今年4月に開催された「桜を見る会」で招待客と記念撮影する安倍晋三首相(中央、写真:時事通信)

11月20日に在任期間が史上最長となる安倍晋三首相が、栄誉を前に窮地に追い込まれている。「政治とカネ」絡みでの主要2閣僚連続辞任、大学入試共通テストでの英語民間試験活用の実施見送りに加え、来年度の「桜を見る会」の中止を余儀なくされたからだ。

この一連の騒動に統一会派を結成した主要野党は勢いづき、臨時国会の審議遅延で、政府与党が最優先課題とする日米新貿易協定の会期内承認も危うくなっている。相次ぐ政権スキャンダルを「即時消火という逃げ恥作戦」(自民幹部)で窮地脱出を狙うが、与党内には「いよいよ終わりの始まり」(閣僚経験者)との不安の声も広がっている。

桜を見る会は「公的行事の私物化」

菅義偉官房長官は13日午後の記者会見で、毎年4月に行われてきた首相主催の桜を見る会を来年度は中止すると発表した。首相の後援会関係者が多数招待されていることや、「税金の無駄遣い」などの国民的批判を受けた措置だ。

菅氏は会見で、内閣官房事務局が首相官邸や与党に招待者の推薦依頼を行っていたことを認め、中止の理由を「予算や招待人数も含めて、全般的な見直しを行うため」と説明した。安倍首相も同日夜、記者団に「私の判断で中止することにした」と憮然とした表情で語った。

今回の桜を見る会をめぐる騒動は、11月8日の参院予算委員会の集中審議の中で、共産党議員が「招待者に多数の首相後援会関係者が含まれている。税金で運営されている公的行事の私物化ではないか」と、具体的資料も提示して追及したのが発端だ。

安倍首相は「私は主催者としてあいさつや招待者の接遇は行うが、招待者の取りまとめなどには関与していない」と釈明したが、首相の事務所名が明記された参加者募集文書を有権者へ配布したことも判明し、野党側は「首相の関与は明らか、公選法違反の疑いもあり、内閣総辞職にも値する事態だ」(立憲民主党幹部)と攻勢を強めた。

そもそもこの会は、1952年に当時の吉田茂内閣が始めたものだ。それ以来、国会議員や都道府県知事、財界幹部、各国大公使に芸能・スポーツの有名人なども加えた「各界の代表者」を招き、首相を中心に歓談する公的行事として定例化してきた。

ただ、第2次安倍政権発足以降、招待者約1万人、関連予算約1700万円という「最近の原則」(政府筋)を無視するかのように、年々招待者数と関連経費が増大。今年4月は参加者約1万8200人、経費約5500万円に膨らんでいた。

しかも、首相の地元の山口県の有権者に対し、「あべ晋三事務所」と明記された観光ツアーの参加受付文書が送られていたことが発覚した。首相関連の招待者は850人と突出しているとされ、瞬く間に首相自身の政治的スキャンダルに発展した。

野党側は徹底追及の方針

8日の答弁で「私は関与していない」と交わした安倍首相だが、連日民放テレビのワイドショーで取り上げられたことから、首相サイドも「早く火消しをしないと、今後の政権運営の大きな火種になりかねない」(官邸筋)と焦燥感を強め、急遽、来年度中止に踏み切ったとみられている。

2閣僚辞任劇や民間英語試験の導入見送りを「政権打倒のチャンス」と位置づけた野党側は、「いよいよ本丸(首相)攻撃だ」(共産党幹部)と勢いづいている。

開催中止発表を受けて野党側は「中止したこと自体が(公的行事の)私物化を認めたことで、首相の責任が問われる」(小池晃共産党書記局長)とし、この問題に関する衆参両院での集中審議開催を要求するなど徹底追及の方針で、安倍首相も応じざるを得ない状況とみられている。

その一方で、自民党は「それぞれの委員会で審議すればいい」とガードを固めている。「そもそも、『桜を見る会』は民主党政権時代にも開催されており、野党の追及はすぐブーメランになる」(自民国対)との読みもあるからだ。

民主党政権下の2010年に当時の鳩山由紀夫内閣が桜を見る会を開催した(2011年の菅直人内閣は東日本大震災で、2012年の野田佳彦内閣は北朝鮮のミサイル発射予告でそれぞれ中止)。当時政権の一員だった玉木雄一郎・国民民主党代表は13日の記者会見で「(当時は)各議員に4人の推薦枠があり、私もお世話になった方々を連れていった」と自戒交じりに語った。

