指揮官の美学、チームのスタイルがここまで正反対なのも珍しい。そのコントラストがゲームを緊迫した展開にさせたのは、間違いない。

『スタイルにこだわり、結果と同じくらい内容も重視する』浦和と、『徹底的に分析し、相手の良さを封じることで優位に立とうとする』柏。対照的な両チームによって争われたナビスコカップ決勝は、柏レイソルが1-0で浦和レッズを下し、99年以来の聖杯を手に入れた。

 浦和がボールを回し、柏が守ってカウンターを狙う構図は、最後まで変わらなかった。

 浦和と同じ3-4-2-1のシステムを採用し、オールコートのマンツーマンで応戦した柏が許した決定機は、阿部勇樹に飛び込まれ、フィニッシュされた後半25分の場面くらいのものだった。

 柏がそこまで完璧に浦和の攻撃を封じ込めた理由のひとつは、浦和の2シャドー、柏木陽介と原口元気への対応に見出だせる。
 
 相手の2シャドーがボールを受けようと自陣に下がっても、柏DFの谷口博之と渡部博文がなるべく付いていき、ボランチと5バックが近づいて、互いにカバーしやすい距離を取る。

 特に原口へのケアは徹底していて、シュートを1本も許さなかった。粘り強く対応したDFの渡部博文が振り返る。

「監督からは、原口選手がドリブルして来たら、抜かれてもいいから距離を開けずアタックするように言われていたんです。たとえ抜かれても、次の選手が足を出して自由にさせなかった。ボランチの栗澤(僚一)さんと茨田(陽生)が引いてくれて、(自分が出た分の)スペースを埋めてくれたのも大きかったと思います」

 入念なスカウティングと周到な対策がハマったのは守備だけではない。柏は、攻撃においても、浦和のウイークポイントを巧みに突いている。

「狙いはファーサイドだった」と明かしたのは、好クロスでFW工藤壮人のゴールをアシストした藤田優人だ。

「偵察の方から、浦和はファーサイドが空くという情報があった。だからあれは、僕の狙いと工藤のイメージがシンクロして生まれたゴールです」

 ワンチャンスをものにした柏は、リードされて一層前がかりになって反撃してくる浦和に対し、プランどおり、マンマークを徹底させ、カウンターの色を強めるだけでよかった。出場停止の大谷秀和に代わってキャプテンマークを巻いたボランチの栗澤僚一が振り返る。

「後ろも安定して跳ね返していましたし、安心感はありましたね。このまま行けるな、終わらせられるなと思いながら、プレイしていました」

 ほぼパーフェクトに近い出来だった柏の守備において、唯一『綻び』となる可能性があったとすれば、それはレアンドロ・ドミンゲスとジョルジ・ワグネルが縦に並んだ左サイドだっただろう。

 ジョルジ・ワグネルは浦和のサイドからのクロスへの守備対応を怠らず、懸命に跳ね返してピンチを救った。レアンドロ・ドミンゲスも普段より低い位置まで戻って、ディフェンス陣を助けた。

 それでも、ピッチに立っていた柏の選手の中で、守備力が11番目の選手がジョルジ・ワグネルで、10番目の選手がレアンドロ・ドミンゲスだったのは確かだ。

 もし、このサイドを浦和に徹底的に狙われていたら、完璧に近かった柏のバランスと選手間の距離は、果たして最後まで保たれただろうか。

 その点で、浦和にとって痛恨だったのは、攻撃が左サイド(柏の右サイド)に偏ってしまったことだ。

 浦和の攻撃における強みが原口、宇賀神友弥、槙野智章の左サイドにあるのは間違いない。だが、あまりに左サイドに執着しすぎて単調になってしまった。柏木が言う。

「チームが悪いときは左サイドに偏ってしまうがちだけど、今日もそうだった。うちは右利きの選手ばかりだから、どうしても左に展開しがち。後半は自分が下がってボールに触って、いろんなところに散らそうと思ったけど......」

 柏は相手のウイークポイントを突き、浦和は突けなかった。

 その違いは『スカウティング力の差』でも、『美学の違い』でもなく、『勝負どころを見極められるかどうかの差』、『プレッシャーの掛かる大舞台でも普段どおりの力を出せるかどうかの差』と言えるのではないか。栗澤が再び言う。

「一発勝負の大舞台をどれだけ経験してきたか。うちのほうが、ここ数年に限れば経験値が上だという自信がありました。試合の中では『ここは勝負しなければならない』とか『ここは踏ん張りどころだ』という場面が必ずある。リーグ優勝や天皇杯優勝、ACLを経験してきたことで、一人ひとりがそれを感じられるようになったと思いますね」

 チームとしての経験値が高まっているのは、この日のメンバーからもよく分かる。

 柏は大谷に加え、DF橋本和も出場停止。橋本に代わって先発が予想された山中亮輔がコンディション不良を訴え、DFの鈴木大輔、キム・チャンスまでもが負傷のため、この日の決勝に出られなかった。

 ベストメンバーで臨んだ浦和とは対照的に、レギュラーを4人欠き、負傷明けのレアンドロ・ドミンゲスは8月21日のACL準々決勝、アル・シャバブ戦以来の公式戦であり、ぶっつけ本番の状態だった。

 それでも、ゲームプランが共有され、局面での一対一に負けず、劣勢をひっくり返して勝利をもぎ取った。それはネルシーニョ監督が就任以来、口にしてきた「ヴィトーリア(ポルトガル語で勝利の意味)」の精神がチームに根付いていることの証しだろう。

 その柏にしても、この日を迎えるまで歩みが順調だったわけではない。優勝を目指したACLでは準決勝で中国の広州恒大に大敗し、心身ともに大きなダメージを負った。

「でも......」と、3バックを束ねた近藤直也が言う。

「ナビスコに残っていたおかげでモチベーションを切らさず、緊張感を保って切り替えられた部分がある。この大会にACLの悔しさをぶつけようと」

 その言葉は、そのまま、今の浦和にも当てはまる。

 浦和には、モチベーションを切らさず、緊張感を保てる機会が存在する。この悔しさを晴らす大きなチャンスが目の前にある。

 リーグ優勝――。

 浦和が06年以来の戴冠を果たしたとき、この準優勝の価値が高まるはずだ。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi