3月初め、ラグジュアリーコングロマリットのケリング(Kering)は、フランスのラグジュアリー製品再販プラットフォームであるヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)の少数株式(5%)を取得した。それは、高級ブランドと再販の世界が交差する非常に重要な瞬間だった。

ふたつの業界の間には長いあいだ摩擦が続いてきた。もっとも顕著な事例のひとつが、現在進行中のリアルリアル(RealReal)とシャネル(Chanel)のあいだでの法廷闘争だ。しかし、こうした対立とは裏腹に、高級ブランドは再販業者を敵ではなく味方と見なし始めている。ケリングがヴェスティエール・コレクティブに投資したとき、ケリングCEOのフランソワ・アンリ・ピノー氏はプレスリリースで再販を「リアルで根強いトレンド」と呼んだ。また、ケリング傘下のグッチ(Gucci)は昨年10月にリアルリアルと提携して以来、再販を受け入れている。

再販プラットフォームが規模を拡大するにつれ、彼らは高級ブランドよりもファストファッションと直接的に競合するようになるはずだ。彼らは「対決」に備え、規模拡大に極めて集中しており、現在はアルゴリズムによるキュレーションとAI認証を可能にするテクノロジーへの新たな投資を通じての拡大を目指している。

再販が顧客のハードルを下げる



ラグジュアリー製品再販プラットフォームのひとつ、トレードシー(Tradesy)のCEOで共同創業者のトレーシー・ディナンジオ氏は、チームが投資したテクノロジーがこの1年間で同社を大きく成長させたと述べた。同サイトの再販商品投稿数は2020年に前年比で50%増加した。これは、過去の購入履歴や検索履歴に基づいて消費者に関連商品を提供するパーソナライズアルゴリズムのような、ユーザーの目に見えない部分での新しいテクノロジーのおかげだ。ディナンジオ氏によると、この技術は2020年初頭に導入されて以来、毎月何千もの新規コンバージョンを生み出してきたという。

「われわれの目標はファストファッションを撲滅することだ」とディナンジオ氏は言った。「よくできたデザイナードレスは小売店で購入すると500ドル(約5万4000円)だが、トレードシーでは80ドルから100ドル(約8700〜11000円)で買える。つまり、私たちは価格面でファストファッションと直接競合することになる。高級ブランドはもちろんのこと、ほかのリセラーとも競争したくはない。リセールには競争しなくてもいい余地があると考えているからだ。しかし、ファストファッションとは競争したい。その結果、ブランドは私たちを敵ではなく、敵の敵、つまり味方として見始めている」。

ファストファッションと再販は同じ顧客層をターゲットにしているとディナンジオ氏は述べる。その顧客層とは、ブランドたちが提供する価格よりも低価格でラグジュアリースタイルを望む顧客だ。ディナンジオ氏はトレードシーや高級品の再販全般を、ティファニー(Tiffany & Co.)の店頭に展示されている小さな革製品になぞらえる。これらの製品は通常、店内のほかの商品よりもはるかに手頃な価格で販売されている。その目的は、顧客が将来もっと高価ものを買うことを期待して、より低いハードルを提供することにある。

再販も同じような役割を担うことができる。顧客は定価でブランド商品を買う前に、まず低価格でそのブランドの味を味わうことができる。これが昨年、リアルリアルと提携したときのグッチの戦略だった。

規模とスピードに対抗できるか?



しかし、ファストファッションには規模とスピードという利点がある。ファストファッションの工場は1日に何千もの新商品を量産できるが、再販は比較的遅い。特に各商品をそれぞれ独自のSKU(商品の分類単位)として処理する必要がある、リアルリアルのようなプラットフォームの場合はそうだ。本稿でインタビューに答えた再販プラットフォーム担当者によると、再販を拡大する唯一の方法はテクノロジーを利用することだという。

2020年半ば、ディナンジオ氏は研究開発に重点を置いていくつかの社内部門を再編した。その結果、同社に所属する人員の50%以上が、トレードシーの社内認証ツールや、プラットホーム上で売り手と買い手のあいだの配送を容易にする新システムなど、さまざまな技術的取り組みに従事するエンジニアで構成されている。

ディナンジオ氏は、公に語れるレベルの高級ブランドとの提携はないと述べている。ただし、ブランド側ではこの1年間で顕著なトーンの変化を見せており、コラボレーションへの関心が高まっていることを明かした。「5〜6年前、大手ブランドのビジネス部門が、私たちと一緒に仕事をすることに少し興味を持ち始めた。しかしクリエイティブなデザイナー側の人々の多くは、まだ懐疑的だった」と、彼女は言った。「それが劇的に変わり始めている」 。

再販プラットフォームのリバッグ(Rebag)もテクノロジーに投資している。2月に同社はクレアAI(Clair AI)とともに、同社が保有する「ケリー・ブルー・ブック(Kelley Blue Book:新中古車の適正価格を査定して公表するリサーチ会社)のハンドバッグ版」であるクレア(Clair)の拡大を開始した。クレアの新しいモバイルアプリでは、顧客はどんなハンドバッグ(実物ではなく、オンラインストアやプリント広告からのハンドバッグの画像)でもスキャンすることができ、リバッグが対応する価格を即座に見積もることができる。創業者のチャールズ・ゴーラ氏によると、30人のエンジニアからなる彼のチームは社内最大のチームで、予算の大部分を占めているという。彼らがこの技術を確立するまでに要した時間は、6年間だ。

「資金調達ラウンドを数回行ったのも、技術開発のためだ」とゴーラ氏は述べた。同社は2020年5月に1500万ドル(約16億円)、その後2500万ドル(約27億円)を調達した。「その資金は有効に使われ、私たちの技術チームは資金調達のたびに成長してきた。再販はテクノロジーによってのみ効果的に拡張可能だ」。

ゴーラ氏によると、クレアAIがブランドにもたらす効果的な事例のひとつは、のちに再販で8割の価格で売ることができると分かってもらい、顧客に正規ブランドから新品のハンドバッグを購入してもらうことだという。これにより、顧客はファストファッション企業から模造品や類似品を購入するのではなく、高級ブランドから直接買い物をするようになる。

成長を続ける再販プラットフォーム



2020年、ヴェスティエール・コレクティブの収益と販売量は100%以上増加した。同社によると現在、テクノロジー部門のために155人を新たに雇用する計画だ。データ企業シミラーウェブ(SimilarWeb)の投資家向けソリューション担当ディレクターであるエド・ラバリー氏によると、ヴェスティエール・コレクティブのコンバージョンの大半(約54%)は、同社を直接検索するものだという。再販市場全体では、2025年までに年間売上高が640億ドル(約7兆円)に達する見込みだ。

「直接のトラフィックがもっともターゲットされている傾向があり、訪問者は特に自分が求めているWebサイトを検索するため、これはポジティブな兆候だ」と、ラバリー氏は言う。

[原文:‘Our goal is to eradicate fast fashion’: Resellers are investing in new tech to compete]

DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)