではないぞ、という方もおられるかもしれませんが、例えばカラオケボックスを作ったのは日本人です。

カラオケを、歌のうまい素人の友人の歌をしっとり聴く場所だと思っている方は少数派でしょう。あれは盛り上がるための場所です。ただ、防音で区切られているため外に音漏れが少なく、だからこそ気を遣う日本人でも盛り上がって騒いで楽しめる空間となっています。

つまり、日本人も含むすべての国の一部の人は騒ぐのは好きだが、日本人は他人が騒いでいることに不寛容、あるいは騒いでいるところを他人に見られることは恥である、と考える民族と言えるかもしれません。

先に私見を述べておきますと、かつて渋谷に住んでいた際、会社からの帰宅途中にハロウィンの行列に巻き込まれたことがあります。私自身は仮装パーティに興味がありません。しかし、年に1回ならこんな日があってもいいなと思えました。つまり、やってもやらなくても「どうでもいい」というスタンスです。

ベルリン地下鉄のメッセージ「どうでもいい」

さて、「どうでもいい」はドイツ語で Is mir egal と言います。実はドイツのベルリンの地下鉄のキャンペーンで作られた曲で同名の曲があります。数年前に日本でも話題になったんですが、その動画が面白いので興味がある方は一度ご覧になってください(→BVG - „Is mir egal", ft. Kazim Akboga)。

この曲は地下鉄やバスなど公共交通機関でさまざまな、日本人の感覚ではマナーが悪いとされている人(例えば、髪を逆立ててパンクロック風のファッションをした人や、電車内で楽器を演奏する人、馬に乗った人、愛し合うゲイカップル、仮装をした人、電車内で玉ねぎを切り刻む女性)に対して、「どうでもいい」(乗ってかまわない)と言い続けています。

この動画内で地下鉄に乗れなかったのはただ1人、お金がなくて電車賃を払えなかった男性のみです。ベルリンの地下鉄は東京ほど混雑はしませんが、大国の首都であるベルリンは地下鉄乗車率はそこそこ高いです。

それでも、乗客へのマナーを啓蒙する代わりに、「うちらは電車内でどんなことをしてても大抵のことは許すよ」というメッセージを発しています。ここでベルリンを住みにくそうと思った方(大抵の日本人はこっちだと思われます)も、住みやすそうだと思った方もいらっしゃると思います。

ドイツと日本の公共の場所でのマナーに対する許容度の違いはわかっていただけたと思います。ではなぜドイツと日本ではここまで考え方が変わるのでしょうか。

その背景を探るうえで、ドイツでも比較的保守的なイメージのあるミュンヘン滞在中に経験したことをこれから書きます。

ミュンヘンで気づいた日本との週末の違い

日曜日にミュンヘンに滞在していた私は、スーパーマーケットがほとんど閉まっていることに気づき愕然としました。人口150万人のミュンヘンは日本で言えば福岡か札幌ぐらいの都会で、日本人の感覚からすれば休みの日だからといって買い物に苦労するとはつゆほども思いませんでした。

いろいろと調べ、長距離移動バスや鉄道が終着するターミナル駅周辺のスーパー1、2軒が営業していることに気づいて事なきを得ました。

ドイツは日本と同じくレジなどの軽作業は外国人労働者も多いのですが、日曜日は本当に有色人種しかおらず、なぜドイツ人は日曜日に働かないんだろうと思いましたが、そこである結論に至りました。

その結論は、日曜日のミュンヘンの人の多くは、教会に行って礼拝に行っている、ということです。キリスト教徒の多くは日曜となると午前中は礼拝に行って、午後は家族のための時間を過ごします。もちろん日本と同様に事実上無宗教の方も多いですが、それでもこの都市の基本マインドはキリスト教に準じたものであり、だからこそ日曜日に人前に出て働くのは少し恥ずかしいこととなっています。

そもそも、キリスト教の教えとして、労働(金儲け)はどこか恥ずかしいこととされています。この宗教観からくる違いはかなり大きいと言わざるを得ません。勤勉な日本人は、休みの日に働いている人はむしろ偉い人であり、少なくても日曜に働くことは恥ずかしいことではありません。

だからこそ、仮にビジネス上の理由で渋谷駅を占拠するイベントを行うのであれば反対はしないけど(東京オリンピックのマラソン競技で街を一定期間占拠することは大きな反対はありません)、ただ若者(?)が騒ぎたいだけで道を占拠するのは迷惑千万という認識になるのでしょう。

しかし、ドイツ人からしたら、礼拝が終わった午後なら、家族で休んでいるわけですから、街を通行止めにしてイベントをしようが構わないという結論になります。

ヨーロッパは日本より気温が低く、野外のイベントを行うのは夏の間の短い期間のみです。ですので、夏の間は毎週末、さまざまなイベントで街を通行止めにします。これは観光客や滞在者としては、なかなか面倒くさいものでした。

ただ、ここまで書いてきてひっくり返すようではありますが、ハロウィンに関しては、ドイツでは大騒ぎする人は少ないと思います。なぜなら、ドイツで主流派となっているキリスト教の流派、プロテスタントの教えでは、10月31日はルターが宗教改革したことを祝う日であって、しめやかに過ごすからです。

かといってドイツが仮装パーティをやらないかと言ったらそうでもなく、「カーニバル」「ファッシング」などと呼ばれる仮装パーティを別の日に行っています。彼らは仮装をして街を練り歩き交通を遮断します。

重要な異文化への理解

このように国によって考え方や習慣には大きな違いがあるのですが、世界のビジネスルールを作ってきた欧米の基本的マインドセットであるキリスト教とその価値観について少しだけ勉強しておくことは、この先の人生できっと損することはないと思っています。

そして、それをわかったうえで、やっぱりいつだって誰かが働いてくれてスーパーマーケットが開いている日本って住みやすいよね、と感じることもあるでしょう。一方で、休みを取るのは申し訳ないと思ってしまう日本の働きづらさを解決する糸口として、このような価値観の違いを知ることは重要ではないでしょうか。

最後になりますが、日曜に必ず仕事を休むドイツは2023年、日本の3分の2しかいない人口で日本のGDPを抜くとIMFは予測しています。日本がドイツから学ぶことはまだあるかもしれません。

(楽園の地図 : ライター、旅人、個人投資家)