上司が評価面談で意識すべきこととは(写真:takeuchi masato/PIXTA)

上司として、部下の評価面談に苦手意識がある方も多いのではないでしょうか。目標が未達成の部下をやる気にさせようと期待を伝えたら、「そんなに期待されても……」と言われてしまったり、なかなか評価されない部下に対して「あなたが頑張っていること、よくわかっているよ」と寄り添っていたつもりが、「会社に評価されないなら意味がない」と言われてしまったり。

期待をかけてもだめ、寄り添ってもだめとなれば、どのように伝えるのがいいのでしょうか。『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』を上梓した川内正直氏に、評価面談のポイントについてうかがいました。

前回:『辞めないと思ってた部下が退職したまさかの原因

上司が評価面談で意識すべきこととは?

多くの会社で評価者は管理職が担うことが多いが、そもそも管理職には会社とメンバーをつなぐ「結節点」としての役割が求められていることを念頭においてほしい。

会社の評価結果を一方的に伝える面談では、「自分の言い分も聞いてほしいのに……」と部下の意欲を損ねてしまう。逆に、「あなたの頑張りは理解しているよ」と部下に寄り添っているつもりでも、「会社はわかってくれないんだな」と会社への不信につながりかねない。会社と部下のどちらか一方に寄りすぎては、「結節点」としての役割を果たすことができない。

では、どのように評価面談を進めればいいのだろうか?

評価面談は、次のステップで進めることをおすすめする。

1. 場をつくる
2. 部下の自己評価を聴く
3. 評価を伝える
4. 評価をすり合わせる
5. 今後の課題・期待を伝える

ステップごとに、評価者が意識すべきポイントを解説していこう。

1. 場をつくる際のポイントは「side by side」

いきなり本題に入るのではなく、まずは場づくりから始める。一緒に頑張ってきた部下をねぎらう言葉や、貢献に対する感謝を忘れずに伝えよう。心では感謝していても、言葉にするのを忘れてしまいがちなので、意識したいところだ。

評価面談は、上司が部下を説得する場ではない

場づくりで意識したいのが「side by side」の姿勢だ。一般的な評価面談のイメージは、上司と部下が向き合う「face to face」の姿勢だろう。しかし、評価面談は上司が部下を説得する場ではなく、部下の成長を促す場であることを鑑みると、あたかも横並びで座っているように同じ方向を見ながら未来のことを一緒に考える、「side by side」の姿勢が望ましい。

ひと昔前であれば、部下に「正解」を示せたかもしれない。しかし、環境変化が激しく先行きが不透明な今、必ずしも上司が正解を持っているわけではない。だからこそ、「side by side」の姿勢で上司と部下が一緒に「最適解」を考えていくことが大切だ。


(画像:『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』)

2. 部下の自己評価を聴く際のポイントは「アクティブリスニング」

次のステップは、部下の自己評価を聴く時間だ。「聞く」ではなく、あえて「聴く」という字を使っているように、上司は「アクティブリスニング」を心がけたい。部下の話を「傾聴」し、理解しようと努めること。部下の話を途中で遮ったり、話の良し悪しを判断したりせずに「受容」すること。部下の立場に立って「共感」を示すこと。この3点を意識することで、以降のステップで部下の納得感が醸成されやすくなる。

3. 評価を伝える際のポイントは「アイメッセージ」

次は、上司から部下へ評価を伝える番だ。このときにやってはいけないのが、「役員がこう言っていた」「会議で決まったことだから」などと他者を主語にすることだ。また、「俺はもっと高く評価してるんだけど、上がね……」といった伝え方も避けるべきだ。これでは、部下の納得感は得られない。評価を伝えるときは、評価者本人の一人称、すなわちアイメッセージで話すことをおすすめしたい。

4. 評価をすり合わせる際のポイントは「表層深層フレーム」

評価を伝え終わったら、部下の納得感を醸成するために、お互いの評価をすり合わせる必要がある。このときに意識したいのが、部下の「表層」ではなく「深層」に働きかけることだ。

