■日韓で解決済みの問題に言いがかりをつけるような判決

12人の元慰安婦が日本政府を相手に1人あたり1億ウォン(約950万円)の損害賠償を求めた訴訟の判決が1月8日、韓国のソウル中央地裁で言い渡された。地裁は原告の訴え通り、日本政府に1人あたり1億ウォンを支払うよう命じた。

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ソウルの日本大使館近くに設置されている慰安婦問題を象徴する少女像=2021年1月8日 - 写真=EPA/時事通信フォト

元慰安婦が日本政府を相手取った訴訟で、判決が言い渡されるのは初めてだ。韓国文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、この理不尽で歪んだ判決に対し、尊重する考えを示している。徴用工訴訟と同じである。戦後最悪の日韓関係をさらに悪化させる気なのか。日韓関係をどこまで無視するのか。開いた口がふさがらない。

韓国は日本やアメリカと協力し、核・ミサイル開発を止めない北朝鮮の体制にクサビを打ち、軍事力を増す中国にも対抗していかなければならない。それをすでに日韓で解決済みの慰安婦や徴用工の問題をほじくり出して言いがかりをつけるような判決に追従する文在寅氏は、大統領の職を退くべきだ。

■「日本政府が韓国の裁判権に服する」という歪んだ判断

菅義偉首相は8日、「判決を断じて受け入れることはできない」と首相官邸で記者団に語った。当然である。

ここで今回の慰安婦判決が、いかに歪んでいるかについて述べておこう。判決は「慰安婦の制度は日本政府による計画的かつ組織的に行われた反人道的行為な犯罪行為で、主権免除は適用できない」と指摘し、「日本政府が韓国の裁判権に服する」との判断を加えた。こうした指摘や判断は国際的に非常識であり、大きく歪んでいる。

「原告は想像しがたい精神的、肉体的苦痛に苦しめられた」と全額の賠償を命じた判決は否定されるべきだ。

ちなみに主権免除とは、主権国家はお互いに平等であるとの立場から国家とその財産が外国の裁判権には服さないという国際法上の原則を指す。国家間の円滑な関係を維持する国際慣習法の原点だ。韓国司法の「日本政府が韓国の裁判権に服する」との判断はその意味で問題なのである。

韓国判決は「主権免除」の解釈自体をねじ曲げている

日本政府は、この主権免除の原則から韓国の裁判には応じてなかった。このため、訴訟では韓国の裁判所が主権免除を認めるかどうかが最大のポイントだった。結局、ソウル中央地裁は太平洋戦争中の日本の行為が、いかなる逸脱も許されないとされる国際法上の強行規範に違反していたと主張し、主権免除を否定した。

しかし、第2次世界大戦中のドイツ軍の行為に関してドイツとイタリアが争った2012年のICJ(国際司法裁判所)の判決では、ドイツが強行規範に違反していたとしても主権免除を否定する理由に相当しないという判断が示されている。韓国の判決は、主権免除の解釈自体をねじ曲げている。

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国際司法裁判所が設置されているオランダ・ハーグの「平和宮」 - 写真=iStock.com/HHakim

さらにソウル中央地裁は判決の仮執行も認めている。このため原告側は韓国内の日本政府の財産差し押さえ申請ができる。もし差し押さえが強行されれば、日本政府は強い対抗措置をとる方針だという。

■文在寅政権が「被害者中心主義」を掲げ、日韓合意を破棄した

慰安婦や徴用工など日韓の戦後補償については、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的」に解決済みだ。なかでも慰安婦問題については、日本は2015年、保守の朴槿恵(パク・クネ)政権と「最終的かつ不可逆的な解決」で合意している。しかも日本政府は「解決済み」としながらも、「女性のためのアジア平和国民基金」(1995年設立)や、日韓合意に基づく韓国の財団を通じて元慰安婦らに現金を支給してきた。歴代の首相も謝罪を重ねてきた。

しかし、2017年に発足した左派の文在寅政権が「被害者中心主義」を掲げ、「当事者の意思を反映していない」と合意を破棄するとともに財団も解散した。

一方、徴用工訴訟では被告の日本企業の敗訴が確定し、元徴用工ら原告が韓国内にある日本企業の資産を差し押さえ、売却の手続きを進められる事態にまで発展。今回の慰安婦判決と同様、文政権は「司法を尊重する」と徴用工問題に応じず、日韓関係悪化の大きな要因となっている。

■文在寅大統領が積極的に調整に乗り出せば、問題は解決するはず

慰安婦や徴用工の訴訟で、なぜ韓国の裁判所はここまで歪んだ判決を出すのか。

こうした傾向は元慰安婦の賠償請求権について韓国の憲法裁判所が「政府が解決に努力しないのは憲法違反」との判断を示した2011年8月ごろから顕著になり、その後、高裁や大法院が徴用工訴訟で日本企業への賠償命令を言い渡すようになった。

