この記事をまとめると

■各メーカーは高級車でFFではなくFRを採用する傾向にある

■各メーカーはその理由を「商品戦略を熟慮した結果」だという

■駆動方式を意識する人が減った今でもFRを求めるユーザーは存在する

駆動方式を意識する人は減った

「あなたのクルマは、FFですか、それともFRですか?」。クルマ好きならば当然、即答できるはずだ。しかし、今の時代、一般的なユーザーの多くが自分が所有するクルマの駆動方式を知らないのではないだろうか。

 90年頃までは、日本でもFRが主流であり、FFは一部の小型車や軽自動車向けといったイメージがあった。だがその後、グローバルでC/Dセグメントと呼ばれるマスマーケット(主要な市場)でのFF化が常識となり、また日本ではミニバンが一般乗用車としてシェアの伸ばし、さらに乗用車での軽自動車のシェアが4割近くまで上昇していくなか、FF or FRという概念が一般ユーザーのなかでドンドン薄れていったといえる。

 技術的にもFFの開発が進み、走行性能でFRとの差が減少していった。

 また、世界第二位の自動車販売国であるアメリカではそもそも、所有車の駆動方式、また排気量などについてもあまり関心がない人が多いという風潮がある。C/Dセグメントの王道である、カローラ/カムリやシビック/アコードについても「FFだから買う」とか「FFのクルマの動きはこうだ」といった会話をユーザー間でくことはほとんどない。

 さらに近年、アメリカ、そして日本でのFFに対する意識が定着する中で、RAV4やCR-Vなど、北米でいうコンパクトSUVシフトがグローバルで進み始めているが、ここでもFFに対する話題が出ることはほとんどない印象がある。

FRを求めるユーザーはいまでも存在する

 そうしたなか、高級車に目を向けるとメルセデス・ベンツ、BMW、レクサスなどハイグレードなモデルにはFRが多い。

 また、マツダが2022年以降にグローバルで導入する、同社がラージ商品群と呼ぶ領域では、直列6気筒が復活して、マツダ6、CX-60、CX-70、CX-80、さらにCX-90という多モデル化のなかでFR化される。

 一方で、マツダがスモール商品群と呼ぶマツダ2、マツダ3、CX-3、CX-30はFFで、そして北米市場を念頭に置いた新作CX-50もスモール商品群に属するためFFとなる可能性が高い。

 どうして各メーカーは高級車でFFではなく、FRを採用するのか? この件についてこれまで、マツダを含めて複数の自動車メーカー幹部に聞いてきたが、「商品戦略を熟慮した結果」という、抽象的な回答がほとんどだ。

 エンジン排気量が大きいことによるクルマ全体の重量配分や車体の強度設計上の課題、またトランスミッションとの配置などから縦置きFRが主流になるという、昔ながらの考え方もあろう。だが、今後は電動化へのシフトが進むなか、内燃機関が小型化されていくと、必ずしもFRでなくても良くなるかもしれない。

 一方で、商品性として見ると、上質で強固な走りの良さというイメージではFRを求めるユーザーは、今の時代でも少なくないのかもしれない。

 いずれにしても、近い将来、世の中は急激にEVシフトすると、EVプラットフォーム採用により、フロントモーターのみ、リヤモーターのみ、または前後モーター、さらには四輪インホイールモーターなど、クルマの駆動に対する基本概念が大きく変わることになる。

 高級車の筆頭メルセデス・ベンツは「市場環境が整えば、2030年にグローバルで全モデルを完全EV(またはFCV)化する」と明言している。

 そうなると、高級車がFFじゃだめなのか、という議論もなくなってしまうのかもしれない。