by NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben

「地球に衝突しそうな小惑星や彗星(すいせい)の軌道をずらす」と聞くとSF映画や小説のようですが、実際にアメリカ航空宇宙局(NASA)は2022年9月、小惑星に宇宙船をぶつけて軌道をずらす能力を実証する「DART」というミッションを実行しました。すでに宇宙船が小惑星にぶつかったことは確認されていましたが、新たにNASAが「小惑星の軌道がどれだけずれたのか」を発表しました。

NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space | NASA

https://www.nasa.gov/press-release/nasa-confirms-dart-mission-impact-changed-asteroid-s-motion-in-space

Smashing success: NASA asteroid strike results in big nudge | AP News

https://apnews.com/article/nasa-asteroid-strike-success-d2441c59fb10e3956c4e6bfaf7c0d017

Success! NASA Knocked an Asteroid Off Course (And Now It Has a Tail) : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/success-nasa-knocked-an-asteroid-off-course-and-now-it-has-a-tail

DARTミッションでは冷蔵庫サイズの無人宇宙船「DART」を飛ばし、地球近傍小惑星のディディモスを公転する直径約170mの衛星・ディモルフォスに衝突させ、軌道を変えることが目標とされていました。なお、ディディモスおよびディモルフォスは2.1年周期で太陽を周回していますが、地球に脅威を与えるとは考えられていません。

現地時間の2022年9月26日、DARTは見事にディモルフォスと衝突しました。この際、衝突寸前のDARTが撮影したディモルフォスの映像も公開されています。

NASAの「小惑星に宇宙船をぶつけて軌道をずらす実験」が成功、衝突直前の宇宙船が捉えた小惑星の映像も - GIGAZINE



NASAは衝突から2週間にわたりデータ収集と分析を続け、10月11日に「DARTがディモルフォスの軌道を変えることに成功した」と発表しました。ディモルフォスはDARTの衝突前、ディディモスの周囲を11時間55分で周回していましたが、衝突後はディモルフォスとディディモスの距離が数十mほど縮まり、周回時間が11時間23分に短縮されたとNASAは報告しています。NASAの惑星科学部門ディレクターを務めるロリ・グレーズ氏は「皆さん、ちょっとだけ時間をとって今回のことに浸りましょう……史上初めて、人類は小惑星の軌道を変えたのです」とコメントしました。

当初、DARTミッションを「成功」と位置づける基準として設けられていたのは、「周回時間を73秒以上変えること」でした。DARTの衝突後、NASAは「最大で10分近く周回時間が変わるかもしれない」と予想していましたが、実際の観測結果は想定を大幅に上回るものだったことになります。

また、ハッブル宇宙望遠鏡が10月8日に撮影したディディモスおよびディモルフォスの写真を見ると、DARTの衝突によって飛び散ったディモルフォスの破片が「尾」のように見えるのがわかります。NASAの科学者らは、衝突によって宇宙へ散乱した岩石もディモルフォスの軌道を変えるのに大きな役割を果たしたと考えており、DART衝突による運動量伝達の効率なども含めて分析を進めているとのことです。



by NASA/ESA/STScI/Hubble

NASAのビル・ネルソン長官は、「私たち全員には、故郷である地球を守る責任があります」「NASAは、自らが真剣に地球の防衛者となろうとしていることを証明しました。これは惑星防衛と全人類にとっての分岐点となる瞬間であり、NASAの優れたチームおよび世界中のパートナーのコミットメントを示すものです」と述べました。

地球を守るために宇宙船を小惑星にぶつけて軌道をずらすには、事前に衝突を察知しなくてはならず、宇宙船の調整や打ち上げなどの準備期間も重要です。それでも、小惑星に宇宙船をぶつけて軌道をずらすことが可能だと示されたことは、今後「地球にぶつかる可能性が高い小惑星」が発見された際の希望となります。

イギリスのノッティンガム・トレント大学の天文学者であるダニエル・ブラウン氏はAP通信へ送った電子メールで、「これは、将来の小惑星衝突から身を守るための第一歩を踏み出したというだけでなく、それ自体が大きな偉業でもあります」とコメントしました。