映画『PRINCE OF LEGEND』キャスト ©「PRINCE OF LEGEND」製作委員会

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■片寄涼太、鈴木伸之らが「王子の中の王子」を目指すLDHの新プロジェクト

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2018年5月12日、『PRINCE OF LEGEND』プロジェクトの第一報がリリースされた。

この『PRINCE OF LEGEND』は、GENERATIONSの片寄涼太、佐野玲於、関口メンディー、劇団EXILEの鈴木伸之や町田啓太などLDHの面々が王子の中の王子、「トップオブザプリンス」を目指す物語で、EXILE HIROがエグゼクティブプロデューサー、河合勇人&守屋健太郎が監督を務め、プロデューサーを、『HiGH&LOW』全シリーズを手掛けてきた日本テレビの植野浩之が担当する。

出演者には、片寄らのほかに、THE RAMPAGEから川村壱馬、吉野北人、藤原樹、長谷川慎。オスカーの男性エンターテインメント集団「男劇団 青山表参道X」のメンバーで『仮面ライダーエグゼイド』主演の飯島寛騎、同グループの副リーダーで、『獣電戦隊キョウリュウジャー』の塩野瑛久、『MEN'S NON-NO』モデルで、連続テレビ小説『なつぞら』の出演も決まっており、また『HiGH&LOW』では鬼邪高校の三中トリオの一人、中林を演じてきた清原翔、『MEN'S NON-NO』モデルの遠藤史也に、兒玉太智、テレビのバラエティでの活躍も目覚ましく、舞台『パタリロ』にも出演の加藤諒、BIGBANGの所属するYGエンターテインメントの日本事務所に所属する大和孔太が決まっている。

発表直後、ファンの間ではこのニュースに騒然であったが、今年の2月、LDHが学園もののエンブレムや学校名などを商標登録しているということが話題にもなっていたため、それを見ていた人々は、「あのときの商標登録がこれになったのか!」という思いを持ったのではないだろうか。

■中国進出を視野に? 背景には片寄涼太の爆発的人気

一連のニュースを見て、私は中国進出を考えているのではないかと思った。LDHの中国進出は、近年目覚ましい。その中心にいるのが、本作の主演の片寄涼太と言ってもいいだろう。

5月6日にGENERATIONS全員で『おしゃれイズム』(日本テレビ系)に出演した際には、片寄は勉強中の中国語で自己紹介を繰り広げた。また、ほかのメンバーも、「ほんとすごかったよね、中国行ったとき、街歩けないくらい」(関口メンディー)、「中国に行くと、片寄涼太フィーチャリング俺らみたいな感じなんですよ」(白濱亜嵐)、「僕ら、セキュリティみたいな感じなんです」(数原龍友)と、口々に片寄の中国人気のエピソードを語った。

この人気は、片寄が出演した『兄に愛されすぎて困ってます』が大きいと言われている。この作品が中国で話題となったことで、片寄の人気が高まったのだ。中国では、少女漫画から抜け出たようなキャラクターが人気であるし、すでに中国では「小鮮肉(肉体美を備えたイケメン)」や「男神(女神の男性版で憧れの男性のこと)」のひとりとして認知されている。

今までであれば、中国進出にそこまで力を入れる事務所というのは少なかったように思う。中国で日本人俳優として初めてファンミーティングを開いたと言われる古川雄輝も、現在は日本のドラマや映画での活躍に力を注いでいるように見えるし、その他のアイドルたちも、あくまでも国内市場を主に見ていて、アジアツアーなどをコンスタントに組み込んでいるグループは少なかったのではないだろうか。

しかし、LDHは、本気で中国市場を見ている。そこには、かつてのK-POPが自国の市場を見ていただけでは頭打ちで、海外に視野を向けたときのような空気を感じる。特に、日本の映画の市場というものは、世界を考えれば大きくはない。映画製作には多大な製作費がかかるが、その回収を映画だけで考える時代ではない。

本作や『HiGH&LOW』のプロデューサーである植野氏も『美術手帖』2018年2月号の特集「テレビドラマをつくる」のインタビューの中で、「映画のマーケットだけを見ていたのでは巨額の投資を回収できない」と語り、『HiGH&LOW』は、IP(知的財産)ビジネスをやっていくことを見据えていたという。今回もそうした考えで進められているだろう。しかも、『PRINCE OF LEGEND』の配給は東宝である。東宝は、『君の名は。』を中国に進出させた経験もあるのだ。

