韓国で開催されているU-20W杯は5月28日、グループリーグの試合がすべて終了し、決勝トーナメントに進出する16カ国が出そろった。

 日本はグループDの3位に終わり、自動的にグループリーグ突破となる2位以内に入ることはできなかった。だが、勝ち点4(1勝1敗1分け)の成績により、各グループ3位のうちの上位4カ国に入り、晴れて決勝トーナメント進出である。

 今大会は混戦になるグループが多く、3位で決勝トーナメントに進むためには、勝ち点4が必要だった。これは過去の大会と比べても、決勝トーナメント進出のボーダーラインとしては高い水準であり(たいていは勝ち点3で得失点差の争いになる)、出場国間の実力が接近していることの、最もわかりやすい証拠だろう。A代表などから受ける一般的なイメージから、たいしたことはないと思われがちな国でも、意外なほどレベルの高いチームが多かった。

 実際、開幕戦から連日試合会場を飛び回り、出場全24カ国中22カ国を最低1試合は現地取材してみたが、日本のほうが明らかに実力で上回っていると言えるのは、バヌアツ、ベトナムなどごく一部。どう贔屓(ひいき)目に見ても、今大会の日本の実力は真ん中より下というのが妥当なところではないだろうか。

 そんな日本が決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)で対戦するのは、グループB1位のベネズエラ。サッカー以上に野球が人気の、南米のなかでは弱小国のイメージもあるが、今大会ではその強さが際立っている。

 今大会のベネズエラは、メキシコ、ドイツという育成年代の強化に優れた国と同居したグループBを、3戦全勝の勝ち点9、総得点10、総失点0という完璧な成績でトップ通過。出場全24カ国中、3戦全勝は他にもフランス(グループE)がいるが、得失点差では総得点9、総失点0のフランスをも上回る。グループリーグの成績だけで見れば、今大会最強と言ってもいいチームなのである。

 グループリーグ3試合で10ゴールという全24カ国中最多の数字が示すとおり、ベネズエラの特徴は個々の能力が高く、しかも駒が豊富な攻撃陣だ。

 システムは、ともに長身のFWロナルド・ペーニャ(背番号9)、ロナルド・チャコン(背番号11)が2トップを組む4-4-2と、ペーニャを1トップにし、身長158cmの小柄なドリブラー、MFジェフェルソン・ソテルド(背番号10)をトップ下に置く4-2-3-1を併用。タイプは異なるが、どちらも破壊力抜群だ。


ベネズエラの中心選手であるセルヒオ・コルドバ とはいえ、どちらのシステムを採用するにしても、ベネズエラの攻撃の中心を成すのはサイド攻撃。特に右サイドのFWセルヒオ・コルドバ(背番号19)は、爆発的なスピードとパワーを併せ持つフィジカルモンスターである。

 瞬間的な加速力にはやや欠けるが、スペースを与えてしまえばスピードで楽々と相手を抜き去り、止めにくるDFを強靭な肉体で跳ね飛ばす。

 圧巻だったのは、メキシコを1-0で下したグループリーグ最終戦だ。コルドバはDFラインの裏に走り込むと、浮き球のパスを軽やかにジャンプしながら左足アウトサイドで巧みにトラップ。後ろから相手DFに寄せられるも、弾き飛ばしてドリブルで進み、最後はGKもかわしてゴールへシュートを流し込んだ。技巧とパワーを見せつけての決勝ゴールだった。

 このゴールからもわかるように、コルドバは得点能力も高く、ここまで4ゴールは大会得点ランキングでトップの数字である。

 日本側から見ると、この背番号19を自由にプレーさせてしまえば、たちまち守備網は破綻してしまう。まずはコルドバをいかに封じるかがカギとなるだろう。

 マッチアップするのは日本の左サイドバック、つまり順当ならDF舩木翔か、杉岡大暉である。あえて攻撃力の高い舩木を起用し、(日本から見て)左サイドで先手を取るのか。あるいは、身長188cmのコルドバに同182cmの杉岡をぶつけて守備力で対抗するのか。内山篤監督がどんなコルドバ対策を採ってくるかは、ひとつの注目ポイントとなる。

