【三ツ谷 誠】キオクシア株1か月で7割安の大暴落…投資家の”戦場”でバブル崩壊の引き金を引いた2社の名前

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1か月で約7割の株価下落、キオクシアという戦場

波乱の7月相場が終わった。筆者は証券会社に入社してから長い時間(40年近く)、株式市場を見続けてきているが、今回のキオクシアの株価推移については、その値動きの激しさ(ボラティリティの高さ)について、仕手株以外には、他の事例を知ることがない。信用買いの残高やその推移からも、投機性の高い個人投資家が「バスに乗り遅れるな」と、5月から本格的に始まったこの相場に参加したのだろうと推察するが、少なくとも現時点(2026年8月1日)において、どれほど多くの参加者が手痛い傷を負ったことか、財産を失ったことか、想像するのも怖い感じがしている。

笑われるかも知れないが、目を閉じて浮かぶのは戦国時代を題材にした映画やドラマの1シーン、戦が終わった戦場、そこに横たわるもう動かない兵士たちの姿だ。その連想が働くほど、この7月の急落は激しいものだった。

自作のため見にくいチャートで恐縮だが、図1は4月1日からのキオクシアの株価推移をローソク足でグラフ化したものになる。4月1日、2万780円から始まった相場は、5月15日の2026年3月期の決算発表を受けて類をみない大相場を形成、6月22日には最高値11万2700円を付けてみせた。

それが一変、7月は急な坂道を転げ落ちるような相場に変わり、7月30日には足元での最安値3万6020円を付け、実に6月22日の高値から68%、約7割株価下落を記録した。単位株が100株なので、1,127万円で買った投資家は、わずか1か月で766万8000円を失った計算になる。

筆者はまさにその最高値の6月22日に、トヨタ自動車を時価総額で抜き日本一の時価総額を記録したキオクシアを採り上げ、それがなぜ東芝自身ではなかったのか、に焦点をあてた記事を寄稿している(参考記事:キオクシア時価総額1位…なぜ"東芝"にはできなかったのか?スペースX上場から学ぶ日本企業「必敗の構造」)。そうしたこともあって、その後もキオクシアの株価は注意深く見守っていたので、本稿では何がこのような激しい相場の背景にあるのか、また、今後、キオクシアの株価推移をどう考えるのか、について自分なりの考えを記してみたい。ただ、論点は多岐に亘るので、本稿では重要なポイントのみに焦点を絞っている、そこは断っておきたい。

バブル崩壊の引き金を引いたもの

さて、前出の記事にも書いたが、キオクシアの相場の背景にあるものは、想像を超えたAIの社会実装のスピードとそれを推し進める米国のハイパースケーラー(メタ、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト)の莫大なデータセンターへの投資となる。キオクシアについて言えば、そのためのNAND需要の爆発的な増加が、2027年3月期第1四半期の予想純利益を前期比48倍の8,690億円に押し上げる、との5月15日の2026年3月期決算発表が、大相場のきっかけとなった。

ただ、それはこの領域でキオクシアを圧倒するシェアを持つ韓国のサムスンやSKハイニックスにおいても、更に大きなスケールの爆発的な利益増加をもたらすものでもあり、AI相場は韓国においてもキオクシア相場以上のスケールで展開されることになった。

第一、長期記憶用のNANDだけでなく短期記憶用のDRAMにおいても彼らは圧倒的な巨人なので、韓国の市場の狂騒度合いは我が国を凌ぐものになる。また、米国で同様にNANDを提供するサンディスクもまた、キオクシア同様の株価形成が成されていった。生成AIの登場以降、半導体相場はAIの大相場を形成していったが、この春からの相場は先進国の国家予算にも匹敵するデータセンターへの投資と、その恩恵を享受する関係各社の相場に変わっていった。

嘗てITが社会実装されていく最初の段階でITバブルが形成され、それが弾けたことが引き合いに出され、この相場もまたAIバブルではないか、という懐疑が語られていたが、明らかに異なるのはそこには実際に莫大な投資が存在し、実態がある、ということになる。しかし逆に投資の主体者であるハイパースケーラーは、その莫大な投資に見合う利益を本当にあげていけるのか、ここには本質的な懐疑が存在しているし、フリーキャッシュフローの状況や資金繰りにかかる様々な報道が、その時々において相場を揺らしていたのは間違いがない。また、そうは言っても全ての株価は国際政治のなかにあり、現状においては中東でのイランと米国の駆け引きや動きに全体の相場は揺れ動いていて、AI相場もその影響は受けて動いていた。

さて、そうした相場において筆者が今回の7月の下落に一番大きく作用した材料と考えるのは、図1に示した通り、6月29日に発表されたサムスンとSKハイニックスの(当時の日経報道では83兆円と示された)投資計画の発表になる。チャートを見ていただければ、この材料が好材料としては捉えられず、需給逼迫のなか高値となっているメモリー価格の中期的な下落の材料(繰り返されてきたシリコンサイクル、好景気での設備投資が供給過多の状況を生み、価格が下がり、利益も萎む構造)と解釈されたのが明白だろう。

