開発中の車両(画像: 出光興産の発表資料より)

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 16日、出光興産は全国に展開する約6400カ所の給油所をベースとして、実車販売やカーシェアリング事業を年内に開始すると正式に発表した。

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 菅内閣が20年12月末に「50年にカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出を実質ゼロにする)を実現する」ための実行計画を発表した直後であり、時宜を得たタイムリーなニュースとなった。

 車両のスペックは、車体サイズが全長2495mm、全幅1295mm、全高1765mmのため、概ね軽自動車よりは一回り小さい。乗車定員は4名、バッテリーキャパは60v、10kwh、最大出力15kw、充電時間8時間(100v)。最高速度60km/h以下で高速道路は利用できず、フル充電時の航続距離は120キロメートル前後を見込んでいる。

 新会社は出光興産が、タジマモーターコーポレーションの関連会社であるタジマEVに出資して、4月1日に「株式会社出光タジマEV」へと商号を変更してスタートする。その後、静岡県内にあるタジマモーターの拠点で今秋(予定)に生産を開始して、22年販売開始を予定している。完成車両は10月に発表される予定だが、既に19年の東京モーターショーで出光とタジマモーターが披露したコンセプトモデルの輪郭は、踏襲されるものと思われる。

 かねて歩調を合わせてEVの開発に取り組んできた出光とタジマモーターは、20年9月に政府が公道走行可能な超小型EVの車両規格を決定したことを契機にして、一気に共同事業化へと進んだ。既にトヨタは20年末に法人や自治体向けとして、165万円からの価格設定で超小型EVの販売を開始している。22年には販売対象を個人に拡大する見込みだから、トヨタと出光はガチンコの対決をすることになる。

 出光タジマEVが発売する超小型EVの販売価格は、100万〜150万円程度と大雑把にイメージされているに過ぎないが、軽自動車の価格や先発しているトヨタの超小型EVの販売価格を勘案しながら、国土交通省が決定した「車両本体価格の1/3を補助」という支援制度も念頭に、割安感を醸し出す価格設定を狙うことだろう。

 政府がカーボンニュートラルの期限を設定したことで、ガソリンスタンドは現在の事業を継続することが期待できなくなっている。出光がこの超小型EVを契機に、系列SSネットワークで顧客ニーズを把握して、カーシェアリングやサブスクなどのMaaSが充実されれば、ネットワーク全体が持つ可能性は広がることすら夢ではない。

 航続距離は120km程度で、最高速度が60kmとなれば利用対象者は限られるが、公共交通網が縮小し続ける現在、気軽に利用できる「足」を切実に必要としている人は逆に増えている。自動運転が進化して、予約時間に無人のEVが玄関先に横付けになり、通院や買い物時の利用料金が時間単位で済むようになれば、救われる人達のすそ野は広い。今後の進展が楽しみなニュースである。