中国の航空機メーカーがジェット旅客機を次々と誕生させ、そして受注も好調のようです。しかし、開発が発表されたばかりの最新型機がその波に乗ることは困難と見られます。そこには中国ジェット旅客機市場に特有の理由がありました。

中国製ジェット旅客機、続々誕生

 2016年11月1日から6日にかけ、中国の経済特区である珠海で開催された「第11回中国国際航空宇宙博覧会」にて、中国商用飛機(COMAC)は、開発名C9x9またはC929と称する280人から440人座席の将来型ワイドボディ旅客機が開発進行中であることを明らかにしました。

 これは、最終組み立てを中国商用飛機が上海において実施し、開発および生産についてはロシアのユナイテッドエアクラフトコーポレーションが参画するという、中露を中心とした共同プロジェクトとのことです。初飛行は2023年を予定し、そして2025年から2030年ごろには就役開始することを見込んでいますが、その前途は多難になることが予想されます。

「2016年第11回中国国際航空宇宙博覧会」で展示されたC929(C9x9)の大型モックアップ。中露以外への販売は難しいかもしれない(関 賢太郎撮影)。

 中国商用飛機はリージョナルジェット(短距離を結ぶ約70〜90座席の旅客機)として、ARJ21を開発しました。ARJ21の受注は300機を超えており、同種のリージョナルジェットである三菱MRJの受注数を上回っています。

 しかしARJ21は、米国連邦航空局ならびに欧州航空安全機関による型式証明を取得していません。型式証明の取得には、安全な運航のための数百にもおよぶ検査項目をクリアする必要があり、これを持たない航空機は例外を除いて飛行することができません。米国連邦航空局や欧州航空安全機関の型式証明は、日本を含め世界的に通用するため、これを取得することが外国へ販売する上での必須条件になります。

 ARJ21は中国民用航空局の型式証明を取得済みなので、中国国内で飛行することは可能です。そのため受注のほぼすべてが、中国国内の航空会社によるものです。

内需だけでペイ? 中国ならではの旅客機事情

 中国商用飛機はさらに、C919と呼ばれる100から200座席のナローボディ機を開発中です。C919は、ボーイング737やエアバスA320によって、2社の寡占状態にある市場への殴り込みになりますが、これも“今のところは”中国国内に限られています。

 ARJ21やC919は短距離を結ぶ小型旅客機ですから、広大な土地と莫大な人口を抱え、かつ経済的発展が著しい中国の国内だけでも十分すぎるほど需要が見込めます。ある意味、合理的な商戦略とも言えるでしょう。

「2012年中国国際航空宇宙博覧会」で飛行展示された中国国産旅客機ARJ21(手前)。マクダネルダグラス(現ボーイング)MD-90の影響を色濃く受けているとも(関 賢太郎撮影)。

 しかし「第11回中国国際航空宇宙博覧会」で発表されたC929は、最大離陸重量234トン、座席数は240から440、航続距離1万2000km以上の中型機であり、中国の国内だけでも良いと割り切ってしまうことは不可能です。またこのクラスの旅客機の需要は、全世界で数万機の受注がある小型機に比べて、ひと桁小さい数字にとどまります。

 したがってC929は、外国の空港へ飛行できるようになるためにも米国連邦航空局、欧州航空安全機関の型式証明を取得することが必須ですが、これは困難を極めるものになることでしょう。

内需に頼れぬC929、その多難な前途

 型式証明が取得できたとしても、外国の航空会社への販売も行わなくてはなりません。世界の自由な市場において、エアバスA350XWBやボーイング787といった、新世代のワイドボディ機に対し真っ向勝負を挑まなくてはならないという事実は、型式証明以上に難しい課題となります。

 しかも、中国国内における運用実績しかないサポート面での不安や、「メイドインチャイナ」という決して良いとはいえないブランドイメージ、政治的な事情に至るまで、否定的に働く多くのハンデを乗り越えなくてはなりません。

C929のビジネスクラス(上)とファーストクラスのレイアウト想像図。飛行性能などはエアバスやボーイングに大きく見劣りするとは考えられない(写真出典:中国商用飛機)。

 C929のエンジンは、A350や787と同じ米英製ターボファンの搭載が見込まれ、共通基準で検査された型式証明を取得することから、安全性や性能面においてこれらに大きく劣るといったことは考えられませんが、中国やロシアまたその友好国以外の航空会社に対して、エアバス、ボーイングではなくあえて中国商用飛機C929を選ばせる理由を作り出す道筋は、極めて厳しいものとなるでしょう。

【写真】黒ラインのMRJ試験3号機、初飛行

MRJの試験3号機が2016年11月22日、初飛行に成功。同年9月に初飛行した試験4号機とあわせ、これでMRJ試験機は4機体制となった(写真出典:三菱航空機)。