7月末の決算発表で語られたこと

もちろん、実際に顧客の需要に応えられず、生産を拡大する必要も、今回こそはこれまでとは違うという経営サイドの確信も、結局はこの産業は好景気において莫大なキャッシュを得た企業が、そうは言っても思い切った投資を行うことで、逆に苦境に耐えれない企業を淘汰し、生き残って、更に巨大化していったという歴史を踏まえた決断もそこにはあると理解する。また、どこかの国が17もの領域をカバーしようとするなか、そこしかないという事情はあったとしても今回のサムスンとSKハイニックスの投資の背後には、韓国の国家としての戦略がある、そこも理解できる。

ただ、相場、として考えれば、今回のとりあえずのAIバブルNAND編の少なくとも第1章の終焉には、この材料がとても大きく働いたと筆者は考える。実際、韓国においてもそれ以後、サムスンもSKハイニックスもキオクシアのチャートの相似形のように株価が急落している。それはサンディスクも全く同じだ。

株価急落に関しては他に7月27日の中国CXMTの上海上場、それによって調達された1兆6000億円という資金が設備投資に使われ、まずはDRAM領域でもあるが「追い上げる中国」という価格崩壊をもたらす大きな要因として指摘されてもいたし、より上流の話題にはなるがムーンショットAIの話題もハイパースケーラーの莫大な投資を無化させてしまう要因になる、との指摘もあった。また、キオクシアの相場に限れば技術的な水準でもキオクシアの最大のライバルと考えられる中国YMTCの上場も近くに迫っている。ただ、現実に目を戻せば、半導体の領域においては政治的な要因が強く働き、その脅威は同じ米国を中心とする陣営の側に立っている競合であり、既にこの領域の巨人であるサムスンやSKハイニックスの投資のほうが、実際の需給に与える影響は大きい筈だ。株価に意味を見出すのであれば、その恐怖こそが最初のバブルを弾かせた要因と筆者は理解する。

(中国の国家を挙げての製造力強化について言えば、半導体もまた鉄鋼の二の舞を舞う、と警戒する声があるが、そうはならないのではないか。鉄については以前、別の記事でも触れたが、あそこまで中国の高炉を育て上げたのは、20世紀後半、先の大戦の贖罪意識も強く持っていた当時の新日本製鉄であり、それが何をもたらしたか、を日本も、そして米国も理解している。また、米国の政策はオバマ政権の後期から第一次トランプ政権でも、バイデン政権でも、第二次トランプ政権でも、トランプの振る舞いや口ぶりで同盟各国が戸惑う場面はあっても、実は共産中国の封じ込めで一貫しており、まさにAI革命が開きつつある未来社会において、その社会の基礎をなす半導体領域では、米国は20世紀後半の日本ほど甘い国家で中国の台頭を許す、とは筆者は思わない。激しい規制がそこでは自由経済を縛りあげるだろう)

キオクシアの、NANDの相場に戻れば、その恐怖が相場を突き崩していった、と筆者は考える。だから、その恐怖が克服されるためには、逆にサムスンやSKハイニックスが、なぜそれほどの増産投資を行うのか、について、それがこれまでとは異なるものだ、と語れるかどうか、にかかっていた。また、キオクシアが継続的な受注に自信があるのか、それはこれまでとは異なる性質を持つ、と語れるかどうか、にかかっていた。7月末の各社の決算発表で何が語られるか、にかかっていた。

結論から言えば、市場の反応には濃淡はあったが7月29日のSKハイニックス、7月30日のサムスン電機、7月31日のキオクシアの決算発表で語られていた見通しは総じて、この需要がこれまでとは異なる需要であることが語られていた。また、その大元をなすハイパースケーラーの決算発表についても7月月末に集中し、ビジネスモデル的に広告収入に頼るメタはやはりきつい印象はあったが、クラウド最大手であるアマゾンの好調さは目を惹き、とりあえず市場を覆っていた不安は一掃された感じがある。それはそのまま株価に反映し、急落していた相場がとりあえず下げ止まった感じで7月は相場を終えている。

後編記事〈1か月で株価7割安「キオクシア」の逆襲…株式分割、自社株買いだけではない"第2波"の根拠〉ではこの暴落の後にキオクシアがどこへ向かうのか、筆者の見立てを紹介する。

三ツ谷誠

早稲田大学大学院修士課程修了。野村IRを振り出しに三菱UFJモルガン・スタンレー証券や三菱UFJ信託銀行でIRコンサルタントとして活躍。証券では投資銀行本部に所属し、IRコンサルティング部長としてIPOやM&Aに絡むIRサポートなどを経験。三菱系企業のIR活動の起ち上げやロンドンで三菱系有力企業を集め評判を呼んだロンドンカンファレンスなどを企画した。2018年に独立。投資家や社会との「対話」がIR活動であるとの理念から社名にはPRを冠している。一時期、村上龍氏主宰のJMMに寄稿家としても参加。著書に『実践IR 自社株マーケティング戦略』『ぼくらの経済民主主義』『少年ジャンプ資本主義』など。

John0930@outlook.jp

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