図19・20

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調査概要/gooリサーチとの共同で、インターネットを通じて調査を行い、1031人から回答を得た。調査期間は11年2月10日〜13日、調査対象は30〜50代の働く男女。

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■聞き流すだけで身につくはずがない

730以上の人に「役に立った教材」を聞いたところ、「NHKラジオ講座」が断トツの一番にあがった(図19)。手軽に始められるため、利用者も多いようだ。

一方、「買って失敗したと思った教材」(図20)について安河内哲也氏は、「広告でうたわれる効果があまりに高いので、期待値が上がりすぎ、実際使ってみてがっかりするのではないでしょうか。『ラクラク』『あっという間に』英語ができるなんていう誇大広告を信じてはダメ。語学の習得には、時間と努力が必要です。聞き流すだけでできるようになんてなるわけないですよ」とばっさり。耳が痛い人も多いのではないだろうか。

必要なのは、時間と努力だけではないようだ。英語学習への投資額では、高得点者のほうが投資額が高いという傾向が出た(図21)。スコアが高い人ほど買った教材数が多く、一方で同じ教材を長く使い込んでいることもわかる(図22、23)。両氏によると、英語のレベルや学習分野によって、必要な教材の種類や数が変わってくるためではないかという。

まず、文法や発音については、教材をたくさん買う必要はない。「1回やっただけでは覚えられません。10冊を1回ずつやるより、1冊を10回やるほうが10倍伸びます」と安河内氏は説く。

ある程度英語のレベルが上がってくると、文法や発音を決まった書籍で学ぶという学習法からシフトする必要があると山崎将志氏は言う。「たとえば、英語の新聞や雑誌を読んだり、英語のニュースやドラマを見たりする。こうなると、『英語を学んでいる』のか『英語で情報収集をしている・楽しんでいる』のか、わからなくなってきますね」。

安河内氏も、リスニングやリーディングは、特に英語のレベルが上がるほど「多読、多聴の比重を高めるべき」と説いている。このため、上級者ほど必要な教材の冊数は増えていく。

日本は「英語教材天国」(安河内氏)と言われるほど、教材の種類が多い。どれがいいのかわからず迷うほどだ。

山崎氏は、「日本は、『もっとも英語ができなくて、もっとも英語教材市場が大きい』と言われています。正しい勉強法を知る人が少ないから、教材ばかりが増えているのではないか」と言う。

「文部科学省が2009年度に行った調査によると、中学校の英語教師約2万8000人のうち、英検やTOEICを受けたことがある人は6割弱。そのうちTOEIC730またはそれに相当するレベルに達した人は、約6700人と全体の約24%にすぎません。つまり、中学校の英語の先生でさえ、英語学習の成功体験を持たない。正しい勉強法を知らないのに、英語を教えている状況なのは大問題でしょう」(山崎氏)

また、TOEIC730以上のうち、簡単な商談や取引が英語でできる人は46.7%と、半数に満たない(図24)。同じ高得点者でも英語を使える人と使えない人がいる。その差は何だろうか。

英語の学習を楽しんでいるかについては、それほど開きがない(図25)。安河内氏は「英語が好きな人のなかにも、『英語を使うのが好き』な人と、『英語の試験でいいスコアを取るのが好き』な人がいますからね」と話す。

その違いが、英語で伝えたい「中身」があるかどうかの差に表れたようだ。英語で商談ができる人(以下、「できる人」)のほうが、そうでない人(同、「できない人」)に比べて英語で伝えたいことがあると答えた割合が16.5ポイントも多い(図26)。

山崎氏は、「『先週はどんな1週間でしたか?』と聞かれて『普通の1週間でした(It was a normal week.)』としか言わない人は多い。英語力の問題ではなく、伝える中身がなければ、英語の使い手としてはダメでしょう」と話す。

学習内容についても見てみよう。「できない人」は、TOEIC対策をした割合が8ポイント高い(図27)。これについて安河内氏は、「TOEICで高スコアを出す人には2種類います」と説明する。

「まず、『テストおたく』。参考書などを使ってしっかりTOEIC対策を行い、試験テクニックでスコアを伸ばすタイプです。もうひとつは、英語の実践力を高めるうちに、自然にTOEICスコアが伸びたタイプです」。これはそのまま「できない人」「できる人」に分類できそうだ。

学習法では、もっとはっきりした差が出た(図28)。「できない人」は書籍の教材やセット教材が中心。これに対し、「できる人」は洋書や英語の新聞、雑誌、映画、ドラマ、ニュースなど、「生の英語」が中心だ。山崎氏は、「参考書などの教材ばかり使っているうちはダメ。(『できない人』たちは)TOEICの勉強ばかりしているのでは? それでは730以上取れたとしても、英語が使えるようにはなりません」と言い切る。

山崎氏は著書の中で、24人のネーティブにTOEICを受けてもらうという「実験」を行っている。その結果は、全問正解者はゼロというものだった。「TOEICは、リスニングとリーディングの力は測れますが、必ずしも総合的なビジネス英語の力を反映するものではないといえるでしょう」(山崎氏)。

安河内氏が強く勧めるのは、TOEICスピーキングテスト/ライティングテスト(TOEIC S&W)だ。「このテストは、書いたり話したりという、実務に即した本当の英語力を測ることができます」(安河内氏)。これを受けると、自分が「できる人」「できない人」のどちらに該当するかがわかるはずだ。

安河内氏は「TOEICが990でも、英語が話せない『テストおたく』がごろごろいます」と手厳しい。スコアだけを追い求めるのではなく、使える英語を身につけたいものだ。

※すべて雑誌掲載当時

(大井明子=文)