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ソウルにある憲法裁判所 - 写真=iStock.com/vanbeets

韓国内には、こんな見解もある。左派系の裁判官らは1980年代に司法試験の勉強に没頭し、そのころ盛んだった学生運動に参加できなかった。その反省から歪んだ判決を出しているというのだ。曲がった反省は歪んだ判決を生む。

これまでも書いてきたが、韓国には反日種族主義(反日トライバリズム)が強く根付いている。反日種族主義とは、日本を永遠のかたきとする反日感情で塗り固められた文化、政治、裁判、そして歴史観だ。すべてが虚偽である。

歪んだ判決を出す裁判官たちの頭の中にも、この反日種族主義が存在する。

だが、彼らが日本政府に無謀な判決を言い渡しても、文在寅大統領が積極的に調整に乗り出せば、問題は解決するはずだ。そうしないのは、文在寅という大統領が反日種族主義の権化だからだ。文氏は大統領失格である。

■産経社説は「判決は直ちに撤回されるべきだ」と訴える

1月9日付の産経新聞の社説(主張)は「『慰安婦』賠償命令 歴史歪める判決を許すな」との見出しを立て、こう書き出している。

「元慰安婦らが起こした訴訟で韓国の裁判所が、あろうことか日本政府に賠償を命じた」
「判決は、史実を歪めて慰安婦問題を日本による『犯罪行為』と決めつけた。国家は他国の裁判権に服さないという国際法上の『主権免除』の原則を踏みにじった。このような不当極まりない判決は直ちに撤回されるべきだ」

「史実を歪める」「不当極まりない」などと実に分かりやすい社説の書き出しである。慰安婦問題の本質をよく捉えている。ただし、「あろうことか」は余計だろう。理性で主張しなければならない社説を感情で書いているように受け取られかねない。それだけ産経社説は韓国が異常だと感じているのだろう。

■日本は韓国司法の歪みを国際社会に訴えるべきだ

産経社説は書く。

「判決は事実無根で耳を疑う。日本による『計画的、組織的、広範囲に行われた反人道的な犯罪行為』などと断じたが、調査や実証的研究で、女性を組織的に連れ去って慰安婦にしたという『強制連行』説は否定されている」
「原告の元慰安婦は、『現在まで被告からきちんとした謝罪や賠償も受けていない』とするが、これも誤りである」

こうした指摘は事実そのものであり、それだけに読んでいて明快に感じられる。

さらに産経社説は指摘する。

「今回のとんでもない判決がまかり通れば、慰安婦を『性奴隷』として日本を貶める嘘が世界に広がるばかりだ」

それゆえ、日本は韓国司法の歪みを国際社会に訴えるべきなのである。

■慰安婦問題では朝日新聞の誤報にも責任の一端がある

1月9日付の朝日新聞の社説も慰安婦判決を取り上げ、「日本と韓国の関係に、また大きな試練となる判決が出た」と書き出す。

「大きな試練」。朝日社説は実におかしなことを書く。間違っているのは韓国であり、日本は被害者だ。韓国の判決が歪んでいるのだ。そこを指摘しないで問題を「日韓関係の試練」とするのは理解できないし、納得し難い。

産経社説の主張に比べ、朝日社説はどうも煮え切らない。どうしてか。かつて朝日新聞は慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏の証言を報じた記事を載せ、その発言が虚偽だったことから、2014年に記事そのものを取り消し、謝罪している。

慰安婦問題では、この朝日新聞の誤報にも責任の一端がある。だからこそ、社説の書き方も煮え切らないのではないかと読んでしまう。

■「司法の踏み込んだ判断」ではなく、歪んだ判断だ

朝日社説は指摘する。

韓国ではこの数年、植民地支配時代にさかのぼる慰安婦や徴用工などの問題で、司法が踏み込んだ判断をするケースが相次いでいる」
「いずれも従来の韓国の対外政策の流れを必ずしも反映していない部分があり、日韓の対立要因として積み重なってきた」

「司法の踏み込んだ判断」ではなく、歪んだ判断だ。「流れを反映していない」というよりも、慰安婦も徴用工も文在寅政権が積極的に対応しようとしないところに大きな問題があるのだ。

後半で朝日社説は「前政権が結んだ合意を文在寅政権が評価せず、骨抜きにしてしまったことが最大の原因だ。元慰安婦の傷を癒やすために日本政府が出した資金で設けた財団も解散させた」とも指摘している。文政権に非があることを分かっているのだ。

しかし、続けて朝日社説は「歴史の加害側である日本でも、当時の安倍首相が謙虚な態度を見せないことなどが韓国側を硬化させる一因となった」と書く。朝日社説が前首相の安倍晋三氏を嫌っていたことはよく分かるが、慰安婦問題も徴用工問題も間違っているのは韓国なのである。それを喧嘩両成敗のように主張するのはいかがなものだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)