タイヤのメンテ「興味なし」の現実 空気不要の「エアレスタイヤ」が求められるワケ
自動車タイヤの空気圧を気にする人が減っていることから、メンテナンスの軽減・効率化を目的とした技術開発が進められています。その一環として、空気が不要の自動車用「エアレスタイヤ」も開発されました。ただ、実用化には課題もあるようです。
「所有からシェアへ」、タイヤ空気圧は誰が見る?
自動車タイヤのトラブルが増加しています。JAF(日本自動車連盟)によると、タイヤのパンクやバーストといったトラブルによる救援要請件数は2009(平成21)年度に約27万5000件だったものが、2016年度には約37万6000件となっているそうです。
これを裏付けるかのように、タイヤ空気圧の整備不良も増加しているようです。JATMA(日本自動車タイヤ協会)は毎年4月に全国で一般ユーザーのタイヤ点検を行っていますが、2018年4月に行った際には、乗用車系車両の17.0%で空気圧不足が認められたそうです。
東洋ゴム工業が開発したエアレスタイヤ「ノアイア」(画像:東洋ゴム工業)。
「トーヨータイヤ」で知られる東洋ゴム工業によると、「車検のときにしか(空気圧を)見ないという人も多いです。このため、『メンテナンスフリー』を目指すコンセプトがますます重要視されています」とのこと。この傾向に応えるべく、同社は空気を充填せずパンクすることがない「エアレス」のコンセプトタイヤ「ノアイア」を開発しており、2017年にはそれを装着した車両の試乗会も行っています。開発の背景について話を聞きました。
――なぜエアレスタイヤを開発するのでしょうか?
将来的にタイヤのメンテナンスフリーが求められていくことは確実であることから、その技術提案をできるようにするために開発しています。自動車を保有せず、レンタカーやライドシェアといったサービスへシフトする「所有からシェアへ」という流れのなかで、タイヤのメンテナンスに興味を持つ人が少なくなっていくばかりでなく、点検を担う人材も減っていくと考えられるからです。
現在、自動車業界は100年に1度の大転換期ともいわれます。たとえば、電気自動車(EV)化が進めば車両重量は重くなっていくので、やはり空気は必要ということになるかもしれません。しかし、どのような形にしろメンテナンスフリーは重要なコンセプトになっていくでしょう。
――エアレスタイヤはどのような仕組みなのでしょうか?
空気が担っていることを、さまざまな構造で置き換えています。たとえば、空気を使わずに自動車の重量を支えるために、特殊樹脂でスポークを構成し、耐久性を向上させました。一方、路面に接するトレッド部分には低燃費トレッドゴムを採用しており、これはスタッドレス用、悪路用に張り替えることも可能です。
エアレスタイヤは国内他社も開発を進めていますが、おもにはスポークなど「骨格」の耐久性を上げることに各社がしのぎを削っています。
実用化はまだ先? 立ちはだかる大きな壁
――ゴムのトレッドである限り摩耗すると思いますが、これについてはどのようにお考えでしょうか?
ご指摘のとおり、トレッドは摩耗します。その補修を「トレッドの張り替え」で対応していくかどうかについては、結論は出ていません。本当の意味で全く手が要らない「メンテフリー」はまだまだ難しい状況です。まずは日常的な点検が要らないという意味でのメンテナンスフリーを実現していきます。
――乗り心地はいかがでしょうか?
2017年9月に実施した試乗会では、「ノアイア」を荷重1トンの軽自動車に装着し、120km/h走行まで耐えうることを体験いただきました。参加された方からは、乗り心地は「まだまだ」というご意見もありましたが、2006(平成18)年から開発を積み重ねてきたこともあり、「ここまできたか」というお声も多かったです。
――実用化の見込みはあるのでしょうか?
いいえ。自動車用エアレスタイヤについては、法令などの壁が存在します。現状の技術基準では、タイヤは「空気入り」とされているため、タイヤの定義そのものを変えていかなければならないのです。当社だけではなく業界全体で基準から見直していく必要がありますが、そこで法規を語れるほどの技術レベルにはまだ到達していないというのが実情です。2、3年ではなく10年、20年のスパンで見ていく必要があるかもしれません。
「ノアイア」装着車両(画像:東洋ゴム工業)。
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エアレスタイヤは、単に「パンクしない」だけではなく、メンテナンスの軽減という課題を解決するものとして開発が進められているようです。なお、同様の技術はブリヂストンなどでも開発しており、同社では2019年をめどに、まず自転車用を実用化するとしています。
ちなみに、タイヤのメンテナンスを効率化する技術も開発されています。アメリカのグッドイヤーは、IoT(モノのインターネット)技術を活用し、複数車両のタイヤ情報を車両管理者が一元的に管理できる「インテリジェントタイヤ」のプロトタイプを2018年3月に発表しました。日本グッドイヤーによると、これはレンタカーやカーシェアの増加を見越した事業者向けの技術とのこと。保有車両の空気圧などの情報をモバイルアプリを介してリアルタイムに共有できるそうです。
【画像】これぞ未来型? グッドイヤーの「光合成するタイヤ」
グッドイヤーが2018年3月のジュネーブショーで発表した「オキシジェン」のイメージ。サイドウォールに苔を生息させ、トレッドを通して路面から水分を吸収。苔の光合成で酸素を放出し、空気を浄化するという(画像:Goodyear)。