3月18日付の『朝日新聞』朝刊1面を飾った「ホンダF1復帰へ」のスクープ! ほかの主要各紙も電子版や夕刊で同様の後追い記事を掲載したので、F1ファンのなかには、この報道を見て「おいおい、デジャビュかよ?」と目を疑った人もいるんじゃないだろうか?

そう、ホンダからの発表ではなく“新聞のスクープ記事”でF1参戦計画が明らかになるこの感じは、あの、悲惨な末路をたどった第3期ホンダF1の始まりと、恐ろしいほどソックリなのだ!

ちなみに、記事は「ホンダが自動車レースの最高峰、F1への復帰を前提に、エンジンの設計、開発に着手したことがわかった。2015年からの参戦を目指しており、イギリスの名門『マクラーレン』チームを軸にエンジンのみを供給する形での復帰を模索している」というモノ。

注目すべきは、根拠となるホンダの公式発表や新たなコメントもないのに、この記事が推測の形ではなく、「わかった」と断定形で報じられている点だ。報道の基本である「誰が、どこで、いつ、何を……」という事実関係にはまったく触れず、天下の朝日がいきなり断言するとは、どーゆーコトなのか?

新聞記者の友人に聞くと、「それは取材先内部の有力な情報源の、かなり精度の高いコメントがあって、ネタ元は明かせないけど、他社を抜ける大ネタのときによく使う書き方だね」と教えてくれた。

果たして、コレは世間の反応を見るために、ホンダが新聞を使って打ち上げた観測気球なのか? それとも第3期ホンダF1がそうだったように、社内の結論が出る前に、F1復帰を望む関係者が情報リークを行なったのか……。ホンダ広報部を直撃した。

まずは「なぜ、こんな報道があったと思うか」と尋ねると、「私どもとしては何も発表していませんので、なぜこのような報道があったかわかりません……」と予想どおりの回答。「では、報道内容は事実なんですか?」と聞くと、「(伊東孝紳[いとうたかのぶ]社長が今年2月8日の会見で)F1について『勉強中』とは申してますが……」とくる。続いて「根拠もなく、断定形で全国紙1面の記事ですよ! 事実じゃないなら公式に否定するとか、なんなら朝日に抗議しては?」と聞くと、「まぁ、ポジティブな内容の記事ですし……」とワケのわからん返事が返ってくるのだ。

うーん、意図的な情報リークか想定外の暴発かはさておき、やはり、ホンダ内部の誰かさんが朝日の記者に「よけいなコト」を話したと見るべきだろう。そして、ホンダはそれを否定も肯定もしないという形で“間接的”に認めつつ、時期を見て(たぶん株主総会あたり?)で正式発表するという、コレまた第3期F1始動前夜と同じような流れなんだろうなぁ。

まぁ、ホンダとしては14年からレギュレーションが変わり、エンジンが1.6リッターV6ターボ化されるタイミングは新規参入のチャンス。しかも15年からの参戦なら1年間ライバルの様子を見て、メルセデスのデータも盗めるし、マクラーレンと組めば絶対イケると思っているんだろう。急激な円安のおかげでボーナス満額回答の勢いに乗り、今こそ第3期F1の汚名を拭いたい!ということか?

でもなぁ……「F1はホンダのDNA」とか、さんざん大口叩きながら、第3期では最後までパッとせず、そのうえ、リーマン・ショックが起こると、恥も外聞もかなぐり捨て、F1に後ろ足で砂をかけるように、ミットモナイ姿で撤退した、あの身勝手なホンダが、ちょっと円安で懐具合が良くなった(?)途端にF1復帰って、「今さらどの面下げて帰ってくるんだ!」と、思っている人も多いんじゃないのか?

まさか復帰を正式発表したものの、2年以内にアベノミクスが崩壊して、「ホンダ、金融危機でF1参戦計画を撤回!」なんてオチが待ってないか、今後の動きをしっかり見ていく必要アリだな。

(取材・文/川喜田 研)