Tom Sheehan

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Radioheadの社会問題への関与の中心には、エコロジーがある。ロンドン在住のライター坂本麻里子は、本稿にこう記す。

遡ること約20年前、Radioheadのチーフソングライターであるトム・ヨークはとある雑誌記事のなかで以下のように語っている。

「ツアーをたくさんするにつれて、“すばらしい西欧”は僕らが思ってたほどすばらしいもんじゃないってことがすごくはっきりした……メキシコやタイに行ったらクソはっきりしたよ」(『snoozer』2000年6月号掲載「Jubilee 2000」にまつわるウェブ討論より)

いまや社会派のロックバンドと認識されているRadioheadの社会意識の具体的な発露は、『OK Computer』(1997年)とその世界ツアーにまで遡る。先進国と第三国との格差を助長するばかりの資本主義、欧米中心のグローバリゼーションの悪夢、そして気候危機……これら諸問題は自らの生活や音楽活動と決して無縁ではない、ということを彼らは強烈に自覚しはじめる。

その後のバンドのキャリアのみならず、ポピュラー音楽の世界に巨大な影響をもたらした世紀の傑作『Kid A』(2000年)、そして同時期にレコーディングされた『Amnesiac』(2001年)によって、Radioheadは非ギターミュージック的なアプローチを増幅させ、音楽的変革を成し遂げる。先日『Kid A Mnesia』としてリイシューされたこの記念碑的作品には、先述の政治意識の目覚めも大きく関与しているのではないか、というのがこの記事の主眼だ。

2000年代以降、Radioheadはエコフレンドリーな視点を音楽活動に取り入れながら、さまざまなアクションを起こしていく。政治意識、そしてエコロジーの観点から見たRadioheadの20年はどんなものだったのだろうか?

◾️気候変動に対してアクションを起こすミュージシャンたちの最新事例

<Ice age coming Ice age coming
We're not scaremongering This is really happening

筆者訳:
氷河時代がやって来る 氷河時代がやって来る
僕たちはデマを飛ばしちゃいない これは本当に起きている現実

Radiohead“Idioteque”より>

先ごろ世界最大の人気ロックバンドのひとつ、Coldplayが2022年開催予定のワールドツアーを告知し、二酸化炭素排出量を前ツアー(2016-2017年)の半分に減らすための12の取り組みを発表し話題になった(※1)。

※1:Coldplay『Music Of The Spheres』ワールドツアーサイトより

環境への影響に対する配慮から前作『Everyday Life』(2019年)発表後の世界ツアーはおこなわず、過去2年にわたり彼らは可能な限り「環境にやさしい」スタジアム公演のあり方を研究・検討していた。

一方、政治的な音楽アクトとして知られるMassive Attackは「フェス出演や世界ツアーを控えるのが解決ではない」との姿勢から、2019年にマンチェスター大学の気候変動研究所ティンドール・センターに調査を委託。彼ら自身のツアーの諸データを提供しカーボン・フットプリント(※2)を測定、それらを相殺するための推薦案をまとめた報告書「Roadmap To Super Low Carbon Live Music」(※3)を公開したばかりだ。

Massive Attackの中心人物として知られる3Dことロバート・デル・ナジャは、ライブ音楽業界全体がCO2排出量を削減するための行政的支援や政府の環境保護戦略の必要性も訴えており、COVID-19で大きな打撃を受けた英ライブ音楽界はこの「一時停止期間」を機にグリーンな見直しと回復の道を模索している。

※2:商品・サービスのライフサイクルの各過程で排出された「温室効果ガスの量」を追跡した結果、得られた全体の量をCO2量に換算して表示すること

※3:レポートの詳細はこちら(https://documents.manchester.ac.uk/display.aspx?DocID=56701)