■2次元、2.5次元、3次元で楽しめるメディアミックス展開

中国市場に関しては、2.5次元コンテンツなどが中国に進出していることとも無関係ではない。2017年以降、2.5次元舞台に出演している俳優たちが、次々と中国や台湾でファンミーティングをしているが、その進出は、単に舞台があるから、演じている俳優の人気があるからという理由では語れないものがある。

今、中国で人気を得るためには、人(3次元)が先ではなく、原作のキャラクター(2次元)が先にあることが条件でもある。2017年5月に珠海大劇院で公演を行い、また12月には広州体育館で『真剣乱舞祭』を行った『ミュージカル「刀剣乱舞」」』は、2016年4月に中国にライセンスアウト契約をし、2017年には中国版のゲームをリリースしているし、中国のサイトで公式にアニメを配信もしている。こうした2次元での知名度が、3次元での人気に還元されるのである。

だからこそ、この『PRINCE OF LEGEND」』のプロジェクトの中には、映画、ドラマ、ライブ、イベントと、多層の企画を打ち立てている中に、「ゲーム」が入っているのではないだろうか。もっとも、ゲームが中国でリリースされる予定があるのかはわからないが、今回の『PRINCE OF LEGEND』では、片寄涼太らの生身の人間を、よりキャラクター化して見せていきたいということは、『HiGH&LOW』の経験からも実感しているはずだ。

なぜなら、『HiGH&LOW』では、岩田剛典(三代目J Soul Brothers、EXILE)やAKIRA(EXILE、EXILE THE SECOND)などが演じたキャラクターたちが、CLAMP の描くキャラクターとしても生きていて、2次元(アニメキャラクター)、2.5次元(映画の中のキャラクター)、3次元(本人のキャラクター)と多層的に楽しむことができたのである。

■キーワードは「王子が大渋滞」。『HiGH&LOW』を経たLDHが「女子のシンデレラ願望」に本気で挑む

また、今回の発表で、『HiGH&LOW』はどうなるのかという声もあるが、そこは両軸として進めていくのではないかと踏んでいる(まったく情報を得ているわけではないのだが)。

『HiGH&LOW」は、演じている本人たちの本来の憧れであろう、「男の世界」が核となる物語であった。『美術手帖』での植野プロデューサーのインタビューでも、「HIROさんの中には、かっこいい音楽やファッション、アクションを見せて、中高生の男の子をワクワクさせたいよねっていう考えがあるんです」と言っていたことからもわかる(結果、男女問わずその世界に憧れる人を生んだわけであるが)。今回は「女の子が憧れる世界に挑戦」しているところが、大きな違いとなっているし、その両方をやっていこうという態度は、演じる本人たちにとっても、見る側にとっても、非常にバランスの取れた形であると感じる。

もっとも、ファンというのは、「こういうのが好きなんでしょ?」という態度で安易に作られたものには厳しいということはあるだろう。私だって、「いま、こういう王子ものが流行ってるんでしょ?」という態度で作られたものがあれば、そこには反発を覚える。しかし、ファンの声をちゃんとすくい取り、その上で、ファンや市場に対して、挑戦をしていると感じれば、全力で楽しみたいという気持ちにもなる。

「王子が大渋滞」というキーワードも、非常に練られた言葉だと感じるし、「“胸キュン”の時代は終わり、“新時代”が幕を開ける。」というのは、どういうことなのかと考えをめぐらせてしまう。こうした深読みの楽しさは、『HiGH&LOW』で培ったものである。

本来であれば、「王子」というワードや、「“女の子”として生まれたすべての女子たちの“シンデレラ願望”を叶える」というコンセプトから最も遠いのがLDHであったのではないか。それなのに、この『PRINCE OF LEGEND』は、女性たちがフィクションとして望むもののひとつである「王子」というものに勝負をかけて臨んでいるという気概を感じるのだ。

その勝負はファンに対してだけではない、日本のエンターテイメントや、中国市場に対しても挑戦状を突きつけることになるのかもしれない。そんなプロジェクトであれば、熱く見守り、そして全力で乗っかる以外の選択肢はないのではないかと思うのだ。(テキスト:西森路代)