1/6どんな望遠鏡でも、最初に活動を始めるとき、天文学者が「ファーストライト」と呼ぶ観測を行う。これは、スピッツァー宇宙望遠鏡がとらえた最初の写真で、「象の鼻星雲」が写っている。写真の左側では、大きな星のゆりかごが明るく輝いているのが見てとれる。この星雲を、肉眼やハッブル宇宙望遠鏡で見たとしても、宇宙の暗闇を眺めているような、まったくの無しか見えないだろう。だが、スピッツァーの赤外線観測機能のおかげで、原始星の大集団が浮かび上がった。原始星は、いわばできたばかりの「赤ちゃん星」で、この写真で見ると明るく輝いているのがわかる。PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH/W. REACH 2/6この写真でスピッツァーが覗いているのは、「へびつかい座ρ(ロー)暗黒星雲」と呼ばれる領域だ。この星雲の大部分は、星の原材料である分子状水素で構成されている。この見事な写真の色は、さまざまな成長段階にある星の温度を示している。一部の星は高温できわめて若く、厚い塵に囲まれている。青みの強い星ほど、古くて温度が低い。PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH/HARVARD-SMITHSONIAN CFA 3/6スピッツァーは、いつも遥か彼方の宇宙を見つめていたわけではない。ときには、故郷の近辺に目を向けることもあった。この写真に写っているのは、天の川銀河の中心にある星々が織りなす、まばゆいばかりの光景だ(太陽系は、天の川銀河の中心から26,000光年ほどのところにあり、外側に位置する腕のひとつで軌道を描いている)。スピッツァーがなければ、この画像は撮影できなかっただろう。というのも、太陽系と銀河中心のあいだに存在する厚い塵とガスが、可視光を遮ぎっているからだ。中央に見える明るいスポットは天の川銀河の核で、途方もない数の星々が密集している。中心近くには、天の川銀河の誇る超巨大なブラックホールがある。PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH 4/6この画像に写っているのは、「葉巻銀河」とも呼ばれる「M82銀河」。地球から1,200万光年離れたところにある。この写真は、スピッツァーと、NASAのもうひとつの赤外線望遠鏡「遠赤外線天文学成層圏天文台(SOFIA)」のコラボレーションだ。 波のように見えるのは、M82中心部にある磁力線で、赤いところは水素ガス、黄色は塵、グレーは星の可視光を示している。PHOTOGRAPH BY NASA 5/6これは、『指輪物語』のモルドール(冥王サウロンが居を構える「影の国」)ではない。ここに写っているのは、「星のゆりかご」の異名をもつペルセウス座分子雲だ。こうした領域では、分子、とりわけ分子状水素を生成する条件がそろっている。分子状水素は、新星をつくる燃料になる。地球からわずか500光年のところにあるこの灼熱地獄は、塵とガスが厚く密集してできたものだ。スピッツァーがなければ、ペルセウス座分子雲を見ることはできなかっただろうが、赤外線観測のおかげで、こうした激しい星のはじまりの様子が明らかになった。PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH 6/6伝説に残る探査機スピッツァーは役目を終えたが、天文学に対する貢献は、今後数十年にわたって続くはずだ。宇宙の微妙な熱構造を探るというミッションの都合上、スピッツァーは華氏マイナス400度(摂氏マイナス240度)という驚くほどの低温で稼動し、搭載した3種類の計器で、宇宙の新たなレイヤーを浮かび上がらせてきた。PHOTOGRAPH BY NASA

米航空宇宙局(NASA)は2020年1月30日、「スピッツァー宇宙望遠鏡」に別れを告げた。スクールバスほどの大きさのスピッツァーはNASA屈指の働き者で、おおいに愛されてきた望遠鏡だ。

「運用を終えた「スピッツァー宇宙望遠鏡」が捉えた星たちの神秘:今週の宇宙ギャラリー」の写真・リンク付きの記事はこちら

2003年8月25日に打ち上げられたスピッツァーのミッションは、赤外光を使って宇宙を探ることだった。宇宙は寒い場所なので、わずかな熱の変化でさえ検出が難しいこともある。スピッツァーの専門スキルが必要とされたのは、そのためだった。

過去16年にわたり、スピッツァーは宇宙の姿を明らかにしてきた。例えば、温度が低くて目には見えないガスのかたまりを浮かび上がらせ、銀河のできる仕組みを理解する手がかりを科学者たちに与えてきた。

また、ぼんやりとした雲を透視し、その中に隠された活動を明らかにして、星の形成を巡る天文学者の理解を深めてきた。ミッションの後期には、トラピスト1星系を構成する太陽系外惑星の発見にもひと役買った。

残念ながら、スピッツァーのミッションは終わりを迎えた。太陽の軌道を回るスピッツァーは、数年前に冷却材が尽きたうえ、地球から少しずつ遠ざかっていたことから運用が難しくなっていた。

しかし、当初予定されていた最低寿命を14年近く過ぎてもなお、スピッツァーは独力でいい仕事を続けていた。今週の宇宙ギャラリーでは、スピッツァーが宇宙で捉えた美しい写真を紹介し、この探査機が残した功績を称えたい。

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