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何を考えて、どう仕事に向き合っているかは、言葉の端々から漏れ出てしまう。一流と二流の話し方は、どこが違うのか。「プレジデント」(2017年12月18日号)では、話し方の達人として知られるキヤノン電子の酒巻久社長に、その違いを聞いた――。(前編、全2回)

■真の実力者は歯に衣着せない

上司の言うことをよく理解し、上司の期待どおりの仕事をする。周りから見てもパフォーマンスが際立っている。そんな人は、世間一般で言えば一流のビジネスマンであろう。ところが、「あいつはよくやっていると思われる程度では二流ですよ」と断じるのは、キヤノン電子を高収益企業に育て上げた酒巻久社長だ。

「真の一流は派手なところがない。問題が起こらないように先手を打ち、頑張っているような印象を与えない」

上司に「簡単なテーマを与えすぎたかな?」と勘違いさせる人がホンモノの一流なのだ。そんな部下の真価を見抜き、抜擢できる上司もまた一流。だが、「抜擢ならぬ、出る杭を抜いて摘み取る“抜摘”ばかりする二流の上司が実に多い」と酒巻氏。

「一流の部下は問題の本質に気付く鋭敏な感性や柔軟な思考力があるから、上司が間違っているときはハッキリものを言う。だから生意気に見える。二流の上司は一流の部下を煙たがり、二流の部下ばかり出世させ、あげくに会社が潰れてしまうのです」

一流と二流は日ごろの話し方や態度から明らかに区別できるという。何がそれを分けるのか、シチュエーション別に酒巻氏に解説してもらった。

1:事細かに仕事を指示されたとき
“素直でかわいい”だけでは物足りない

上司によっては、部下の仕事のやり方に対してこまごまと口出しする人がいる。

「まず、この上司は二流です。ゴールとスケジュールだけはハッキリと示さないといけないが、やり方にまで細かく指示を出すと、上司のアイデア以上の方法が出てきません」

仕事の手法にまで口をはさむのはダメ上司というわけだ。

想定外のアイデアが出てきたとき「それはいいね」と面白がるのが一流の上司で、「それじゃうまくいかないだろう。オレが言ったとおりにやればいいんだよ」と仏頂面するのが二流の上司。

■「もっと教えてください」は二流

部下はといえば、上司の事細かな指示を一生懸命聞いて、「もっと教えてください」と上司の指導に従って仕事をこなすのは二流の部下だ。こんな部下は一流の上司からすれば「物足りない」が、二流の上司には“かわいい部下”に見える。

「自分の言うことを何の疑問もなく聞き入れて、自分の手足のように動くのだからかわいくないわけがない」

その点、一流の部下は日ごろからよく勉強をしているので、上司が指示を出す前に課題に取り組み、問題の本質まで分析して解決策を考えている。だから、一流の部下は上司が指示を出すまでもなく、自分の考えで仕事を進める。あるいは「課長から提案していただきましたが、私なりに考えてみて、こちらの方法のほうがいいと思いました。これでやってもいいですか」と、自分のアイデアをぶつけてくるものだ。表面的には「生意気な部下」と見えるだろう。

反対に、自分の指示に従って頑張っている部下を頼もしく思ったら、それは自分が二流の部下をかわいがっている証拠かもしれないのだ。二流の上司が二流の部下をかわいがるうちに会社そのものがおかしくなると酒巻氏は言う。

「自分の言うことに従順な部下は自分より能力の劣っている者です。そういう部下の能力は、だいたい自分の能力の7掛け。たとえば経営者でそれが2代続けば0.7×0.7で3代目は初代の半分以下の能力しか持たない人になってしまうのです」

人材がどんどん小粒になるのでイノベーションが起きず、会社の競争力も失われる。それを避けるためにも「生意気」と思われるぐらい真に優れた人材に目を向けたいものだ。

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▼一流:違うやり方でやっていいですか?
自分のやり方を提案
上司から指示を受ける前に、自分なりに課題を分析し、解決までのプロセスを考えている。上司の指示より自分が考えたやり方のほうが効果的と判断したら、「このやり方を試してもいいでしょうか」と提案する。


