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●赤坂店でムスリム対応メニューを販売
レインズインターナショナルが運営する焼肉チェーンの「牛角」は、4月17日にグランドオープンした牛角赤坂店において、通常メニューに加え、イスラム教徒(ムスリム)対応メニューの販売を行っている。ムスリム対応メニューの販売は、訪日外国人の増加に伴うニーズの高まりが背景になるが、赤坂店以外の対応店舗の計画については曖昧。目的は一体何なのか。

○ムスリム対応メニューとは?

赤坂店で提供される新メニューは、ムスリムが食べることを許された食品、食材を使ったコース料理。ムスリムが豚肉を食すことを禁じられているのは有名だが、料理を提供する上で配慮すべきことはほかにもある。赤坂店では、ムスリム対応メニューの提供に当たり、宗教法人イスラミックセンター・ジャパンの指導を受け、主に以下の4項目に配慮し、料理・サービスを提供する。

・豚肉禁止(肉だけでなく豚肉由来のポークエキス、ラードも禁止)
・豚以外も定められた方法でと殺・加工処理されていること
・アルコール禁止(飲酒ほか調理にも使えず、食品・調味料などの製造工程での添加もNG)
・非合法とされる原料・素材に触れた調理器具や食品の使用禁止

このため、調達する肉はイスラミックセンター・ジャパンが適正な処理を行っていると認める先から仕入れている。使用する食器類にも配慮が必要となる。通常メニューで使用される食器、トングとは別に、ムスリム専用の食器類が用意され、そこには、ムスリム専用であることを記すマークがしるされている。

調味料もムスリム対応ではアルコール禁止となるので、焼肉のタレも"みりん抜き"となる。食材の保管も通常メニューに使用される食材とは接触したり、混在したりしないように別々に保管する。調理過程でも食材が混在しないように細心の注意を払うという。

価格も気になるところだ。2つのコースがあり、「牛角コース」が4,500円、「WAGYUコース」が6,500円。牛角の食べ放題コースが最も高いもので4,380円であり、それ以上の値段というのはやはり高い。食材の仕入れ先が限られるなどムスリム対応にすることでどうしても価格は上がってしまうという。

●ムスリム対応メニューを巡る疑問
○漠然とした対応店舗計画の謎

様々な配慮が必要となる今回の取り組み。訪日外国人の増加でムスリムも増加し、2020年に向けて取扱店舗がさらに増加も……という流れはわかりやすい。しかし、店舗の広がりについては歯切れが悪い。

牛角マーケティング部の本間達也部長は「2020年までに何店舗か、というところまでは現状描けていない。チャレンジ的な位置づけになる。ただし、主要都市や浅草のように訪日外国人が多いエリアに展開するイメージは持っている」と話す。

食材の仕入れ先が限定的なムスリム対応メニューにおいて、スケールメリットを出そうとすれば、店舗拡大の計画があっていいはず。しかし、それが漠然としかない。いや、そもそも、オペレーションが煩雑になるくらいなら、いっそのことムスリム専門店にすればよかったのでは? とも思える。

○答えは海外にあり

なぜ、そうしなかったのか。こうした一連の疑問を本間氏にぶつけてみると、次のような答えが返ってきた。

当初は牛角が提供している通常メニューに再度注目してもらうための旗艦店、PR店の出店計画がそもそもの始まりだったという(そのため、通常メニューは外せない)。しかし、赤坂という立地上、訪日外国人が多いことが特徴となる。また、企業戦略を考えると、東南アジアとアラブ首長国連邦・サウジアラビアへの出店計画もあり、フランチャイズ本部としては、赤坂店を通じて、トライアルしておくことが必要だという。

海外戦略について調べると、親会社のコロワイドは「牛角」「温野菜」ブランドを主軸とした海外出店を計画している。特にASEAN諸国を中心としたアジアへの出店も進めており、2019年までの海外450店舗体制を築く計画だ。さらに、昨年9月にはアラブ首長国連邦・サウジアラビアにおいて、5年で6店舗を出店する計画も発表している。

ASEAN諸国でもインドネシアやマレーシアはイスラム教徒が多いし、今後中東へ進出を図るならば、ノウハウの蓄積という意味では、確かに大きな意味を持ちそうだ。牛角赤坂店は日本人も、ムスリムも楽しめる店舗であり、コロワイドグループが今後取り組むべきテーマを詰めた、そんな実験店舗とも言えそうだ。

(大澤昌弘)