ただ、「各界の功績・功労があった人」を招待するのが原則なのに、政府・自民党の幹部は多数の支援者を招待客に紛れ込ませていたとされる。二階俊博自民党幹事長は12日、「支援者に配慮するのは自民党として当たり前」「(党への招待者割り当ては)あったって別にいいんじゃないですか、何か問題になることがありますか?」といつもの二階節で開き直ったことが、政権批判を加速させた。

この二階発言はすぐさまインターネットで大炎上し、「火に油を注いだ」「二階からガソリンをかけた」などの書き込みが相次いだ。

首相の言い訳は今回は通用しない

「私の判断で中止した」と13日に首相官邸で語った安倍首相は、その一言だけでそそくさと立ち去ったが、表情にはいら立ちを隠せなかった。安倍首相には、2017年2月に森友学園問題が浮上した際、衆院予算委の答弁で「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言し、「それが財務省の森友問題関連の公文書改ざんにつながった」(立憲民主幹部)とされる過去がある。

しかし、今回は事務所の関与が明らかで、桜を見る会の前夜祭として都心の高級ホテルで開催された会合に首相夫妻も出席、あいさつしていたことなどが、新聞各紙の首相動静欄にも記録されている。

さらに、2014年の桜を見る会の際などには、昭恵夫人が「桜を見る会にご出席の皆様と。地元でずっと応援してくださっている後援者の皆さんのお陰で主人の今があります」などと自らのフェイスブックに書き込んでいる。このため、自民党内でも「私は関与していないという首相の言い訳も、今回ばかりは通用しない」(自民長老)との見方が支配的だ。

今回の2閣僚辞任と同様、2014年10月には政治とカネや公選法違反疑惑などで小渕優子経済産業相と松島みどり法相がダブル辞任に追い込まれた。その際、小渕氏は大型バスによる地元有権者の観劇ツアーの一部経費を負担していたことなどが公選法違反に問われ、司法当局の捜査を受け、政権への大きな打撃となった。

ただ、消費税先送りを大義名分として断行した2014年12月の衆院選で圧勝し、その後の1強政権の確立につなげた。2017年前半に相次いで浮上した森友・加計学園疑惑も、同年10月の衆院選での自民圧勝で乗り越えている。

今回も永田町では年末・年始の解散説が流布されており、自らの発言で事態を深刻化させた二階幹事長は13日の自民党会合で、「近いうちに選挙をやろうというときに、もうちょっと気合掛けなきゃだめじゃないか」と発言してみせた。

補正予算処理後の年明け解散説も

政府与党にとって、今国会で審議が遅れている日米新貿易協定の承認が最優先の課題だ。さらに、安倍首相は大規模な台風災害に対応するための大型補正予算を来年度予算とともに年内に編成する方針を打ち出したばかりで、日程的に年内解散はありえそうもない。

ただ、与党内には「年明けの通常国会冒頭で補正予算を処理したら解散」(自民幹部)との声もあり、「1月下旬解散―2月16日投開票」という具体的日程も取り沙汰されている。

そうした中、与党内では「もう少しで『桜を見る会』が(流行語大賞の)候補になるところだった」との声も出る。今回の首相らの対応を「逃げ恥作戦」と揶揄する向きがあるが、その元ネタはちょうど3年前に大ヒットしたテレビドラマの題名で、当時「逃げ恥」は流行語大賞の有力候補ともされた。

「在庫一掃閉店大セール」と酷評された第4次安倍再改造内閣では、目玉閣僚の小泉進次郎環境相が人気急落の憂き目に遭っている。その父親で安倍首相の政界の師でもある小泉純一郎元首相は常々「人生には3つの坂がある。『のぼり坂』『くだり坂』そして『まさか』である」と周囲を煙に巻いてきた。

11月20日に史上最長政権という勲章を手中にする首相だが、党内では「これが安倍政権の頂点。あとは坂を下るだけ」と皮肉る声も少なくない。

今回の逃げ恥作戦が通用するかどうかはまだまだ不明だが、党内では「『まさか』の年明け解散の先にあるのは、政権の『真っ逆さまの急降下』では」との厳しい声が広がっている。