急な斜面を猛スピードで駆け下りる自転車競技「ダウンヒル」はライダーの高いテクニックはもちろん、使用する機材にも高い信頼性と耐久性が求められることはいうまでもありません。そんな過酷な状況に、スーパーで2万円弱で売られているマウンテンバイクを持ち込んでプロが激しくライドしたらどんなことになるのか、そんな過酷なテストにチャレンジしたムービーが公開されています。

Will a Walmart Huffy survive a Downhill Mountain Bike Trail? | Skills with Phil - YouTube

今回のテストに用いられたのは、自転車ブランド「Huffy」が販売しているマウンテンバイク「Carnage 3.0」です。このモデルはアメリカを中心とする世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」では179ドル(約1万8000円)で販売されているもの。価格帯的には、完全に「街乗り」用のバイクで、とても本格的なコースに持ち込もうとは思えないもの。



そんなバイクでガチンコのダウンヒルを行うのは、プロのMTBライダーであるPhil Kmetzさん。Kmetzさんは過去にダウンヒル選手権の年間チャンピオンに輝いたこともある正真正銘のトップライダー。



テストに使うHuffy Carnageは、前後にサスペンションを備えたモデルで、見た目には本格的に見えます。



もちろんMTB用のゴツいタイヤも装着済み。



リンク機構を採用してトラベル量(可動域)を広げているリヤサスの設計など、MTBデザインのポイントはひととおり押さえている様子。



しかし、よく見るとフロントのブレーキは金属の板を曲げて作ったプレス製で、剛性は高くなさそう。さらに、取り付けにも少し問題があった模様。



安全に直結する部分ということで、Kmetzさんは乗る前にブレーキの再調整と、各部のネジを増し締めしておくことに。



まずは平地の駐車場で基本チェック。その場で飛んでみたり、リアタイヤを滑らせたりしておかしな挙動がないかをチェックしたところ、この段階では問題はなかった模様。しかしこの後、過酷な現場では思わぬことが起こります……。





Kmetzさんはこれまでにさまざまな場所でダウンヒルを行っており、中には急斜面の階段など、普通は自転車が走らないような危険なコースにも遭遇してきたとのこと。



しかし、今回ばかりは別の不安が頭をよぎった模様。



山の上にあるスタート地点に着く頃には、頭の中ではもう1人の自分が「やめとけ……」とささやいていたとか。



しかし勇気を振り絞ってコースイン。



実際のコースは、荒れた路面と急な斜面が待ち構える本格コース。



ガタガタの道をクリアしたり、コーナーをクリアしたりと鮮やかなライドを見せるKmetzさん。しかし、ブレーキからは「ギ、ギギギ」と、心なしか普通よりも大きめのきしみ音が聞こえます。



コースの途中でいったんストップ。思ったよりはきちんと走るようですが、やはりブレーキには問題がある様子。「ゴムが溶けたような臭いがする」と不安の残るコメント。



しかし再びコースイン。コース後半にはいくつかのジャンピングスポットが待ち構えています。



コースイン直後、最初のジャンプが訪れた時のことでした。



軽くジャンプして着地した次の瞬間……



大きくバランスを崩して落車



プロのダウンヒルではありえない場所での落車です。



胸元のカメラからの映像。車体全体が浮かぶジャンプの後、着地すると……



あろう事か、ハンドルがありえない方向にぐりんと回転。両手で体とバイクを支えていても、こうなってはなす術なし。



そのまま転んでしまいました。



起き上がってバイクをチェックすると、ハンドル本体と、ハンドルを取り付ける部品「ステム」が完全に曲がっていることが判明。折れてしまったのではなく、着地のショックに耐えられずに取り付け部分が外れて回転してしまった様子です。



普通ならここでテスト中止、というところですが、Kmetzさんは「どこまで走れるか試す」という目的を果たすため、なんと応急処置をしてライド再開。しかし、ブレーキの効きが甘い問題は残されています。



スピードの制御が効かず、コースから飛び出しそうになってしまうKmetzさん。



あまりにもブレーキがきかないので、両足を地面にこすりつける場面も。



「ハッ、ハッ」という激しい息づかいからも、過酷なライドであることが伝わってくるよう。



途中でストップし、「あーこわ……」とばかりにうなだれるシーンも。



その後、無事にふもとに到着。「ふもとにたどり着いてこんなに嬉しかったことはない」とのコメントが過酷さを象徴しています。



ライド後にチェックすると、やはりハンドルの剛性不足だったことが露呈。



ハンドルを締め付けるネジは2本だけとなっており、これでは着地の衝撃に耐えられないのは明白。本格的なバイクであれば、必ずといって良いほど4本のネジが使われている部分です。



ライドを振り返ってKmetzさんは、「価格のことを考えると、このバイクを酷評する気にはなれないね。だって、こんな本格的なコースを走るようにはデザインされていないと思うから。この値段を考えると、まぁ悪くないと思うよ」と前向きなコメント。ただし「本格的なライドをする場合にはオススメできない。そういう場合には、もう少しお金を出してちゃんと本格的に走れるバイクを選ぶことを強くおすすめするよ」と、プロらしいコメントをすることも忘れていませんでした。