国や金融機関の支援によって大リストラを敢行、労働組合問題もクリアしたJALと比べ、ANAのリストラは遅れている。業績が乱高下するなか、組合問題は無視できない課題だ。

 6月28日、全日本空輸(ANA)の国内線で、941便中欠航166便、遅延36便を見込むストライキが予定された。

 パイロットの労働組合である、ANAグループ乗員組合(AGPU)が計画したもので、結局、ストは回避されたものの、ANAのコールセンターには「時代遅れにもほどがある」など顧客からのクレームが殺到したという。

 ANAは、今年設立した格安航空会社「ピーチ・アビエーション」を除くと、国内線ではエアーニッポン(ANK)と、ANAウイングスという二つのエアライン子会社を持っている。AGPUは、この2社のパイロットによる労働組合だ。

 かつて、日本航空(JAL)は最大で八つもの労働組合を抱えた。高コスト体質を改められなかったことが経営破綻の大きな原因だったが、その理由の一つに、労働組合問題があった。

 一方のANAは、JALほど労働組合問題がクローズアップされたことはなかったが、JALが企業再生支援機構による3500億円の増資と金融機関からの債務免除を原資とした大リストラを経てよみがえろうとしている今、労働組合が経営の大きな足かせになる可能性がある。



 上図(1)を見ていただきたい。ANAは前期決算こそ黒字を確保したが、その前は2期連続で当期損失を出した。2008年のリーマンショックによる需要激減のあおりを受けたのだ。今期は、東日本大震災が起き、業績予想もまだ出せていない。エアライン業界は常に大きな変動リスクを抱える業界だ。

 そんななか、ANAは年間1000億円規模の経費節減をしてきたが、人件費に関しては、ほとんど切り込めていない(図(2))。

 一方、ライバルのJALは、前述したように、国と金融機関の支援を元手に、古い機材を新型機に入れ替え、グループで3割もの社員を削減、さらに人件費にも大きく切り込むことに成功している。

 かつてJALのパイロットは、ANAよりも賃金が高かったが、2000年代に続いた経営不振によって徐々に賃金水準が下がり、昨年の経営破綻前には、平均で年収1800万円にまで下がっていた。破綻後、JAL経営陣はさらに人件費を削減し、今ではパイロットの年収は1200万円にまで下がっている(図(3))。

 もはや、ANAの子会社よりも、JAL本体のパイロットは賃金が安いのだ。海外のエアラインと比較した場合、ANAの賃金水準は決して高いわけではない。しかし、パイロットの乗務時間が短いなど、そのほかの待遇が手厚いため、生産性で劣る。JALのように賃金を下げられないのなら、生産性を向上して対抗しなければならない。

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