プロ野球オーナー代表と選手会の“遅すぎる初会合”…なぜNPBは大リーグやJリーグから学ぼうとしないのか 求められる“メンツ”と“プライド”の世界からの脱却
プロ野球オールスター第1戦が行われた7月28日、都内でプロ野球オーナー会議の代表者とプロ野球選手会が協議を行い、共同声明を発表した。両者が同じテーブルに着いて直接会談するのは、1985年に選手会が労働組合として認定されてから初めて。新聞各紙は、「歴史的初会合」などと見出しをつけてこの出来事を報じた。あまりにも遅すぎる初対話、交流の始まり。確かに歴史的なスタートには違いないが、その実体は疑問符だらけで、まだまだ行く末が案じられる。【小林信也(作家・スポーツライター)】
【画期的な会だった】選手会との初会合に臨んだDeNA・南場智子オーナーの姿
メジャーリーガーの16分の1の収入
スポーツニッポンは次のように報じている。

<選手会長のソフトバンク・近藤は「歴史的な日になった。転換期だったと言われるように力を尽くしていきたい」と責任感をにじませた。
プロ野球のオーナーと選手にはこれまで「壁」があった。04年の球界再編騒動では、当時の巨人・渡辺恒雄オーナーから「たかが選手が」と選手を軽んじるような発言もあった。20年以上経過し、労使関係は変化。競技人口減少などの課題を共有し、「野球くじ」を含めた事業拡大などを図るため協調路線を歩む姿勢を明確にした。今回は、大リーグとの環境面の格差に危機感を覚えた選手会側が要望し実現した。各球団の選手会長ら約30人の現役選手が参加。今後も年に一度、協議していくことで合意した。巨人・山口寿一オーナーは「非常に有意義だった」と感慨を込め、DeNA・南場智子オーナーは「画期的な会だった」と語った。>
なぜか詳述されていないが、「大リーグとの環境面の格差に危機感を覚えた選手会側が要望し」とある、そこが課題の核心のはずだが、新聞、テレビの大半は玉虫色の報道にとどまり、ズバリ、重要な改善点にメスを入れてはいない。それはあくまでNPBはオーナーたち、つまり経営者たちが実権を握る組織で、その牙城は固いという現実を示唆しているのだろう。
“大リーグとの環境面の格差”を具体的に挙げれば、第一に年俸の大きな開き。
2026年のNPB年俸ランキングは1位が選手会長の近藤健介(ソフトバンク)で5億5000万円、2位が山田哲人(ヤクルト)、近本光司(阪神)、浅村栄斗(楽天)らの5億円と推定されている。一方、MLBは1位が大谷翔平(ドジャース)約110億円、2位カイル・タッカー(ドジャース)約94億円、3位ファン・ソト(メッツ)約80億円と続く。日米ではトップを比べても20倍の開きがある。平均年俸はNPBが5216万円、MLBは8億4000万円。日本のプロ野球選手の平均年俸はメジャーリーガーの16分の1にも満たない。
しかも、1995年に野茂英雄投手が渡米した頃、MLBとNPBの年間事業規模はいずれも約1500億円で、ほぼ同じ水準だったとの報告もある。ところが、ストライキによる人気低迷の危機感を共有したMLBはそこから抜本的な組織改革を進め、結果、日米の年俸の差は桁違いの開きを生じた。2024年にはMLBは約1兆8800億円の最高収益を記録したという。
システムの根本的な刷新を
つまり、日米の格差はこの約30余年の間に生まれたものだ。日本の12球団は一体何をしていたのか? もっと痛烈に批判され、選手会だけでなく、ファンから大改革を求められても当然なのだ。ところが、オーナー会議の中枢を占めていたのが読売巨人、つまり大手メディアだった影響もあってか、オーナー側はほとんど非難を浴びることなく、粛々と12球団の既得権益を確保する方向でばかりプロ野球を運営してきた。そのことが、野球人気の低迷、野球人口の減少に拍車をかけてきた現実すら、あまり共有されていない。
スポーツ文化評論家の玉木正之さんから聞いたことがある。かつてスポーツ立国構想の一環で、「野球にもスポーツくじを」と一部国会議員たちが声を上げたことがある。ところが、読売・渡辺恒雄氏の一喝で立ち消えになったのだという。その時の話だ。
「ナベツネが拒否した理由が単純というか、『サッカーが先に導入したもの(スポーツくじ)を野球界が後から真似することはしない』と、たったそれだけの理由」
野球界のメンツとプライドがスポーツくじ参入を頑なに拒否した理由だったというのだ。
時代が流れ、野球界もサッカー界の真似をする方向に舵を切ろうとしている。それならば、もっと重要かつ、根本的なシステムの刷新をサッカー界から学び、実行すべきだと私は提言する。
それは、プロ野球界も12球団制から脱却して、「プロ野球Jリーグを誕生させよう!」という提案だ。全都道府県に最低1チームずつプロ野球チームを誕生させ、各チームがジュニア、ユース、シニアのチームも作る。普及と育成を一体化した地域密着の総合型球団へと生まれ変わる。部活の地域移行にも対応できる上、将来、高校野球も「脱甲子園」「高校部活の地域移行」も見据えた高校年代のクラブづくりも視野に入れられる。
プロ野球の12球団オーナーたちは、自分たちの既得権益を確保するのを最優先にして、Jリーグに学ぶどころか、MLBを手本にすることさえしなかった。言うまでもなく、Jリーグの全国ネットワークの仕組みは、MLBのマイナーリーグの組織とも似ている。ところが、日本のプロ野球は、全国津々浦々にマイナー球団を置くMLBにさえ学ばなかった。
プロ野球を変えていく方向へ
もうひとつ、MLBとの環境面の違いで挙げられるのが、「年金制度」だ。
日本のプロ野球にもかつては年金制度があり、15年以上の加入者に毎年142万円が支給されていた。が、財源不足を理由に2011年に廃止され、いまは年金制度が存在しない。わずかに、2016年から、「支配下10年以上選手養老補助制度」が導入され、55歳と60歳の時に各50万円がNPBから支給される制度だ。ないよりいいが、あくまで一時金。
一方、MLBで10年間プレーしたら、年間27万5千ドル(約4400万円)もの年金が62歳から生涯支給される。10年以下でも、例えば5年なら50%だから約2200万円だから、老後の安心が日本とは段違いだ。
NPBでも、一刻も早く「年金制度」を復活させるのが喫緊の課題だと私はずっと主張している。もし老後の生活を心配せず暮らせるならば、プロ野球で活躍した名選手たちは半ばボランティアで野球の普及に献身することだってできる。社会的な地位も格段に向上するだろう。引退後、お笑い芸人にいじられながら笑いを取る必要もなくなるだろう(私はこの現象が、実はプロ野球の地位を下げていると案じている)。
MLBの生涯年金の財源は放映権料、ライセンス料など、すべてMLBの収入から充てられているという。選手は負担する必要がない。日本でも、NPBの収益の一部を年金の原資にすれば同様の制度確立は可能だろう。いや、現状の収益レベルで無理ならば、大幅な増収増益を可能にする制度改革をすることで財源の確保も現実化するだろう。
これらの課題を第一回の会合で指摘するのは無理だったにしても、選手会が求める方向性はここにあるのだと私は信じている。いつまでもオーナーが自分たちの権益を守るためにプロ野球を「変えない」のでなく、もっと本質的にプロ野球を変える方向へ、今回の「歴史的会合」がその幕開けになることを熱望する。ファンも私たち発信者も、強い決意を持って、新しい流れを一緒になって作っていきたいと願う。
スポーツライター・小林信也
デイリー新潮編集部