▼二流:もっと教えてください
完璧に指示の内容を把握
上司に細かなところまで指示を仰ぎ、言われたとおりに完璧にこなそうとする。自分の頭で考えないから途中で行き詰まることも多い。だから「仕事のやり方をもっと教えてください」とやたらと、上司にお願いするのが悪い癖。

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2:大事な局面で上司に相談する場合
進むべき道を理由づけて説明できるか

大事な局面に差し掛かったとき、上司に対してどんなタイミングで、どんな相談をするか。これは一流か、二流かが最もはっきりとわかる場面だ。

「ビジネスに一本道はありません。いつも目の前にY字路が現れ、右に行くか左に行くかを決める必要があります。ビジネスは選択の連続です」

そんなとき二流の部下は「右に行くか左に行くかわからなくなってしまいました」「ここまで来たんですが行き止まりでした」と困り果てて上司に判断を仰ぐタイプだ。

■進むべき道をきちんと理由づけて説明できる

まず、相談に来るタイミングが遅すぎる。仕切り直しするにしても時間のロスが大きい。

上司は仕方ないので、Y字路で間違った方向に曲がってしまった部下に、選択肢のミスを教え、別の方角に向きを変える必要性を説く。それを聞いた部下は思いっきり進路を変え、「全力で頑張ってみます」と答えるのだ。しかし一流の上司からすれば、無駄な仕事ばかりしているように見える。

一流の部下はまずY字路に差し掛かっているところで上司に相談に来る。相談するタイミングが絶妙だ。そのときの言い方も二流とは違う。

「いま私は右に行くか、左に行くかの岐路に立っています。私としては右に行ったほうが○○の理由でいいと思います。逆に左に行くと××の理由でリスクが大きいように思うのですが、どうでしょうか」

このように複数の選択肢があることを意識し、さらにそれぞれの選択肢の可能性を考え、進むべき道をきちんと理由づけて説明できるのだ。

■二流上司は自己保身で二流部下を高く評価してしまう

このとき上司が一流なら当然、この部下を高く評価する。ところが二流の上司だと、自分の考えを理路整然と語る部下よりも、困り切って自分に指示を仰ぎ、言ったとおりに行動した結果、「うまくいきました!」と喜んでいる部下のほうがかわいい。自己保身もあいまって、二流の部下を高く評価してしまうという。

「この部下なら将来にわたって自分の地位を脅かすことはないと安堵し、能力の低い部下のほうを抜擢することがよくあります」

たとえ「一流である」と認められる人でも、会社で出世したいのであれば上司が一流か二流かで対応を変える必要がありそうだ。

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▼一流:A・Bのうち、Aのほうがいいと思います
仮説を伝える
状況報告にとどまらず、「AとBの2つの道があります」と取りうる複数の選択肢を示したうえで、「Aのほうが現在の課題を解決できる可能性が高いと思います。なぜならば……」と、きちんと裏付けのある仮説を述べる。


▼二流:A・Bのうち、どちらを選べばいいですか
状況を正しく報告
まず上司に現状を詳細に報告する。そのうえで「AとBのどちらを選べばいいでしょうか?」と判断を委ねるのはまだいいほうで、「どうしたらよいかわかりません……」と判断を投げ出してしまう三流、四流の人もいる。

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酒巻 久(さかまき・ひさし)
キヤノン電子代表取締役社長
1940年、栃木県生まれ。67年キヤノン入社。96年常務取締役生産部長。99年より現職。環境経営の徹底で6年で売上高経常利益率10%超の高収益企業へと成長させる。著書に『見抜く力 リーダーは本質を見極めよ』など。

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(Top Communication 撮影=竹中祥平 写真=iStock.com)