埼玉県飯能市が取り組んでいる、農に関心がある都市部の住民を呼び込む農業プログラム「飯能住まい」制度が好調だ。2016年の事業開始から2年半で8組24人の移住が決まり、一部の移住者は農のある暮らしがスタート。中には、将来的には直売所への出荷や、農家レストランの経営などの構想もあり、夢が膨らむ。

 事業は、一定の条件を満たした市街化調整区域の遊休農地に、住宅を建設できる「優良田園住宅の建設の促進に関する法律」を活用した。移住者の農業の習熟度や生活スタイルに合わせて、農業体験、家庭菜園、農園利用、農地利用の四つのプランを準備。農地は、取得の下限面積を5アールと、一般的な50アールの10分の1に設定した。加えて、最大285万円の補助金や住宅用地の紹介もする。

 だが、取り組みの当初は認知不足もあり、なかなか移住に結び付かなかった。そこで、市では大規模なPRを展開した。東京のJR山手線内での1週間の中づり広告や、事業の内容をまとめた冊子を2500部作成をするなどしてアピールした。

 PRの努力もあり、17年11月には1組4人の家族の移住が決定した。問い合わせも今年11月末までに約400件が来る盛況ぶりだ。同市まちづくり推進課の担当者は「最初の1組の移住が決まってから、移住の動きが加速した。SNS(インターネット交流サイト)で移住者が農のある生活を発信してくれたのが大きいと思う」と分析する。

 「アウトドアが大好きで、大自然の中で農のある暮らしをしようと思って、移住を決心したんだ」と笑顔で話すのは、神奈川県相模原市から移住した会社員の遠藤拓耶さん(32)だ。自宅の目の前に広がる庭に家庭菜園をつくり、ジャガイモやのらぼう菜、ハーブなどを栽培しようと計画している。遠藤さんは「将来的には直売所出荷や、庭先で取れた新鮮な野菜をその場で料理して振る舞える空間をつくりたい」と青写真を描く。

 移住する人の農業のサポートは同市農業委員会が担う。現在は同会の推進員が栽培のアドバイスなどをしている。今後は栽培講習会なども開く予定だ。会長の吉田勝紀さん(70)は「活用方法がなかった遊休農地に、農や自然を愛す人が住んでくれてうれしい。みんなで地域を元気にしたい」と期待する。