長期安定の道探る、“捨てたまま”CO2活用
 とはいえ、液炭各社は調達先の開拓に不安を抱え、長期安定供給の道のりははっきりしない。有力調達先の国内石油会社は元売り最大手のJXTGエネルギーが室蘭製造所(北海道室蘭市)の化学品生産を停止。さらに大阪製油所(大阪府高石市)を20年10月めどに停止し、千葉製油所(千葉県市原市)に移管するなど、今後も業界再編で液炭の主要な調達先の製油所は減少傾向にある。

 液炭卸会社は「既存の製油所や化学プラントなどで排出されたままで利用できる可能性のあるCO2を探すしかない」(関係者)と手探りを続けており、岩谷産業でも「数年前から(活用できるプラントを)探している」(服部栄一郎ケミカルガス部長)という。

 液炭は液化天然ガス(LNG)に比べて使用量が少なく、専用タンカーもない。コストが合わず、輸入していない。ただ、ドライアイスの輸入は可能で、岩谷産業は「6月に韓国から始めた」という。韓国でも需要が増え、ドライアイスが思うように手に入れられず、中国産ドライアイスの輸入を検討している。

 このような中で、大阪ガスリキッドが新潟県長岡市で21年4月に稼働予定の液炭とドライアイスの製造設備は、国際石油開発帝石(INPEX)が天然ガスを都市ガスへ精製する過程で取り除くCO2を利用する。液炭とドライアイスの製造能力は1日当たり計150トンを計画する。天然ガスを都市ガスへ精製する過程で液炭を製造するという、新たな取り組みとして注目される。

 ただ、同じ方法で精製できるプラントが国内にほぼなく、横展開は限定的とみられる。当面は自前で液炭やドライアイスを確保できる予定のAWも5―10年先は見通せないという。

 一方、液炭の原料となるCO2は世の中に多く存在する。地域の木質バイオマスを活用したガス化コージェネレーション設備から排出されるCO2の何割かを活用し、液炭を製造し自給自足することも想定される。

 しかし、需給バランスを維持し、設備投資に見合う費用対効果が見込めるかという大きな障壁があり、現実的ではない。実現には、さらなる技術開発が必要になる。
【液化炭酸ガス(液炭)】ビールなど炭酸飲料の発泡剤、固体のドライアイスによる冷凍食材の冷却など身近な生活用途の需要が多い産業ガス。液炭の年間需要量は約80万トンで、販売量の約半分はアーク溶接用が占める。続いて飲料、冷却用が多い。植物の光合成に欠かせないため、農業用ハウスの栽培促進用にも重宝されている。またスーパー銭湯が増える中、炭酸ガスを水に溶かし、炭酸水を使う美容・健康分野でも需要が伸びている。

(取材・香西貴之)