人材を採用するうえで、重視すべきポイントとは(写真:nonpii/PIXTA)

企業にとって人を採用することは重要な経営イシューである。そして採用に携わった人なら誰しも、その難しさを感じたことがあるだろう。どこを見て選べば良いのか、何を基準に採用すればいいのか。ともすれば即戦力を期待して「スキル」「経験」の優越で選びたくなるところだが、そこには落とし穴もある。『経営を教える会社の経営』(東洋経済新報社)の執筆者であるグロービスの内田圭亮氏が、採用におけるポイントを解説する。

本稿ではまず、グロービスが人材を採用するうえで、重視している点をお伝えします。グロービスでは、数十にわたるポジションを募集しているため、各ポジションに求める必要な能力要件はそれぞれ異なります。また、すべて中途(キャリア)採用であることから、該当する能力を保有しているかどうかを重視していることは間違いありません。

ただ、それ以上に重要視していることがあります。それは、本人が大事にしている価値観と、グロービスの大事にしている価値観とが、どれだけ一致するかです。また、本人が成し遂げていきたい志と、グロービスのビジョン/ミッションとの間に、いかに大きな重なりを創れるかという点も非常に重要です。この価値観の一致度合いや、ビジョン/ミッションの共鳴度合いについては、非常に高いレベル感で求めることとしており、この点については一切の妥協を排して臨むことを決めています。

能力が高くても価値観がずれていれば見送り


つまり、どんなに能力が高く優秀な人物に出会えたとしても、この価値観や目指しているビジョンについて少しでもズレを感じた場合には、残念ながらお見送りをさせていただきます。

また、ズレとまではいかないまでも、何か一点の曇りを感じるような違和感を抱いたり、採用判断に迷ったりした場合にも、お見送りさせていただくということを決めています。

このように厳格な運用をしている理由はシンプルで、グロービスのマネジメント・スタイルは、Management by value(価値観によるマネジメント)で行うためです。

価値観によるマネジメントとは、To Do(やるべき事項)やタスクを管理するのではなく、組織として大事にしたい価値観を全メンバーが体現できているかどうかを管理するマネジメント手法のことです。そうすることで、受け身型の指示待ち社員ではなく、自律型社員を育成することが狙いです。

そして入社後にすべてManagement by valueで向き合うからには、入社時点でValue(価値観)の共有度合いが極めて高いレベルにあることが非常に重要になるのです。

人間、能力は鍛えれば鍛える程高まっていくものなので、能力については多少不足していることがあったとしても、入社後の努力でいくらでもキャッチアップできますし、その後も能力は伸ばし続けることが可能です。一方の価値観については、変えることが難しい性質のものですし、仮に変えることができたとしても、そもそも変えるべきものかと言われると必ずしもそうとも言い切れないものでもあると思います(価値観を変えることが、その人にとって本当に望ましいことかわからないためです)。

この「Valueの共有」を原則とする採用ポリシーを踏まえて、グロービスの採用では保有スキル以上に、その方の価値観や性格に迫るような質問を重ねることでその方の内面を掘り下げさせていただくようにしています。それ故に、よく候補者からは「グロービスの面接では、他社では訊かれないようなことを沢山訊かれた」という声をもらいます。他にも、「面接というよりはカウンセリングとかコーチングを受けているかのようだった」等という声もよく聞きます。

「異質の効用」の追求

この「Valueの共有」の原則ばかりを追いかけていたら、金太郎飴のように同質性の高い同じような人ばかりの集団になってしまうのではないか、という点が気になるのではないでしょうか。昨今は、多様性(ダイバーシティー)の重要性が叫ばれるようになって久しいので、その疑問が生まれてくるのはもっともです。組織は、同質性の塊になってしまうと、凝集性は高まるかもしれませんが、どうしても同じような物の見方をしてしまうので、新しい発想や切り口で考えられる人が出にくくなります。すると、結果として、その組織は環境変化に耐えられなくなってしまいがちです。

そこで、グロービスでは「Valueの共有」の原則と並んでもう1つ大事にしていることがあります。それが「異質の効用」の追求です。「異質の効用」を追求するというのはどういうことかというと、これまでの経験(バックグラウンド)や保有している能力、それから物事を見る視点については、既存のメンバーとは異なるものを持っている人を採用しようということです。

グロービスがこの「異質の効用」を重視している理由は、組織としてのクリエーティビティーが高まり、イノベーションを生み出す可能性が高まるためです。イノベーションの父と呼ばれるヨーゼフ・シュンペーターによると、「イノベーションとは新結合である」と提唱されていますが、まさにグロービスは異質と異質との融合によって、イノベーションが生まれていくと考えています。そういったクリエーティビティーを重んじる新たな企業文化を作り出し続けるべく、この「異質の効用」を追求することを掲げています。

なんでも多様性を追求すればいいわけではない

せっかくの機会なので、ここで組織における多様性のあり方について確認しておきましょう。「組織において多様性が重要である」ということについては論をまたないことだと思いますが、皆さんは、そこで言う多様性とは何を指しているかについて具体的に考えてみたことはあるでしょうか? 組織における多様性とは、具体的に何が多様であると良いのでしょうか? 何でも多様であればある程、望ましいのでしょうか?

これらの問いに対しては、ぜひ読者の皆さんそれぞれの解を見出していただきたいと思っていますが、採用ポリシーに「Valueの共有」の原則と、「異質の効用」の追求を掲げるグロービスの考え方を共有しておきます。

グロービスでは、保有能力や物事を見る視点そのものもそうですし、それらの差異につながる国籍・性別・宗教・年齢・性的志向等については多様な方が良いと考えているため、「異質の効用」を追求すべく多彩な個を重視して採用しています。

一方で、大事にしたい価値観や目指すビジョンについては多様であることが良いことだと考えてはいません。なぜならば、会社や組織は世の中に数多存在し、それぞれに異なる存在意義やパーパスを掲げています。そうした中で、組織というのは、とある目的の実現のために集まっているものである以上、その全員が共有できるビジョンや価値観(価値観については、完全一致しているというよりは、大切にしたい通底する価値観)があることが重要であると考えています。

このように組織においては、多様化させたほうが良いものと、共有化・共通化させたほうが良いものとを、一緒くたにすることなく、きちんと切り分けて考えることが重要です。

(内田 圭亮 : グロービス経営大学院教授)