 また、コルドバとともに、ベネズエラのサイド攻撃を担うのが、左サイドのFWアダルベルト・ペニャランダ(背番号7)。コルドバほどのスピードとパワーはないものの、技術を兼ね備えた、こちらも優れたドリブラーだ。

 この他にも、ベンチに控えるFWヤン・ウルタード(背番号13)、サムエル・ソサ(背番号15)も、パワフルなアタッカー。4-4-2、あるいは4-2-3-1とはいえ、実質4トップと言ってもいいほど、能力の高い選手をズラリと前線にそろえる攻撃力は、間違いなく今大会屈指である。

 いかに実力差があるバヌアツが相手だったとはいえ、グループリーグ第2戦で大量7ゴールを奪った破壊力は伊達ではない。ベネズエラがスピードとパワーで蹂躙(じゅうりん)し続ける試合は、見ていて、バヌアツがかわいそうになるほどだった。迎え撃つ日本の守備陣にとっては、肉体的にも精神的にも厳しい90分となりそうだ。

 高い攻撃力を備えていると言っても、ベネズエラは決して腰高で守備の甘いチームではない。それはグループリーグ3試合で無失点という数字が示すとおりだ。

 DFウィリアムズ・ベラスケス(背番号2)、ナウエル・フェッラレシ(背番号4)のセンターバックコンビはそろって高さがあるが、決して鈍重な選手ではなく、機動力を備える。ボール扱いもうまく、自らボールを前方に持ち出して攻撃の起点にもなれるオールラウンダーであり、つまりはフットワークに難があって、日本人選手の俊敏性でスキを突けるようなタイプではないのだ。

 さらにはキャプテンでボランチのMFジャンヘル・エレーラ(背番号8)が、的確にパスを散らして前線のタレントを操りつつも、中盤の底で相手のカウンターの芽をしっかりと摘んでしまう。日本同様、比較的小柄な選手が多く、ボールポゼッションを高めた攻撃でチャンスを作ろうとしたメキシコを完封していることからも、スキのなさはうかがえる。

 各ポジションに穴がなく、高い組織力でまとまったチームは、おそらく日本を2-0で下したウルグアイに匹敵する力を持つ。攻守両面でレベルが高く、グループリーグでの戦いぶりから判断するに、フランス、ウルグアイと並ぶ優勝候補の一角。実力的には日本よりも上と見て間違いない。

 南米からイメージするほどテクニックにあふれたチームではなく、どちらかと言えば、フィジカル能力の高さが際立つあたりも、日本にとっては相性のいいタイプとは言い難い。しかも、グループリーグ最終戦から中2日の日本に対し、ベネズエラは中3日。試合日程もベネズエラの優位を後押ししている。

 つけ入るスキがあるとすれば、ムラッ気のある精神面だろうか。大勝したバヌアツ戦でも、試合終盤は全体が間延びして大味な攻撃になり、誰もが点を取りたい「オレが、オレが」のサッカーになっていた。3-0の段階で得たPKを、GKウイルカー・ファリネス(背番号1)に蹴らせてしまうあたりも、彼らのなかに起こりがちな精神的な緩みを感じさせる。

 日本としては、拮抗した展開のまま、相手に焦りが生まれる終盤勝負に持ち込みたいところ。イタリア戦のようにサイドのスペースをつかれ、試合序盤に失点するようなら勝機はあるまい。

 なかなかに厳しい相手との対戦は、しかし、ひとつでも多く、世界レベルの真剣勝負の機会を得たい「東京五輪世代」にとっては、またとないチャンスでもある。グループリーグのウルグアイ、イタリアに続き、厳しい組み合わせではあるが、考えようによっては充実の大会を過ごしているとも言える。

 フィジカルモンスターを擁する強敵に対し、若き精鋭たちがどんな戦いぶりを見せてくれるのか。日本の次なる挑戦となるベネズエラ戦は、5月30日。現地時間、日本時間ともに17時キックオフである。

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