『全国あいどるmap 2012-2013』エンターブレイン
表紙はなぜかアダルトな雰囲気だが、中身に登場するのは健全でマジメなアイドルばかり。巻末では「あいどる年鑑 2012-2013」と題して、全国で活躍するアイドルグループ78組のデータ、全メンバーのプロフィールを地域別に収録している。8月4日・5日の「TOKYO IDOL FESTIVAL 2012」に出演するグループも少なくないので、観に行く人は必携だ。

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日本の夏、アイドルの夏! なんて言いたくなるほど、この夏は、大規模なアイドルイベントが目白押しだ。少しさかのぼって、6月25日には日本武道館で、アイドルにして自身も熱烈なアイドルファンでもある指原莉乃(HKT48)のプロデュースによるイベント「第1回ゆび祭り〜アイドル臨時総会〜」が開催され、ももいろクローバーZや乃木坂46、Buono!など異色のラインナップで話題を呼んだことは記憶に新しい。今後の予定でいえば、エイベックスグループが毎年夏に開催している音楽イベント「a-nation」でも、国立代々木第一体育館での「musicweek」の一環として来週土曜、8月11日にアイドルをフィーチャーした「IDOL NATION」が開催される。すでに夜の本公演はチケットが売り切れ、急遽追加公演として昼の部の開催が決まった。

しかし最大の目玉は、何といってもこの週末、8月4日と5日に東京・台場の青海(あおみ)特設会場で開催される「TOKYO IDOL FESTIVAL 2012」だろう。ラインナップを見るだけでも、たとえばAKB48グループからSKE48が、ハロープロジェクトから吉川友が、グラビアアイドル界から吉木りさが……というぐあいに異種格闘戦の様相を呈していて面白い。当日はニコニコ生放送で中継(有料。ネットチケット購入はこちらのページで受付中)も予定されているので、現地に行けそうにないという人もこれで各ステージを楽しむことができそうだ。

日本最大のアイドルイベントである「TOKYO IDOL FESTIVAL」(以下、TIFと略)は、一昨年、昨年に続き今年が3回目の開催となる。ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)はTIFの初年度の出演を足がかりにブレイクしたともいわれる。TIFはまた、複数のステージで同時多発的に何組ものアイドルが出演するというロックフェスの形式を踏襲した点で、アイドルのイベントとしては異彩を放っている。これについてTIF総合プロデューサーの門澤清太は、先ごろ刊行された『全国あいどるmap 2012-2013』所収の嶺脇育夫(タワーレコード社長)との対談のなかで次のように語っている。

《(ロック)フェスとか行ったことない人も多かったと思うんです。だから、初年度は“何で見れないんだ!”とか言われました。出演が重なってるとか、入場制限で入れないとか》

アイドルファンには、すべての現場を回らないと気がすまないという人も多いので無理はない。だがそれも昨年あたりからやっと理解してもらえはじめたようだ。

ちなみに門澤は、フジテレビのCS番組発のアイドルグループ、アイドリング!!!の総合プロデューサーでもある。TIFにもアイドリング!!!は出演するものの、彼は《このイベントでアイドリング!!!が受ける恩恵は極力ないようにしようと思っています。我田引水になってしまうのが一番危険なので》と、あくまで自分の手がけるグループとイベントを切り分けて考えているようだ。

一方、対談相手である嶺脇育夫は、タワーレコードでアイドル専門レーベル「T-Palette Records」を立ち上げ、新潟を拠点とするNegicco(ねぎっこ)や福岡を拠点とするLinQ(リンク)、名古屋を拠点とするしず風と絆〜KIZUNA〜などといったアイドルグループのCDをリリースしている。

このうちNeggicoは2003年結成というから、もっとも息が長い(AKB48より活動期間が長い!)。いまや日本のあちこちで地域活性化のためアイドルグループがどんどん生まれているが、Neggico(もともとは新潟の名産品“やわ肌ねぎ”のPRユニットとして結成された)はそのパイオニア的存在であるというわけだ。

前出の『全国あいどるmap』は、Negiccoをはじめ日本各地で活動するアイドルグループを紹介した本だ。先にあげた4組のほか、仙台のDorothy Little Happy(ドロシー・リトル・ハッピー)や愛媛のひめキュンフルーツ缶などといったローカルアイドルへのインタビューが収録されている。このうちLinQのインタビューでは、メンバーが「アジアでツアーをやりたい」と語っていたりとなかなか気宇壮大だ。たしかに彼女たちが言うように、福岡は東京よりも韓国のほうが近いわけだし。

とはいえ、地方のアイドルにとってやはり東京で話題になることは非常に重要だという。先の対談で嶺脇は《地方の状況は、日本映画とよく似ていて、カンヌで賞取ると興業成績が上がるみたいなことがあるんです。LinQもNegiccoも東京で取材入れたり、チャートアクションがよくなることで、地元のマスコミやファンの方々も再注目してくれたり。それで、さらに新たなファンを獲得できたりするんですね》と語っている。それでもなかには仙台のDorothy Little Happyのように地元での人気が先行し、満を持して東京のレコード会社からデビューしたというグループもある。

本書のインタビューでは、地元と東京の移動にまつわる話もちらほら出てくる。Dorothy Little Happyのメンバーたちは、高速道路での移動を繰り返すうちに東京までの道をすっかり覚えてしまったというし、名古屋のしず風は、その姉妹ユニットである絆とともにキャンピングカーで各地のライブを回っており、バックバンドのメンバーが一緒のときなどは満員で寝られる状況でなくなることもあるとか。筆者も東京〜名古屋間を高速バスで移動することが結構あり、ときには眠れず不満を抱くこともあるが、彼女たちの話を読んでちょっと反省させられた。

ここ数年、「アイドル戦国時代」という呼び方がよくされる。しかしその実態を見るにつけ、戦国時代というイメージとはちょっと違うんじゃないかという気がしてくる。むしろ、いまアイドルというジャンルが迎えているのは、一種の成熟ではないだろうか。

従来のテレビやレコード会社主導でアイドルが提供されるシステムはほとんど崩れ、アイドルの活動はライブやイベントといった現場が中心となっている。また、子供のときからダンスレッスンを受けアイドルを目指す予備軍も全国各地に存在する。そんな状況のなかで、メジャーとマイナー、プロとアマチュアといった境界もあいまいになってきた。

ほかの分野でいえば、たとえばマンガの世界でコミケが始まったとき、あるいはロックにおけるバンドブームや、お笑いにおけるM-1グランプリが始まったときには、それぞれ裾野が一気に拡大した。それらと同じようなエポックをいままさにアイドルの世界も迎えているのではないか。TIFは、ローカルアイドルの動向も含め、さまざまな面で大きな変化を迎えつつあるアイドル界を俯瞰できる絶好の機会といえる。

AKB48やももクロのブレイクに乗り遅れた! と思っているあなた。でも大丈夫。日本にはまだまだアイドルグループがたくさんありますよ。ぜひ、TIFや本書『全国あいどるMap』であなた好みのアイドルを探してみてください。(近藤正高)