上司の評価と部下の自己評価がズレていたり、上司と部下で評価基準の捉え方が違っていたりするケースは少なくない。そんなとき、一方的に「その基準は間違っているから、こう考えなさい」と言っても、部下は納得してくれないだろう。そこで、活用したいのが「表層深層フレーム」だ。


(画像:『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』)

部下が「納得できない」理由

部下と上司には、それぞれ「表層=目に見える言動」と「深層=目に見えない意識や思いなどの前提」がある。

例えば、上司が部下に対して「顧客との関係構築力の項目の評価は△だ」と伝えたとする(言動Y)。これに対し、部下が「なぜ△なのか納得できません」と言ってきた(言動X)。部下は、既存顧客から追加提案の機会を獲得できていたので、関係構築力は十分に発揮できたはずだという前提を持っていた(前提X)。そのため、「納得できない」という言動が表面に現れたわけだ。

一方で、上司は「期初の目標設定のときに、関係構築力の評価ポイントは、部下が得意とする既存顧客の深耕ではなく新規顧客の開拓だと設定していた。たしかに既存顧客への追加提案は素晴らしいが、今期の狙いだった新規顧客開拓はできていない」と考えていた(前提Y)。


(画像:『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』)

「私の考えはこうだ」「自分はこう思う」というように、表層だけを比較しても納得感は生まれない。大切なのは、深層にある背景や考え方をすり合わせることだ。評価面談では、部下の表層の言動を正そうとするのではなく、その背後にある目に見えない考え方や暗黙の前提を言語化させるようにしよう。そうすることで、表層の言動も、すり合わせた前提に基づいたものへと変化しやすくなるはずだ。

5. 今後の課題・期待を伝える際のポイントは「4W1H」

評価面談の最後には、部下が目指す姿に向けて取り組むべき「次なる課題」を明確にするとよいだろう。そのためには、現状の問題を掘り下げる必要があるが、評価面談において「Whyを繰り返す」ことはおすすめしない。設備の不具合の原因を探る場合などには有効な手法だが、Whyを繰り返すと人格否定のように受け取られる可能性があり、相手に心理的ダメージを与えかねない。

望ましいのは、「何が成功を妨げましたか?(What)」という原因特定的な質問や、「どうすればうまくいきますか?(How)」という未来探索的な質問だ。このように、Whyではなく「4W1H(When, Where, What, Who, How)」を使って部下の次なる課題を設定したい。

そして最終的には、今後の期待を伝えることで部下のモチベーションを高めて締めくくりたい。このときも、こちらの記事で紹介したモチベーションの公式「will × can × must」を活用し、モチベーションを高めよう。

日頃から信頼関係を築いておくことが何より大事

評価面談で意識すべきポイントを示してきたが、前提として重要なことは、「信頼関係が構築できているかどうか」だ。上司と部下の間に信頼関係がないと、部下は「この人の言うことは素直に聞けない……」「ちゃんと評価されるとは思えない……」といった気持ちを抱えて面談に臨むことになり、上司が何を言おうと納得感は得られないだろう。


逆に、信頼関係があれば、たとえ同じことを言ったとしても、「普段から自分を見てくれているこの人の言うことだから、ちゃんと受け止めよう」と納得してもらえるはずだ。信頼関係を構築するために、日頃からコミュニケーションの「量」と「質」を意識してみてほしい。

若手は「評価されていない」「成長できそうにない」と感じると、離職を考える傾向がある。逆に考えれば、評価に納得できていて、成長実感を得られていれば、この職場で働き続けたいと思えるはずだ。

「そうは言っても、今の制度じゃ難しい」と思う気持ちもよくわかる。しかし、制度そのものを変えなくても、運用を工夫することで、部下の納得感や成長実感を高めることは可能だ。人事制度を運用するのは、上司である管理職自身。若手の離職に悩んでいるなら、人事評価の運用を見直してみてほしい。

(川内 正直 : リンクアンドモチベーション 常務執行役員)